
【8月20日 毎日】
【支持率急落のマクロン大統領 「支配欲の強い人間」?】
フランス・マクロン大統領は、“中道・独立系”としてダークホース的存在にすぎなかった大統領選挙では、左右既成政党の混乱・もたつきで中央に空いた大きなスペースを一気に駆け抜ける形で極右ルペン氏に大差をつけて勝利。
就任早々、プーチン大統領やトランプ大統領を相手に一歩も引かない“強い指導者”をアピールし、国民支持を高めました。
その後の新党を率いて臨んだ議会選挙でも、“風”をつかむ形で、与党の新党「共和国前進」が単独過半数の308議席を獲得、連携する中道政党「民主運動」と合わせ計350議席となり、全体の約6割を得る大勝となりました。
ただ、直前予測では400を大きく超えるとも見られていましたので、バランスをとるような有権者の調整が働いた・・・とも評されました。
その後の支持率推移を見ると、国民の支持率自体が天井をうって、下降局面に入っていたこともわかります。
特に、8月に入ると、あれほどの“風”を起こした世論の支持が、急速にマクロン大統領から離れていきつつあることが報じられています。
****<マクロン仏政権>緊縮策で支持率急落 外交舞台では存在感****
フランスのマクロン大統領(39)が5月に史上最年少で就任してから、21日で100日を迎える。
就任直後から、外交舞台で存在感を示すことに成功した一方、国内政策では財政立て直しのために歳出削減方針を打ち出したことなどが反発を招き、支持率は40%を切るまで急落。
今後も、公約の労働市場改革を進めるが、反発が予想されており難局が続く。
マクロン氏は就任後、オランド前政権で関係が冷え込んでいたロシアのプーチン大統領と会談をこなした。米国のトランプ大統領には、地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」にとどまるよう説得を続け、大国のリーダーと渡り合う姿を印象付けた。
さらに、7月には、国家分裂状態が続くリビアの暫定首相と武装組織の指導者の会談を仲介し、停戦合意にこぎ着けた。
しかし、外交舞台で存在感を示したマクロン氏の勢いは、内政への対応でそがれた。
マクロン政権は、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%以下に抑えるよう加盟国に求めている欧州連合(EU)の財政基準を満たすことを目指す。
このため、7月に学生や低所得者が受給する住宅手当や地方助成金を減額する緊縮策を発表。痛みを伴う改革に反発が広がった。
国防予算の削減方針も打ち出し、異論を唱えた仏軍の制服組トップのドビリエ統合参謀総長に対し、「私がボスだ」とクギをさし、ドビリエ氏の抗議の辞任に発展する事態となった。
また、治安政策でも不評を買った。マクロン氏は、パリ同時多発テロ(2015年11月)後に出された非常事態宣言を解除する代わりに、平時でも治安当局の権限を強化するテロ対策法の制定の方針を示し、「市民生活の制限になる」との反発を招いている。
こうしたマクロン氏の姿勢や政策は「支配欲の強い人間」(仏紙リベラシオン)と、国民の目に映っているとも指摘される。
調査会社IFOPが8月上旬に実施した世論調査では、就任後64%に達した支持率は36%まで下落。オランド前大統領の就任後の同時期(46%)を10ポイントも下回った。
マクロン氏は今後、主要公約の一つで、手厚い保護によって硬直化していると指摘される労働市場の改革を進める。IFOPのジェローム・フーケ氏(政治学者)が「(国民との)至福の時は終わりつつある」と指摘するように、反発する労組がデモを計画するなど、難しい政権運営を迫られそうだ。【8月20日 毎日】
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【労働規制緩和で、今後も厳しい政権運営】
マクロン大統領が進めようとしている労働規制緩和は、左派・労組の激しい抵抗を招くことが必至で、まさに“難しい政権運営を迫られそう”な状況です。
****労働規制緩和、政令で推進=関連法成立で混乱も―仏****
フランス上院は2日、労働規制緩和を議会承認なしに政令で規定することを認める法案を賛成多数で可決、同法が成立した。
マクロン政権は、企業が従業員を解雇する際の要件緩和をはじめとする改革を目指しており、労使双方との交渉を本格化させる。秋ごろに結論を得たい考えだ。一部労働組合は抗議活動も辞さない構えで、混乱が予想される。
労働規制緩和はマクロン大統領が4〜5月の大統領選で掲げた主要公約の一つ。周辺各国よりも手厚いとされる労働者保護制度を改めることで企業の負担を軽減し、経済成長の加速を狙う。
経営者側は従業員を解雇する際の補償金に上限を設けることを求めているが、一部労組は反発しており、争点の一つとなりそうだ。【8月3日 時事】
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【マクロン大統領が失速すれば、次は・・・】
既成二大政党が国民の信頼を失い、極右伸長を阻止する最後の砦でとも目されたマクロン大統領が国民支持を失い、オランド前政権のような状態になると、今は沈滞した感もある極右勢力が再び勢いを取り戻し、次回大統領選挙では・・・という懸念もあります。
****中道派のマクロン勝利もフランスにくすぶる極右の火種****
今年5月7日に行われたフランス大統領選決選投票で、中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏(39)が当選し、第5共和制第8代の大統領に就任した。
マクロン氏は就任後、「経済、社会、政治的分断を克服するべき」と主張し、これまでの伝統的政治体制を押し切る独立系ならではの意欲をうかがわせた。
欧州連合(EU)離脱を掲げる極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏(48)勝利の「惨事」は免れたが、フランス社会の実態は、想像以上に複雑だ。(中略)
他方、極論主義のルペン氏は、高齢者を中心とする市民層の支持が厚い。決選投票に駒を進められたのも、その影響が大きい。
マルセイユ近郊に住むジャック・コワントローさん(仮名=78)は、アルジェリア戦争を経験した元フランス兵。彼が常々、口にする言葉があった。
「昔のイスラム移民は、フランスの経済成長に貢献した。しかし、今は荒くれ者の集まりで、国を破壊している。口にしないが、そう思っている人々は実に多い」
こうした反イスラム感情をむき出しにするフランス市民は、彼ばかりではない。ルペン氏を支持する最大の理由は、今日のイスラム国(IS)問題以外にも、05年の移民暴動事件以来続く、国内の治安悪化に不満があるからだ。
パリ市内にある大モスクの指導者で、イスラム評議会会長のダリル・ブバクール氏(76)さえ、当初、「イスラム移民の2世、3世は、自らの存続意義を失い、コンプレックスとともに社会の混乱を招いている」と漏らした。
“敬虔(けいけん)”な極右支持者があふれる国で、歴代最年少の大統領を選出したのは、いかにも時代を先取りするフランスらしい。
だが、いつ極右の火種がぶり返しても不思議ではなく、また、二者択一でマクロン氏に一票を投じる他なかった若者たちは、新政権への不安を募らせている。
西部・シャラント県に住む保険会社研修生のアレクシ・グラビエさん(25)は、社会党の支持者だった。
「共和党と社会党の2大政党の敗退は驚きだった。決選投票では、マクロンに投票したが、彼は若く、経験が浅いところが不安。とにかく、EU離脱が消えて安堵した」
若年層にとって、フランスの孤立は想定外。国外で就職活動中のナタン・ビルヌーブさん(22)も、同じ考えだった。
「イスラム過激派に対する恐怖などの影響で、ルペンが決選投票に進んだのは理解できる。だが、フラグジット(フランスのEU離脱)には将来がないと思う」(中略)
世代の違いによる政治への期待と不安が露呈した今回の選挙戦で、結果は、EU離脱を拒む「スタトゥス・クオ(現状維持)」が勝利した。
しかし、立て続けに起こるテロ事件、不安定な経済─。歴代最年少大統領のマクロン氏が、今後、国内外の諸問題を乗り切れるのか。そのプレッシャーと課題は大きい。【7月24日 宮下洋一氏 WEDGE】
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【余裕のドイツ・メルケル首相 焦点は連立相手】
一方、欧州をけん引してきたドイツ・メルケル首相は、ここのところ若干支持率低下はありますが、一時急伸した社民党・のシュルツ党首を抑えて、9月24日の総選挙勝利はほぼ固いと思わせる底力を発揮しています。
反移民・難民の右翼政党AfDは、大勢を動かすほどの大きな勢いはありませんが、足切りラインを越えて議席獲得を実現すると予想されています。
****世界混迷、メルケル氏に期待感 来月ドイツ総選挙****
欧州最大の経済大国の行方を占う9月24日投開票のドイツ総選挙まで2カ月を切った。
メルケル首相率いるキリスト教民主・社会同盟(同盟)が優位に立つ。勝利すれば、戦後最長だったコール元首相に並ぶ、4期16年の長期政権への道が開かれる。
■支持回復、首相4選目指す
4選を目指す選挙が近づく中、メルケル氏は7月25日から3週間弱の夏休みに入った。「選挙戦も楽しむ心が大事」。雑誌社主催の座談会で夏の予定を聞かれたメルケル氏はこう語った。
余裕には理由がある。最新の世論調査で、2大政党の支持率は同盟の40%に対し、社会民主党(SPD)は23%にとどまる。
だが15年9月には、高い支持率を保ってきたメルケル政権に一時暗雲が垂れ込めた。
大量の難民申請者を受け入れたことが社会不安をもたらし、支持率は低下。さらにSPDが「選挙の顔」として前欧州議会議長のシュルツ氏を党首に選んだ今春には、「新顔」への期待もあってSPDの支持率が急上昇。両党の支持率が10年ぶりに逆転した。
しかしその後、同盟の支持率は回復した。米国で誕生した「自国第一」のトランプ政権が迷走するなど国際社会の不透明感が強まる中、首相として12年の経験があるメルケル氏の安定感に期待が再び高まったとみられる。
失業率が1990年のドイツ統一以来、最低水準にあることや、難民の流入数減少も支持率回復を後押ししている。(中略)
■右翼、初議席の公算大
今回注目を集めているのは、反難民を掲げる「ドイツのための選択肢(AfD)」が、戦後のドイツで初めて右翼政党として議席を得るかどうかだ。
戦後のドイツでは、移民排斥などを主張する極右政党「ドイツ国家民主党(NPD)」が60年代に生まれたが、一部の州議会止まりで、連邦議会で議席を得ることはなかった。
AfDは経済学者のルッケ氏が13年に設立。共通通貨ユーロから離脱し、自国通貨マルクを復活させようと訴えて前回の総選挙を戦った。4・7%の得票率にとどまり、議席獲得に必要な5%に届かなかった。
しかし15年の難民の大量流入と前後して重点を「反難民」に移した。ルッケ氏は離党し、代わって前面に立ったペトリ現党首らが難民流入に危機感を募らせる有権者の支持を集めた。
すでに16州議会のうち13州で議席を獲得。16年にあった旧東ドイツ地域の州議会選挙では、得票率が20%を超える飛躍ぶりを見せた。
難民の流入が減少傾向にあることや、党内の内紛が露呈したことで、現在の支持率は1けたにとどまる。それでも得票率5%は超えて議席を得る公算が大きい。さらに、難民絡みのトラブルが起きれば、同党が勢いを増すとみる関係者は少なくない。(後略)【8月2日 朝日】
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メルケル首相の与党勝利は固いものの、単独過半数は難しい状況で、3位以下の争い次第で連立相手がどうなるか・・・というところが焦点となります。
****ドイツ総選挙、連立の鍵握る「第3の党」****
・・・・余裕のあるメルケル首相と苦戦するシュルツ党首に続き、4つの小規模政党が激烈な3位争いを繰り広げている。
この3位争いこそが次期政権の連立形成を決定付け、今後4年間のドイツの政治的方向性を定めることになる公算が大きい。メ
ルケル首相にとって連立が必要なのはほぼ確実だ。第2次世界大戦以降、ドイツの政党が単独で議会の過半数を獲得したことは1回しかない。
現在のメルケル政権は、首相率いる保守系与党連合のCDU・CSUとシュルツ氏率いるSPDの「大連立」となっている。
ただ、SPDはメルケル首相の陰に隠れた政権運営を嫌い、また、保守派はこのような大連立について、ドイツ民主主義の規範ではなく例外であるべきだと主張している。
そうなると、連立が考えられる残りの政党は、企業寄りとされる自由民主党(FDP)と、環境保護主義を掲げる緑の党の2党となる。両党は最近の世論調査でそれぞれ約8%の支持率を確保している。
両党の政策的立場は全く異なっている。FDPは350億ドル(約3兆8400億円)の減税を望んでおり、欧州連合(EU)加盟国に対してはより厳しい態度で臨む見通しだ。FDPは直近のギリシャ救済へのメルケル首相の支持について特に批判している。
一方、緑の党は欧州の統合推進を望んでおり、再生可能エネルギー促進とリベラル寄りの移民政策を掲げている。CDU・CSUは中道的立場であるため、次に連立を組む政党次第で政権は右寄りにも左寄りにもなり得る。
また、これ以外の2つの政党がこのシナリオを崩す可能性もある。1つは旧東ドイツの支配政党ドイツ社会主義統一党の流れを受け継ぐ左派党で、緑の党とSDPから票が流れる可能性がある。
もう1つは移民受け入れに反対する右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」で、メルケル首相の移民受け入れ政策に不満を抱く保守票を集める可能性がある。
これら2政党が善戦すればするほど、メルケル首相にとっては連立政権形成の選択肢が狭まることになる。
FDPも緑の党も十分に善戦できず、どちらかの政党を合わせても連邦議会(下院)の過半数獲得に至らなければ、メルケル首相は2つの受け入れがたい選択肢から選択を迫られることになる。つまり、SDPとの大連立を継続するか、緑の党およびFDPとともに前代未聞の三党連立政権を組むかだ。(後略)【8月15日 WSJ】
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【トルコ・エルドアン大統領 前代未聞の選挙介入】
このドイツ総選挙に国外から前代未聞の“参戦”したのがトルコ・エルドアン大統領です。
****トルコ大統領、自らドイツ総選挙に干渉****
トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は18日、9月に迫ったドイツ総選挙に関し、トルコ系ドイツ人に対し主要政党に投票しないよう呼び掛けた。ドイツ政府は「前代未聞の」介入をやめるよう直ちに警告を発した。
エルドアン大統領は、アンゲラ・メルケル独首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の他、連立政権を組む社会民主党(SPD)、さらには野党の緑の党を「トルコの敵」だと表現し、これら三党を退けるよう呼び掛けた。
エルドアン大統領のこの発言は、同大統領による欧州連合(EU)加盟国に対するこれまでの非難の中で最も強硬なものであり、既に深刻的な状況の独トルコの外交危機をさらに悪化させたとみられる。
SPDの党首でもあるジグマル・ガブリエル外相はエルドアン大統領の発言に速やかに反応し「前代未聞の干渉行為だ」と非難した。またメルケル首相の報道官は「他国の政府がわが国の内政に干渉しないよう求める」とツイートした。【8月19日 AFP】
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約300万人~350万人のトルコ系ドイツ人がドイツ国内に住んでおり、ドイツ人口の約4%に当たります。
エルドアン政権は4月の大統領の権限強化を狙う国民投票にあっても欧州各国で政権支持集会を行い、ドイツでも地元当局の判断で複数の政治集会を中止させた経緯があります。この際もエルドアン大統領は「ナチスの行状」と述べ、対独関係の緊張を招きました。
エルドアン大統領は8月12日、欧州との緊張は欧州域内の政治要因が原因とし、ドイツとの関係は9月24日の独議会選挙後に改善するとの見通しを示していましたが、異例の“場外からの乱入”で、選挙後も対立が続きそうです。