
(「この郡(オゲモー郡)は破たんに近い状態だ」と話す、ミシガン州ウェストブランチのデニース・ローレンス市長【8月7日 WSJ】)
【「12日の時点で大統領から同じ言葉を聞きたかった」】
並みの政治家なら進退問題になるような話も、“毎度お騒がせ”のトランプ大統領は“またか・・・”で済んでしまうあたり、さすがと言うか、何と言うべきか・・・困ったところです。
最近の話題は、多くのメディアに報じられているように、南部バージニア州シャーロッツビルの事件でトランプ大統領が白人至上主義を批判しなかったことです。
****トランプ氏対応に批判=白人至上主義批判せず―反対派との衝突事件・米****
米南部バージニア州シャーロッツビルで12日、白人至上主義団体などと反対派が衝突し、多数の死傷者が出た事件をめぐり、トランプ大統領が人種差別主義に対する批判を明言しなかったことが波紋を広げている。
ホワイトハウスは13日、白人至上主義も非難の対象だと釈明したものの、トランプ氏の問題認識の欠如に批判が強まっている。
事件では、反対派が集まっていたところに車が高速で突っ込み女性1人が死亡、重体の5人を含め19人が負傷した。警察によると、亡くなったのは同州出身の法律事務所職員、ヘザー・ヘイアーさん(32)と確認された。
米メディアによれば、車を運転していた20歳の男は殺人容疑などで逮捕され、連邦捜査局(FBI)が動機などの捜査を始めた。米紙ワシントン・ポストは、男の高校時代の教師の話として、男がナチス・ドイツやヒトラーの思想に共鳴していたと伝えた。
一方、トランプ氏は12日、事件を受けて「多くの側面での憎悪と偏見と暴力の表れを最も強い言葉で非難する」と表明した。だが、人種差別主義批判には直接言及せず、反対派にも非があったとも受け止められる「多くの側面」と述べたことで、与党・共和党を含め批判の声が上がった。【8月14日 時事】
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“トランプ大統領は12日、静養先の東部ニュージャージー州で記者会見し、「憎悪と分断はすぐに止めるべきだ」と述べ、迅速な治安回復を訴えた。また「多くの側から憎悪、偏見、暴力が示された」として自制を求めたが、「白人至上主義者」という言葉を使わなかった。
これに対し、与党・共和党内からも「悪魔は名指ししなければならない」(ユタ州のハッチ上院議員)など、明確に非難すべきだとの批判が相次いだ。”【8月13日 毎日】
“トランプ氏は白人のナショナリストや白人至上主義者を批判するには至らず、これらのグループについての見解を大声で問いただす報道陣からの質問を無視した。これらのグループは昨年の大統領選でトランプ氏を支持していた。”【8月13日 AFP】
こうしたトランプ大統領の対応に関し、アメリカのネオナチグループは以下のように称賛しているそうです。
“「トランプのコメントは良かった。彼は我々を攻撃しなかった。双方に憎悪があると示唆した。・・・彼を支持する白人民族主義者に関する質問には答えなかった。非難は全くなかった。非難すべしと求められた時、彼は退席した。とても、とても良かった。」”【8月15日 宮家邦彦氏 Japan In-depth】
ネオナチグループに称賛される米大統領というのも・・・・
“CNNテレビによると、行進に参加した元KKK最高幹部のデビッド・デューク氏は「我々はこの国を取り戻す。トランプ大統領の公約を果たすのだ」と話した。白人至上主義者の多くは昨年の大統領選で移民規制を公約したトランプ氏を支持。トランプ政権の誕生で自分たちの主張がお墨付きを得たと感じているとみられる。”【8月13日 毎日】
もちろん後日、ホワイトハウスは釈明はしていますし、イヴァンカ氏やペンス副大統領も白人至上主義への批判を表明してはいます。
トランプ氏の発言に関し周囲が火消しに走り回る・・・という、いつもの展開ではありますが、やはり大統領本人の認識が問われる問題でもあり、また、トランプ大統領を熱烈支持しているのがどういう人々であるかの一端を示すものでもあります。
****「大統領は白人至上主義も非難」 衝突めぐりホワイトハウスが釈明****
米南部バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義を掲げる団体と反対派が衝突した事件で、ドナルド・トランプ米大統領が白人至上主義者らを明確に非難しなかったことに批判が高まっている。
米ホワイトハウスは13日、「大統領が非難した対象には白人至上主義者やクー・クラックス・クラン(KKK)、ネオナチも含まれる」と釈明に追われた。
事件では12日、現場の人だかりに車が突っ込み、女性1人が死亡、19人が負傷した。トランプ大統領は「各方面の」暴力と憎悪、偏見を非難する半面、集会を開いた白人至上主義者らへの明確な非難は避けた。これには与党・共和党からも批判の声が上がった。
ホワイトハウスの報道官は、トランプ氏が事件後に表明した内容について「あらゆる形の暴力、偏見、憎悪を非常に強く非難している。それには当然、白人至上主義者、KKK、ネオナチなど、あらゆる過激主義者集団が含まれる」と述べた。
「大統領は国の団結、すべての国民の連帯を呼び掛けている」とも指摘した。
トランプ大統領の長女で大統領補佐官のイヴァンカ・トランプ氏も13日、「社会にはレイシズム(人種差別主義)、至上主義、ネオナチの場所はない」とツイート。
マイク・ペンス副大統領も訪問先のコロンビアで、白人至上主義は容赦しないと言明した。【8月14日 AFP】
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高まる批判に対し、トランプ大統領は14日、追加声明で白人至上主義団体を名指し批判する形になっています。
****米大統領、白人至上主義者など名指しで非難 自身への批判受け****
・・・・大統領は14日の声明で「人種差別は悪であり、その名の下に暴力をふるう者は犯罪者だ。KKK、ネオナチ、白人至上主義者などの扇動集団は米国民が重視するあらゆるものと矛盾する」と非難。人種差別主義者の責任を明確にすることで、自身への批判を和らげようと努めた。
これに先立ち、米製薬大手メルク<MRK.N>の最高経営責任者(CEO)で黒人のケネス・フレージャー氏は14日、「不寛容」と「過激主義」に断固反対するとして、トランプ大統領の経済助言組織を辞任した。
民主党のマーク・ウォーナー上院議員(バージニア州選出)は大統領の新たな声明について、「12日の時点で大統領から同じ言葉を聞きたかった」と述べた。(後略)【8月15日 ロイター】
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もっとも、ニューヨーク・トランプタワー周辺に数千人が集まり、白人至上主義などを非難したのが事件から2日後だったのは遅すぎると抗議するなど、一向に収まらない批判に対し、トランプ大統領はいたくご立腹の様子です。
“トランプ大統領は14日、ツイッターに「事件について追加の発言をしたが、フェイクニュースメディアは決して満足しないと改めてわかった。本当にひどい人々だ」と書き込み、反発が収まらないことに対し不満をあらわにしました。”【8月15日 NHK】
【それでもトランプ大統領を支持するのはどういう人々か?】
今回“騒動”がどこまで反映しているかは判然としませんが、大統領支持率は過去最低を更新しているとか。
****トランプ氏の支持率34%、過去最低を更新 米世論調査****
米世論調査会社「ギャラップ」は14日、トランプ米大統領の支持率が就任後最低の34%を記録したと発表した。共和党支持層からの支持率も低下したが、それでも77%が依然としてトランプ氏を支持している。
ギャラップは就任直後から継続的にトランプ氏の支持率を調査。就任直後は45%で、これまでの最低支持率は3月末の35%だったが、今回これを更新した。
支持政党別では、共和党支持層での支持率が直前の82%から77%に低下。民主党支持層では7%で、無党派層では29%と初めて3割を切ったという。
調査は11日から13日まで実施。北朝鮮のミサイル発射問題が注目され、12日に米東部バージニア州で白人至上主義グループが集会を開き、反対派と衝突したなかで行われたが、それらが支持率低下に影響したかは定かでない。【8月15日 朝日】
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個人的な印象としては、支持率が低い云々より、34%が依然としてトランプ氏を支持していることの方が驚異というか不思議です。
****それでも33%の米国人がトランプを熱狂支持する理由****
これだけの内憂外患をものともせず、猪突猛進する米大統領は米史上でも珍しい。ドナルド・トランプ大統領の不支持率はついに61%にまで上昇した。支持率は33%と最低記録を更新し続けている(米キニピアック大学世論調査)。
同大世論調査班は、「日々明らかになる醜聞や不手際が悪い結果につながる波状現象を起こしている」と分析している。
しかし、コップの中に3分の1の水が入っているのをどう見るか、いわゆる「コップの中の水」論を持ち出せば、まだ33%がトランプ氏を支持をしているとも言える。いったい、この33%の米市民はどんな人たちだろう。
トランプ大統領が何度か出かけて行って、トランプ支持大集会を開催してもらっているペンシルバニア州ハリスバーグ市に住むブルーカラーのマイク・ホワイトヘッドさん(51)にトランプ大統領を熱烈支持するわけを電話で聞いた。
リベラルなエリートが何より嫌い
ホワイトヘッドさんは筆者にこう語っている。
「俺たちは黒人やラティーノ、同性愛者やリベラルなエリートが大嫌いなんだよ。米国をダメにしているのは奴らなんだ。その象徴がバラク・オバマ(前大統領)だったし、ヒラリー・クリントン(前民主党大統領候補)だった」
「オバマが去り、ヒラリーが選挙に負けてせいせいしてる。トランプ大統領の言っている『リアル・アメリカ』(Real America)*1に戻すことが俺たちの願いだ」
「大統領は今それを必死になって実現しようとしている。ロシアゲートだって? あれはコミ―(共産主義者の別称)の仕業だよ。そのうち収まるさ」
*1=保守派は「かっての古き良き米国」を漠然と描いているが、本音は「白人中心の豊かで安全な米国。マイノリティや不法移民に邪魔されない、かっての白人優先社会」のこと。(後略)【8月15日 高濱 賛氏 JB Press】
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【“地域格差”がもたらす社会分断】
トランプ氏を支持した、グローバリズム・変革の波に取り残された“ラストベルト”などの白人層・・・といった分析・報道は、選挙後に多数見ましたが、最近目にした興味深い記事は、おそらくそうした支持層と重なると思われる、地方に暮らす白人層の“身動きがとれない”閉塞状況・都会生活への屈折した感情に関するものです。
****身動きとれない米国人、田舎に足止めの訳は 移動率は戦後最低、文化的ギャップも壁に****
テイラー・ティベッツさんが高校を卒業したとき、米ミシガン州北部にある小さな町で彼女は輝かしいスターだった。水泳選手として年間1万8000ドル(約200万円)の奨学金を獲得し、サウスカロライナ州にあるコンバース・カレッジに進学した。期待に胸を膨らませて町を出た。
しかし大学の現実は違った。厳しい授業に圧倒され、全米から集まった価値観の異なる学生の中ですっかりおびえ、孤立感を深めた。わずか1週間後、母親は仕方なく彼女を家に連れ帰った。
3年後、ティベッツさんは家族がウェストブランチに開くピザの売店を手伝いながら、デンバーかナッシュビルのような繁栄する大都市で暮らすことに憧れていると語った。新しい生活に失敗したことを悔やんでいるという。
「私は永遠にここにいるつもりはない」と彼女は話す。
辺ぴな地域にある多くの田舎町と同様、人口2067人のウェストブランチは製造業の衰退と農場の統廃合がもたらした経済停滞に苦しんでいる。近年、複数の小売店と製粉所、カーペット販売店が閉鎖に追い込まれた。
こうした田舎町で悩ましいのは、生活の苦しい住民の多くが新天地に活路を求めたいと思うにもかかわらず、驚くほど高い比率でじっと動かずにいることだ。
経済的・文化的に数多くの理由から、足がすくみ、もうどこにも行けないと考えている。
チャンスに恵まれなければ、より良い場所を求めて移動するのが米国人の伝統的スタイルであり、自然な反応だ。屈強な肉体をもつ野心的な若者の移住は、1930年代に中西部のダスト・ボウル(黄塵地帯)からカリフォルニアへの大移動を引き起こし、1980年代に黒人の北部から南部への回帰が始まるきっかけとなった。
ところが今や、米国の人口移動率は、第2次世界大戦終了時に集計を始めて以来、最低水準にとどまる。直近のピークだった1985年に比べ、ほぼ半分に落ち込んだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の分析によると、米国の田舎から2015年に郡境を超えて移住した人の割合はわずか4.1%と、1970年代後半の7.7%から大幅に低下。大都市圏よりも急速なペースで落ち込み、今では大都市圏の移動率を若干下回る。
移動率の低下は、田舎の人々の生活を向上させる機会を奪うだけでなく、働き口の多い都会では企業が労働力の調達ルートを断たれることになる。
この問題を研究するイエール大学ロースクールのデービッド・シュライチャー教授は、人口と資本の集中から生じる自然な経済成長を妨げることになると話す。
さらに、米国の政治的分断を深刻化させる要因にもなる。田舎の住民は昨年の大統領選でドナルド・トランプ氏を勝利させたポピュリズム的反乱の原動力となり、移民制限やインフラ投資による雇用増といったトランプ政権の公約を陰で支えてきたからだ。
田舎町にとって人々の移動は常に問題だった。最も優秀な若者が町を出ていく「頭脳流出」は、移住先の都市にはもうけものだが、地元の地域社会には手痛い損失となる。
しかし今や、人々が移動しないことが米経済全体の下押し要因となりつつある。
「われわれは最も生産的な都市から人々を締め出している」と、移住について研究するシカゴ大学のピーター・ギャノン助教(公共政策)は言う。「この力は都会と田舎の格差を一段と広げる」(後略)【8月7日 WSJ】
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WSJ記事は、地方の人々が移動しない理由として、都会で暮らす際の高額な住居費、州ごとに給付金が異なるメディケイド(低所得者向け医療保険)などの公的支援制度、州ごとに求められる職業資格要件、更に、文化的な格差(外国からの移民や同性婚、世俗主義を歓迎する都会の風潮が異なる価値観をもつ田舎町の住民の不信感を高めていること)・・・などを指摘しています。
こうした“閉塞状況”にある地方の人々の不満の表れとしての“トランプ支持”は、都会的・リベラルなメディアによるトランプ批判がどれほど強まろうが、ほとんど影響を受けないのでしょう。
上記の“地域格差”記事を興味深く感じたのは、“トランプ現象”との関わりの文脈のほか、日本の“内向き志向”という“淀み”と地域格差の関連にもつながるものを感じたからです。
****海外旅行格差から見える日本社会の深い分断***
<若者の「海外旅行離れ」が言われるなか、全国の都道府県別の若者の海外旅行の実施率に大きな差異が出ている。世帯収入別に見た子どもの海外旅行の実施率もこの10年で格差が拡大した>
・・・・2016年の総務省『社会生活基本調査』によると、過去1年間に海外観光旅行をした国民の割合は7.2%、およそ14人に1人だ。
しかし時系列推移をみると、1996年の10.4%をピークに減少の一途をたどっている。20代前半の若者の経験率も、この20年間で16.4%から12.9%に下がっている。このような変化を指して、国民(若者)の「海外離れ」などと言われている。
不況で経済的ゆとりがなくなった、インターネットで国外の情報が容易に得られるので行く必要性がなくなったなど、要因はいろいろ考えられる。
大学生の場合は、学業の締め付けが厳しくなっているので、時間的余裕がなくなっていることもあるのではないかと思う。若者の内向化といった精神論を振りかざす前に、客観的な生活条件の変化に注目する必要がある。
生活条件という点でみると、地域間の違いも見逃せない。同じ若年層でも、都市と地方では海外旅行の経験率に大きな差異がある。15~24歳の海外観光旅行経験率を都道府県別に出し、高い順に並べると<表1>(省略)のようになる。
全国値は9.7%だが、県別にみると東京の18.2%から青森の2.1%までの開きがある。東京は5人に1人で、青森は50人に1人だ。時間的余裕のある学生が占める割合等にもよるだろうが、この違いはあまりに大きい。同じ国内とは思えないほどの格差だ。(中略)
また海外旅行には費用がかかるので、経済的要因も関与しているとみられる。<表1>の海外観光旅行経験率は、各県の1人あたり県民所得(2013年)と+0.5669という相関関係にある。こうした社会的、経済的条件により、若者のグローバル体験の機会に地域格差が生じている。
家庭環境による差も大きい。とりわけ、生活の全面を家庭に依存する子ども世代の格差が拡大している。小学生の海外観光旅行経験率を家庭の年収別に出した統計があるので、それをグラフ<図2>(省略)にしてみる。
年収が高い家庭の子どもほど経験率が高いが、注目されるのはこの10年間の変化だ。年収1500万円超の富裕層だけがグンと伸びている(12.0%→22.0%)。その一方で、年収300万円未満の貧困層では減少している。子どもの海外旅行経験の格差が拡大していることがわかる。
近年の学校現場では、グローバルな世界で通用する「生きる力」の育成が重視されているが、富裕層は同様の目的で国際体験を子どもに積ませようという意識が高いのだろうか。
こうした体験格差が、学校でのアチーブメントの違いに転化するであろうことは想像に難くない。大学入試も人物重視の方向に転換されるが、そうなった時、幼少期からの体験の違いがモノを言うようになる。
面接での仕草、立ち居振る舞い、話題の豊富さ......。ペーパーテストにも増して、育った家庭環境の影響を受ける要素だ。学校の特別活動は、こうした体験格差を是正することを目指さなければならない。
海外旅行の経験率という指標から、地域格差や階層格差によって深く分断された日本社会を見ることができる。【8月9日 舞田敏彦氏 Newsweek】
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