孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  悪化する情勢に対応を決めきれないアメリカ・トランプ政権

2017-08-14 21:30:21 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン西部ヘラートの空港で、父親と写真を撮るフェテマ・カデライアンさん(左、2017年7月13日撮影)。【8月3日 AFP】 アフガニスタン関連では数少ない明るい話題でしたが・・・)

ロボコン少女の父親もテロの犠牲に うまく機能していない教育現場 問われる政府の指導力
最近のアフガニスタンに関する話題2件。
一つ目は非常に痛ましい話です。

アメリカ・トランプ政権による入国規制を国内外世論の後押しで何とかクリアする形で、アフガニスタン少女がロボコンに参加できた・・・という話を、7月19日ブログ“アメリカのアフガニスタン戦略見直しは? 不透明なパキスタン対策、和平プロセス対応”で取り上げました。

非常に明るい、将来に希望が持てる話として紹介したのですが、その少女の一人の父親が、8月1日にヘラートのモスクで起きた自爆攻撃で死亡し、少女が食事もできないショックを受けているとのことです。

****ロボコン出場のアフガン少女の父親、モスクで起きた自爆攻撃で死亡****
アフガニスタン代表メンバーとして米国で開催されたロボットの国際競技大会に出場したフェテマ・カデライアンさん(15)の父親が、西部ヘラートのモスク(イスラム礼拝所)で1日夜に発生した自爆攻撃により、死亡していたことが分かった。カデライアンさんの家族が3日、明らかにした。
 
カデライアンさんはヘラート出身の10代少女6人で構成されたアフガニスタン代表の1人として、米首都ワシントンで先月開催されたロボットの国際競技大会「ファースト・グローバル・チャレンジ」に出場。世界中の関心を集めた。
 
6人は米国への入国ビザの申請を2回却下されたことでメディアに盛んに取り上げられたが、最終的にはドナルド・トランプ米大統領政権の介入により入国を認められた。
 
カデライアンさんの兄、ムハンマド・レザさんがAFPに語ったところによると、父親はイスラム教シーア派のモスクで起きた自爆攻撃により死亡したという。この攻撃による死者は数十人に上り、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が犯行声明を出している。
 
レザさんは自宅で応じた取材で、「家族は皆打ちのめされている。事件以降フェテマは何も口にしておらず、何もしゃべらない。ショック状態にある」と語った。またカデライアンさんは何度か気を失い、点滴治療を受けていると明かした。【8月3日 AFP】
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もう一つの話題は、アフガニスタンの教育現状に関するものです。

*****先生が学校に来ない=副業優先、抗議しない親―アフガン教育事情、ユニセフ代表語る****
来日した国連児童基金(ユニセフ)アフガニスタン事務所のアデル・ホドル代表が現在取り組むアフガンの学校教育の問題点を語った。

2001年の米同時テロ後のタリバン政権崩壊を受け、統計では過去15年で学校数は4倍に、小学校から高校まで学校に通う生徒数も10倍に増えた。ただ「学校に先生が来ない」という課題を指摘する。

 ◇確認する人いない
先生が学校に来ないのは「副業を持っているから」だ。公立校教師の場合、「給料のいい私立校教師と兼職する」例が多い。さらに「店を構え商売に忙しい先生もいる」。
 
来なくても給料は支払われている。「学校に来ているのか確認する人がいない」からだ。時には校長も副業で忙しい。
 
(中略)しかし、アフガンでは「文句を言っても、学校も政府も何もしない」と親が諦めている。ホドル代表は今「なぜ学校に先生が来ないのか、まず声を上げて学校に尋ねよう」と親の権利を説いて村々を回っている。
 
(中略)先生の不登校は「実はアフガンだけではない。アフリカでも非常に大きな問題だ」と指摘する。背景には公立校教師の給料だけでは暮らしを維持できない「貧困という問題がある」と考えている。

 ◇女性の教師を
一方で喫緊の課題は「女性教師を増やす」ことだ。アフガンは都市と地方で多少の差はあるものの「女子は学校へ行かなくていいと信じる人が圧倒的多数」な社会。

ホドル代表も「職場にはアフガン人男性もいるからスカートをはいて出勤はできない」「たとえあいさつでも女性が握手してもらえることはない」毎日に直面している。
 
アフガン女性の半分近くは「18歳以下で結婚してしまう」。貧しい家庭ほど女児を早く嫁がせ食費を減らそうとする。児童婚は大きな問題だ。
 
その結果、女児であっても「性的な対象として見られるとても危険な状況」が教室に生まれる。あらぬ疑いを回避したい男性教師が女児を忌避する傾向があり「教育を受けたい少女が増えている以上、受け入れる体制を整える必要がある」とホドル代表。

首都カブールでさえ「妻を働かせるなんて、夫はどんな男だ」と真顔で非難される社会で、女性教師増員という難題と取り組んでいる。【8月7日 時事】 
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貧困にしても、女性問題にしても、政府の指導力が問われる問題ですが、今のアフガニスタン政府には期待できないのが現実です。

タリバン等との戦闘状態が収まらないので、教育など内政がうまく機能していないのか、腐敗・汚職にまみれ内政が機能しないような政府なので、タリバン等との戦闘も劣勢に立たされているのか・・・・後者の要素がかなり大きいように思えます。

治安悪化続く状況に、新戦略を決められないアメリカ・トランプ政権
先述の西部ヘラートのモスク自爆テロ、あるいは8月5日に北部サリプル州でタリバンと「イスラム国」(IS)が共同で同州の村を襲撃し、女性や子供を含む民間人ら少なくとも50人を殺害したと報じられた事件(互いに競合するタリバンとISが本当に協調したのかは不明です。この襲撃では多くの者が拉致され、8日に235人が解放されましたが、まだ100人ほどが拘束されているとの情報もあります。)など、治安状態は“相変わらず”です。

****アフガニスタンの治安悪化続く タリバン、IS・・・テロ頻発****
アフガニスタンでは、イスラム原理主義勢力タリバンや、同じイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」(IS)によるテロが頻発し、治安改善の道筋がまったく見えない状態が続いている。
 
タリバンは2001年に米軍攻撃で政権を追われて以来、テロ攻撃を続けてきた。和平交渉開始には、米軍の完全撤収が必要だとの立場を崩していない。

ISは15年、アフガンを含む一帯をISのホラサン州と宣言し、タリバンと対立しながら、アフガンで少数派のイスラム教シーア派住民などへのテロを強めている。
 
国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によれば、アフガンで昨年1年間に戦闘などにより死傷した市民の数は前年比3%増の1万1418人に上り、統計を取り始めた09年以降、最悪だった。過去、米軍機による誤爆も起きており、対テロ戦の困難さを露呈している。
 
今年になっても、状況は変わらず、5月31日に首都カブールで起きたタリバンによるとみられる自爆テロでは、150人以上が死亡し、日本人2人を含む300人以上が負傷した。

タリバン政権崩壊以降、首都での一度の攻撃による犠牲者数としては最悪となった。米軍率いる北大西洋条約機構(NATO)駐留部隊にも死者が出ている。
 
米報告書によれば、昨年11月時点で、アフガン政府が支配・影響下に置いている地域は、全体の半分強の57・2%にとどまった。タリバンなどは支配・影響下の地域を拡大している。
 
カブール大のジャファル・コヒスタニ教授は「これは国際テロとの戦いだ。アフガン治安部隊は外国部隊の強い支援を欲している。さらに多くの米軍、NATO軍が必要だ」と述べた。【8月11日 産経】
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こうした厳しい情勢を踏まえて、アメリカは、パキスタンとの関係を含めたアフガニスタン戦略の見直しを検討しているが、トランプ政権内部で意見が分かれている・・・と言う話は、7月19日ブログで取り上げました。

このトランプ政権内部の混乱・分裂も“相変わらず”の状況です。マティス国防長官は7月中旬までに新戦略を発表できるとしていましたが、いまだ発表されていません。
トランプ大統領においても、深入りしたくないが、手を引けば「負けてしまう」という状況への葛藤があるとか。

****アフガン政策論争で苦悶するトランプ氏****
「負け」を嫌悪する大統領は勝ち目のない戦いから逃れられないのか

トランプ政権は、アフガニスタンで悪化する戦況を反転させる戦略について、内部合意を得るのに四苦八苦している。政権の苦悩を理解するにはまず、これまでの経緯を振り返ってみると良い。
 
ドナルド・トランプ氏は2013年の初め、「アフガニスタンから即時撤退すべきだ。これ以上の命を無駄にすべきではない」とツイートした。

その翌年の初めにバラク・オバマ大統領(当時)がほぼ全ての米軍戦闘部隊を撤収させようと試みたとき、トランプ氏はこうツイートした。「わたしはアフガニスタンに関してオバマ大統領に同意する。われわれは迅速に撤退すべきだ。なぜカネを無駄にし続けなければならないのか。米国を再建しよう!」
 
従って、米国がアフガンで「負けつつある」とトランプ氏が論じる時(当局者らは、同氏が実際に幾つかの会合でそう論じたと述べている)、それは目新しい考えではない。

同地で勢力を盛り返す反政府勢力タリバンを覆すための兵力増派の問題で、トランプ氏は苦悶(くもん)しているように見えるが、それは長引く米軍のアフガン駐留について同氏が長年抱いている疑念を反映している。

オバマ氏のアフガン撤退論に賛成
そして現政権の当局者らは、オバマ氏が重大な間違いを犯したと主張している。つまりオバマ氏は14年末までに米軍部隊を撤収させると公に宣言し、それによってタリバン復活のための扉を開くきっかけを作ったのだという。

その主張は恐らく正しい。だが、オバマ氏の判断は、当時、一般市民だったトランプ氏が公に賛辞を送っていたものだ。
 
かくして、今どうすべきかを模索する苦悶は、トランプ氏が自らの顧問や米軍指導者らともめているものではなく、むしろトランプ氏が自分自身ともめているものだと言った方が分かりやすい。

彼は「負ける」ことを憎む男だが、同時にアフガニスタンで「負ける」ことから逃れられないのではないかと懸念している男でもある。
 
トランプ氏は、確かに、アフガニスタンの転換戦略を立案しようと模索する過去16年間で3人目の大統領だ。そして、そのことでフラストレーションを抱いている3人目の大統領でもある。
 
遅れている戦略レビューを仕上げようと努めるなかで、トランプ政権が何を実際に議論しているかを思い出すことが重要だ。

同政権は既に事実上、アフガン駐留米軍のプレゼンスを拡大する決定を下した。それは、ジム・マティス国防長官が兵力水準を決定する権限を早々と与えられた時だ。現在の駐留米軍8400人を上回る兵力を増派する権限を同長官に認めたのだ。
 
この権限は、米国の非核爆弾(通常兵器)としては最大の威力をもつ爆弾をアフガンに進出した過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘集団に投下する決定を今年4月に下したのと併せ、米国がより広範に軍事的関与をする用意があることを示唆している。
 
政府当局者によれば、レックス・ティラーソン国務長官、H・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)、マイク・ポンペオ中央情報局(CIA)長官らのトランプ政権高官は皆、このアプローチに同意しているという。

一方でジェフ・セッションズ司法長官は、現在の閣僚メンバーとしては昨年の大統領選挙期間中にトランプ陣営と最も親密に関与してきた人物だが、より広範な軍事コミットメントを行うことに懸念を表明した。ホワイトハウスのスティーブ・バノン上級顧問もそうだった。
 
欠けているのは(そしてマティス長官に兵力増強の引き金を引かせないよう阻止しているのは)、こうした兵力活用のためのより広範な戦略だ。

米軍部隊は、(アフガン部隊を訓練したり助言したりするのではなく)戦闘活動にどれほど深く関与するのか? 彼らは、アフガン政府と戦っているゲリラ勢力のハッカニ・ネットワーク(HQN)やタリバン出身の戦闘員たちを掃討する自由が与えられるのか? それは単にアルカイダの残党との戦いだけでないのか?

確かな事実は
決定的に重要なのは、この新戦略にはパキスタンをどのように扱うかに関する幅広い決定が含まれることだ。パキスタンは、国境付近にいるタリバンとハッカニの戦闘員たちに聖域を提供し続けている。
 
政策レビューでは、パキスタンに対するムチを多くし、アメを少なくして、アフガニスタン政府の敵に対するパキスタンの支援をやめさせるプランを策定する可能性が高い。パキスタンが態度を変更するまで、同国向けの援助は削減され、米軍による越境空爆が多くなるかもしれない。
 
確かなことが少数ながら存在する。

1つ目に確かなことは、アフガニスタンが依然としてタリバン、アルカイダ、そしてISという害毒集団の巣のままだということだ。アフガニスタンを2001年9月11日の米同時テロ攻撃の発進地になった時と同じイスラム過激主義の危険な温床に変えようとしている集団だ。
 
2つ目に確かなことは、トランプ氏がアフガニスタンでの経験が極めて深く、知識も豊富な補佐官たちを抱えていることだ。(中略)

3つ目に確かなことは、ブルッキングス研究所のアナリスト、マイケル・オハンロン氏が述べたように、「アフガン問題で決定打となるような偉大な選択肢は、恐らく存在しない」ということだ。
 
この3つの確かさが、トランプ氏でさえ決定する公算が大きい4つ目の確かなことにつながる。

米国は長期間にわたってアフガニスタンに駐留せざるを得なくなっている。
アフガン地域で軍事・外交指導者を務めた著名人で構成するブルッキングス・パネルによる今夏のアフガン政策レビューは、次のように結論した。

「米国とアフガニスタンの連携は、一世代にわたって持続すると認識すべきだ。脅威の性格と、その脅威が将来、長期にわたって具現化する公算が大きいだけに、そう言える」【8月8日 WSJ】
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アメリカが手を引けば崩壊するアフガニスタン政権 深入りしたくないが、負けたくもないトランプ大統領は?】
イラクではオバマ前大統領が撤退を急ぎ過ぎたためにISの拡大を招いてしまった・・・という批判が一般的になされますが、その後の現実の展開を見れば、アメリカが撤退し全責任を負わされたために、イラク政府は何とか反撃体制を構築し、嫌々ながらも国内各勢力が協調する形でモスク奪還にこぎつけた・・・・という評価も可能です。

それでは、アフガニスタンでもアメリカが撤退してしまえば・・・・という話について、下記記事は“アフガニスタンでは無理だ”と論じています。

****アフガン対応、米軍イラク撤退から得る教訓とは****
(中略)では、ホワイトハウスがアフガンについて、大幅な部隊増強から完全撤退に至る選択肢を議論するなか、イラクでの経験はどの程度生かせるだろうか。アフガンも、対タリバンの戦いを国や国民の闘争に変えられるのか。
 
答えはおそらくノーだ。

今や16年に及ぶ米国のアフガン戦争は、多くの重要な側面でイラク紛争とは違う。そして違いは、アフガンのアシュラフ・ガニ大統領が6年前のイラクのリーダーとは異なり、米軍にできるだけ長くとどまってほしいと思っている点だけではない。
 
イラクの反政府勢力は同国少数派であるスンニ派の内側から生まれたが、アフガンのタリバンは国内で最も多いパシュトゥーン人が大半を占める。
 
またタリバンは9000人近い米国部隊の存在にもかかわらず前進を続けている。アフガンで命を落とす米兵の数は最近減っているが、依然としてゼロではない。米国防総省は2日、カンダハルで米兵2人が殺害されたと発表した。

石油資源の豊富なイラクと違い、アフガンは自国の軍を賄えず、毎年数十億ドルに上る欧米からの支援を必要とする。
 
それに加え、アフガンの政治家は2014年当時のイラクよりも腐敗や内紛による分裂がひどい。

また、米国というバックネットを撤廃すれば、アフガンの急速な崩壊は避けられないだろうと欧米の現・元当局者らは話す。(中略)
 
アフガン軍が近いうちに対タリバンで勝利することは見込みにくいなか、相対的には小さな米軍の存在がカブールや他の主要都市の崩落を防いでいる。

戦況を恒久的に変えようとする過去の兵力増強の失敗を思えば、そうしたこう着状態はありうる中で最善の結果かもしれない。
 
駐イラク米大使を務めた経験を持つワシントン中近東政策研究所のフェロー、ジェームズ・ジェフリー氏は「この地域全体そして各地で学んだのは、われわれには飛び出すことも、完全な解決に向けて本格参入することもできないという教訓だ」と述べた。「むしろ、慢性疾患に対するように長期的に対応していかなくてはならない」【8月7日 WSJ】
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トランプ政権の内部でアフガン新戦略の策定が難航しているのに業を煮やした上院軍事委員会のマケイン委員長は10日、戦況が悪化するアフガニスタン情勢に関し、米軍増派などを柱とする独自の新戦略を提案してもいます。

オバマ前大統領のアフガニスタン撤退論に賛成していたトランプ大統領、どうするのでしょうか?
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