(バクーで10日行われた「戦勝」パレードで、壇上に並ぶトルコのエルドアン大統領(左)とアゼルバイジャンのアリエフ大統領【12月12日 朝日】)
【「新オスマン主義」の華やかな成果 アゼルバイジャン「戦勝」パレード】
トルコ・エルドアン大統領の「新オスマン主義」とも評される積極的な外交・軍事については、10月2日ブログ“トルコ 「新オスマン主義」とも評される強気の外交姿勢 各地で軋轢も”でも取り上げたところです。
それに伴う「軋轢」としては
東地中海では、キプロス・ギリシャ・フランスと、シリアではクルド人勢力、シリア政府・ロシアと、リビアではフランスやロシアなどと、ロシア製ミサイル導入ではアメリカと。
そして、アゼルバイジャンを支援して、アルメニア・ロシアと。
こちらは、アゼルバイジャン・トルコの会心の勝利に終わりました。エルドアン大統領としても意気揚々といったところでしょう。
****旧ソ連圏、トルコ存在感 アゼルバイジャン「戦勝」パレード ナゴルノ停戦****
トルコのエルドアン大統領は10日、アゼルバイジャンの首都バクーで行われた同国の「戦勝」パレードに主賓格で出席した。
9~11月に続いたナゴルノ・カラバフ地域をめぐる同国とアルメニアの軍事衝突で、エルドアン氏は各国が即時停戦を求める中でも一貫してアゼルバイジャンを支援。この日も演説で「栄誉ある勝利だ」と同国軍をたたえ、旧ソ連圏での影響力拡大を印象づけた。
パレードは、ロシアが仲介した停戦合意が発効して1カ月の節目で行われた。
現地からの報道によるとバクー中心部の広場で約3千人のアゼルバイジャン軍兵士が行進。戦車などの車両や今回の軍事衝突で威力が注目されたトルコ製の無人攻撃機などのほか、戦闘でアルメニア軍から奪ったという装甲車両など「戦利品」も披露された。行進にはトルコ軍兵士も加わり両国の結束を強調した。
軍事衝突は9月27日、1990年代からアルメニアが実効支配してきたアゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフ地域とその周辺で勃発。和平協議で議長国をつとめる米国、フランス、ロシアの首脳が即時停戦を呼びかけたのに対し、エルドアン氏は3国を非難し、アルメニア軍撤退を停戦条件にしたアゼルバイジャンを支援した。
戦闘は44日間続き、アゼルバイジャン軍がナゴルノ・カラバフ地域南部を制圧。アルメニアは停戦合意で周辺地域からの撤退を受け入れた。
アゼルバイジャンは自国兵士の死者数を明らかにしてこなかったが、今月3日に2783人と発表。市民の犠牲も含め、双方の死者は5千人を大きく上回ったことになる。【12月12日 朝日】
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【マクロン大統領との舌戦 同日で2件の制裁が報じられる】
一方で、積極的外交・軍事に伴う「軋轢」を代表するのが、フランス・マクロン大統領との険悪な関係。
****トルコ大統領、「マクロン仏大統領の排除」望むと発言 舌戦に拍車****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は4日、フランスのエマニュエル・マクロン大統領を同国にとっての「問題」と評し、同国がマクロン氏をできるだけ早く「排除する」よう望むと発言した。両首脳の舌戦に拍車を掛けた格好だ。
エルドアン大統領は同日、イスタンブールで金曜礼拝に出席した後、報道陣を前に「マクロン氏はフランスにとっての問題だ。同氏がいるから、フランスは非常に危険な時期を過ごしている。フランスが同氏をできるだけ早く排除することを望む」と述べた。
トルコとフランスは、地中海東部における緊張やアゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる紛争など、さまざまな問題で対立している。 【12月4日 AFP】
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戦争をしている訳でもない国の指導者を、ここまで直接的にけなすというのは、良くも悪くも、穏健な日本外交とは異質です。
舌戦にとどまらず、トルコには積極外交・軍事の対価としての「制裁」も課せられそうです。
****米、対トルコ制裁発動へ ロシア製ミサイル購入巡り=関係筋****
米国は、ロシア製地対空ミサイル「S400」の購入を巡り、トルコに制裁を科す見通しだ。米政府当局者を含む複数の関係筋が10日、ロイターに明らかにした。すでに問題を抱える両国の関係がさらに悪化するとみられる。
制裁は近く発表される可能性があり、トルコ国防産業当局の責任者イスマイル・デミル氏が対象になる見通し。一部のアナリストが想定している厳しいシナリオほどの影響はないとみられるものの、トルコに打撃を与えることになる。
これを受け、トルコリラは一時1.4%下落した。
トルコ政府高官は、二国間の関係悪化につながると指摘。「制裁は非生産的で、関係を阻害する。トルコは外交や交渉を通じた問題解決を望む。一方的な制裁は受け入れない」と述べた。
トルコのエルドアン大統領と協力的な関係を築いてきたトランプ米大統領は、アドバイザーらの助言にもかかわらず、トルコへの制裁に反対してきた。
しかし関係筋によると、トランプ氏が行動を取らないとしても、制裁は発動される見通しという。
米上院が週内にも採決を実施する見込みである年間7400億ドル規模の国防権限法案の最終版で、トルコへの制裁を30日以内に科すことが義務付けられているからだ。
関係筋によると、制裁の発表は11日になるとみられるが、早ければ10日にも行われる可能性がある。
トルコは昨年、ロシアからS400を購入。北大西洋条約機構(NATO)の防衛システムに統合することはなく、脅威にならないとしているが、米国はこれを脅威と受け止め、米ロッキード・マーティンが中心となって開発する最新鋭ステルス戦闘機「F35」の共同製造プログラムからトルコを除外した。【12月11日 ロイター】
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****トルコに追加制裁へ=東地中海の資源開発で―EU首脳会議****
欧州連合(EU)は11日、ブリュッセルで開いた首脳会議で、東地中海の資源開発をめぐり、加盟国のギリシャやキプロスとの対立が続くトルコに、追加制裁を科すことで合意した。現在、トルコの国営石油会社幹部らに科しているEUへの渡航禁止や資産凍結の制裁措置に新たな対象者を加える。
ギリシャやフランスはより厳しい制裁を科すよう訴えていたが、今回は見送られた。一方で、ボレル外交安全保障上級代表(外相)に対し、EU・トルコ間の政治や経済、貿易関係の現状報告や制裁措置の拡大を含めた対応策を来年3月までに示すよう指示した。【12月11日 時事】
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同じ日に、異なる国・地域からの、異なる問題に関する制裁が報じられるというのは、そうそうあることではありません。
もちろん、エルドアン大統領はこうした制裁を気にするようなタマではありませんが。(少なくとも表面上は)
外圧というのは、一時的に国内求心力を高めることもありますし。
【感染自体の透明化で「感染者数」で世界3位に急浮上 ワクチンの早期接種に前のめり】
エルドアン大統領にとって、制裁以上に悩ましいのが国内の新型コロナ感染状況ではないでしょうか。
****新型コロナ「感染者数」で世界3位に浮上したトルコ 感染急拡大でワクチン確保に躍起****
新型コロナウイルスの世界の感染者が6000万人を超えた。特に欧米各国での感染拡大に歯止めがかからない。そんな中、トルコ政府が11月25日に発表した「感染者数」に注目が集まっている。
トルコ政府は7月下旬以降、症状がある「患者数」のみを公表し、陽性でも無症状の人はカウントしてこなかった。しかし、ついに日本や欧米など多くの国と同じく、無症状でも陽性が確認された人を含む「感染者数」の発表に踏み切った。
その数、2万8351人。
同日、症状がある「患者数」は6814人だったことから、およそ4倍だ。医師会や野党はこれまでも政府が感染の実態を隠していると批判し、陽性者全体の数を発表するよう追求してきたが、コジャ保健相は記者会見で今回の発表を「国民の要望に基づいて発表した」と説明した。
4カ月公表しなかった「感染者数」をなぜこのタイミングで発表したのか?そこには、世界各国のワクチン獲得競争が激しさを増す中で、トルコが抱えるジレンマが垣間見える。
「感染者数」で世界3位に浮上
この発表を、トルコメディアも一斉に伝えた。
ソズジュ(大手紙):「コジャ保健相が本当の感染者数を公表したら、トルコはヨーロッパ首位になった!」
レマン(風刺漫画誌):「感染者数でヨーロッパ首位、世界3位!9カ月もの間、われわれは真実の数ではなくうその数にだまされていたのか?」
医師会は早速、政府の姿勢を強い言葉で糾弾した。
イスタンブール医師会:「政府はコロナが始まってから今まで、理性と科学に従わず不足だらけで一貫性のないその場しのぎの対策を講じてきた。コロナ対策においてトルコは世界最低水準であり、政府が重視してきたのは国益だけだ。責任はコジャ保健相を任命したエルドアン政権にある。現政権の思考回路こそが障壁だ。保健相は辞任せよ」
このコロナ禍、まさに命を賭して患者の治療にあたるドクターらの声は極めて重みがあり、政権も無視できないだろう。
一方、野党党首らも手厳しい。
民主主義進歩党 ババジャン党首(元副首相):
「なぜ数カ月にわたり公表しなかったのか。国民の健康を危険にさらしてこなかったか。(今回発表された)これらの数字も、どれだけ信ぴょう性があるかわからない」
未来党 ダウトオール党首(元首相):
「10月に、感染者と患者数は別だとして国民を愚弄するのはやめろと警告したが、政府はようやく公表した。もはや誰も政府を信頼していない。政府はこの国を台無しにしている」
優良党 アクシェネル党首:
「感染者を公表したのだから、2週間の完全ロックダウンを行うべきだ」
感染急拡大で再びロックダウン
実際、トルコでは11月に入ってから感染が急拡大していて、25日に発表された1日あたりの死者数は168人と過去最多、累計1万2840人となった。
20日からは再び部分的ロックダウンも始まり、学校は全学年で再びオンライン授業になったほか、レストランはテイクアウトとデリバリーのみ営業可、映画館やサッカー場は閉鎖、高齢者と若者は外出可能時間が定められるなど、市民生活が大きく制限されている。政府は今後、必要に応じて外出規制時間の拡大など規制を強化する構えだ。
一方で、国民にこれだけ行動制限を強いているのにも関わらず、トルコ政府は7月に再開した外国人観光客の受け入れを止める様子はない。
現在、トルコでは国・地域別の入国制限も自主隔離も必要ない。ホテル内のレストランも宿泊客を対象に営業している。つまり、外国人観光客には大甘なのだ。
経済が低迷し観光収入が激減する中、背に腹は代えられないといったところだろうか。しかし、対面授業を禁止して子供から十分な教育機会を奪う一方、感染拡大リスクを顧みず、外国人観光客からの外貨収入は諦めない。こうした姿勢こそが、医師会や野党が「国益だけを追求している」と批判するゆえんなのかもしれない。
ワクチン確保を急ぐトルコ
感染が急拡大する中、トルコ政府はワクチンの確保にも躍起となっている。コジャ保健相は25日の記者会見で、中国のシノバック・バイオテック社から、5000万回分の新型コロナウイルスワクチンを購入する契約を結んだと明らかにした。既に1000万回分はトルコに出荷されている。
これが実現すれば、同じくシノバック社から4600万回分を調達予定のブラジル・サンパウロ州を抜き、トルコは中国製ワクチンの買い手として暫定世界一となる。
トルコ政府はあわせて、アメリカのファイザー社やドイツのビオンテック社などとも交渉しているほか、トルコ独自のワクチン開発も進めていている。世界的なワクチン争奪戦が過熱する中、人口が8000万人を超えるトルコにとって、ワクチン確保は急務といえるだろう。
トルコ政府は今回、無症状でも陽性が確認された人を含めた「感染者数」を公表したが、実際の数はこれよりもはるかに多いと指摘する声もある。コジャ保健相は、イスタンブールなどの大都市では「第3波が発生している」と明言していて、ICU占有率もイスタンブールで約70%(11月25日)とひっ迫してきている。これ以上の感染拡大を防ぐためにも、トルコ政府が進めるコロナ対策にはさらなる透明性の確保が求められている。
【11月27日 FNNプライムオンライン】
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「さらなる透明性の確保」の結果、累計感染者数が「前日比約119万人増」という事態に。
「前日比」、つまり1日で119万人増えたということです。
****コロナ感染「1日で119万人増」=トルコ、統計修正を反映****
トルコ保健省は10日、国内で確認された新型コロナウイルスの累計感染者数が「前日比約119万人増」の174万8000人超になったと発表した。これまで累計数に反映されていなかった症状が軽微な患者をこの日から過去にさかのぼって含める形にしたため、統計上の数が急増した。
保健省は11月25日、これまで「患者」として発表してきた数の中に無症状や症状の軽い人が含まれていなかったことを認めた。これ以降、1日当たりの「患者」以外の感染者数も公表するようになったが、25日以前の分については「患者」のみにとどまっていた。
今回の修正で、累計感染者数は中東最多のイラン(約110万人)を大きく上回り、世界的にも感染拡大が深刻な英国やイタリア、スペインとほぼ同じ水準であることが判明した。トルコでのこれまでの死者数は1万5700人超となっている。【12月11日 時事】
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国内批判をかわすためにも、なんとか早急なワクチン接種を・・・ということで
****トルコが世界最速のワクチン接種国に?中国製コロナワクチンがそろそろ到着****
12月2日、トルコ保健省のファフレッティン・コジャ長官は、12月11日以降に中国製新型コロナウイルスワクチンの接種を開始する計画を明らかにし、順調にいけば、トルコは世界で最初に新型コロナウイルスワクチン接種を行う国の一つになるだろうと述べた。
トルコは先頃、新型コロナウイルスの流行に対応するため、中国のバイオ医薬企業「科興控股生物技術(SinoVac Biotech)」と5000万回分のワクチン購入契約を締結したが、ワクチンの最初の出荷分が12月11日以降にトルコに到着することも明らかにされた。
中国ではすでに5種類の新型コロナウイルスワクチンが、発売前に行われる最終臨床試験の段階に入っている。トルコのイスタンブールで行われている新型コロナウイルスワクチンのフェーズ3の臨床試験では重篤な副作用は確認されていない。【12月8日 36kr.Japan】
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その後どうなったかのかは確認できていませんが、エルドアン大統領にとっての「大敵」は、アルメニアでも、フランスでも、アメリカでもなく、新型コロナでしょう。