孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

“変わるインド” “変わらぬインド”

2013-12-28 22:27:04 | 南アジア(インド)

(ニューデリー郊外の広場で、デリー首都圏政府首相への就任を宣誓した後、10万人の支持者を前に演説する一般人党のアービンド・ケジリワル党首=2013年12月28日、杉尾直哉撮影 【12月28日 毎日】)

【「禁じられた恋」の駆け落ち婚
カースト制が今なお強い影響力を持つインド社会にあって、異なるカーストや宗教間の“禁じられた恋”のために駆け落ちに走る若者も増えているそうです。

****インドで“駆け落ち婚”急増 「禁じられた恋」貫く若者たち****
禁じられた恋に憂き身をやつし、駆け落ち同然で結婚するインド人カップルが増えている。

異なるカーストや宗教間での結婚を親や地域社会から反対され、市民団体やヒンズー教寺院の助けでひっそりと結婚式を挙げる人たちだ。

インドの伝統的な慣習を重んじる親世代に対し、権利意識が進んだ若者世代は個人の感情を重視する。インターネットや携帯電話の普及で出会いや交流の機会が格段に増えたことも背景にある。
(中略)
カーストが違うと、どうして両親は許さないのか。
(カーストが異なる)2人の結婚式を取り仕切ったヒンズー教僧のクリシャン・ダット・シャルマさん(46)は「2人はラニさんの両親に恥をかかせたことになる。親は村でのけ者にされ、親類は口をきいてくれないだろう。集会や結婚式にも呼ばれない。子供を従わせられない親は不吉なことをもたらすと思われるからだ。私自身はこうした結婚には反対だ」と説明した。

   ■ ■ ■
インドでは、両親が子供の伴侶を探す縁組結婚が一般的だ。この場合、生活習慣を同じくする同カーストから相手を選ぶ。新聞やインターネットには結婚相手を探すため、子供の経歴などを記した広告があふれ、通常カーストも書かれている。保守的な地域では、子供が恋愛結婚をしただけで、ふしだらとみなされることさえある。

しかし、旧来の社会習慣とは裏腹に、恋愛結婚は増加傾向にある。デリーには、異なるカーストや宗教、国籍を理由に結婚を反対されたカップルのために式を挙げるヒンズー教寺院が3つある。最大のアリヤサマジマンディル寺院は今年、820件以上のカップルを挙式させた。2年前の507件と比べ、その数は6割以上増えた。

その理由として、全インド民主女性協会ハリヤナ支部長の女性、シャクンタラ・ジャカールさん(46)は、(1)女性の就学率が高まり出会いの場が増えた(2)インターネットと携帯電話の普及で自由にメールや会話をできるようになった(3)メディアの影響で若者の権利意識が高まった(4)交通網の整備で女性の外出の機会が増えた-ことなどを挙げた。

市場調査サイトによれば、インドのインターネット普及率は2012年時点で11%にとどまるが、人数をみれば00年の約500万人から1億3700万人に急増した。交流サイトのフェイスブックの利用者は約6270万人にのぼる。

一方インドでは、伝統的な縁組結婚が、社会問題も生んできた。カーストにかかわらず、花嫁が嫁ぎ先で持参財(ダウリ)が少ないことなどを理由に虐待されたり、口減らしのために子供のうちから結婚させられたりするケースだ。
(中略)
しかし、親に無断で結婚に踏み切った場合、危険にさらされることもある。恥をかかされたと怒った親が娘を取り戻して家に閉じ込め、場合によっては相手の男性ともども殺してしまう「名誉殺人」が起こることもあるからだ。

(カーストが異なる)フーダさんとラニさんが、式の後に向かった先はハリヤナ州の保護施設だった。もともとは虐待などを受けた女性を守る目的で作られたが、11年秋から危険が及ぶ恐れのある夫婦も受け入れてきた。

林の中にひっそりと立つれんが作りの建物の門扉は常に施錠され、警官が警備に当たっている。2人が訪れると、そこには別の夫婦2組が保護されていた。(後略)【12月28日 産経】
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上記のような“変わるインド”の一方で、“恥をかかされた”親が娘や交際相手を殺しすことが社会的に一定に認知されている「名誉殺人」も相変わらず起きています。

****インド:逃避行直前の男女、家族が殺害 同氏族の結婚禁止****
インド北部ハリヤナ州ロタック地区の村で18日、恋人同士の女子学生(20)と男子学生(22)が、伝統的な価値観から恋愛結婚を認めない女子学生の父親ら家族に相次いで殺害された。
うち男子学生の遺体は首を切られ、「見せしめ」のために自宅前に放置された。

警察は19日、女子学生の両親とおじを殺人容疑で逮捕したが、父親は「家族の名誉のために正しいことをした。後悔していない」などと話している。(中略)

州政府首相ら地元の政治家たちは事件について沈黙している。「殺害を非難すれば、伝統的価値観にこだわる住民たちの支持を失いかねないため」(ニューデリーの住民)とみられている。【9月20日 毎日】
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トイレ設置のために立ち上がる女性
“変わるインド”のもうひとつの話題はトイレ。

****トイレをつくれ!=野外排せつ6億人、女性立ち上がる―インド****
インドで野外排せつの根絶を目指す市民運動が大きなうねりになりつつある。政府は27年前に衛生向上計画を打ち出したが、いまだ約6億4000万人が日常的に野外で排せつする。業を煮やした女性らが各地でトイレ設置のために立ち上がった。

首都ニューデリー中心部、車道脇には「立ち小便」をする男性が並び、その脇では半裸の少年が用を足す。地方の状況はさらに劣悪だ。ネパール国境に近い北部バワニプール村に住むマノラニ・ヤダブさん(40)は「全住民が野外で用を足している」と話す。

世界保健機関(WHO)は11月、インドにはテレビがあってもトイレがない家庭が多いと指摘。人口の半分以上が日常的に野外で排せつ行為を行っており、コレラや腸チフスのまん延につながっていると警告した。

政府は2022年までの野外排せつ根絶を目指すが、その歩みは遅い。特に女性は排せつ時に性的被害を受ける危険におびえ続けてきた。「こんな状況は耐え難い」。12月上旬、ヤダブさんは自分の土地を政府に寄付し、公衆トイレの設置を要請した。

中部マディヤプラデシュ州に住む新婦アニータ・ナルレさん(30)は家にトイレがないことを理由に2年前、夫に別居を告げた。これが引き金となり、女性が各地の村でトイレ設置を求めるデモを展開。この運動は国連児童基金(ユニセフ)の目に止まり、8月に映画化された。

専門家は「若い世代の台頭で社会変革の波が起きつつある」と指摘するが、道のりは長い。ヤダブさんは「人々の熱意がインドの日常風景を変える日」を待っている。【12月28日 時事】 
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地方政府のなかには、このトイレ問題に前向きに取り組んでいるところもあります。

****結婚に「トイレの証明写真」を義務付け****
屋外排泄が一般的なインドでは「トイレ持ち」の男は結婚に有利。深刻なトイレ不足の解消にも一役買っている

自分たちと同じように、女性もトイレを使う必要があるなんて信じられない。それがインドの男たちの考えだ。
インドでは女性が公共トイレを使う場合、お金を払わなければならないことがほとんどだ。もちろん男性ならそんなことはない。ムンバイの中心部にある公共トイレは、女性用より男性用のほうがずっと多い。

昨年は、女性用トイレがないから屋外で用を足すように、と言われた若い妻が夫の家から逃げ出す事件があり、ニュースになった。

トイレ問題に気付いた一部の独身男性は、自分の家には安全で清潔な室内トイレがあることをアピールして、女性たちを引き付けようとしている。
英字日刊紙タイムズ・オブ・インディアによれば、インド中部マディヤプラデシュ州のセホーレでは、自治体主催の合同結婚式に参加する新郎は自宅トイレの横でポーズを取った写真を持参することが義務付けられている。

セホールにおける深刻なトイレ不足から生まれた強制措置だが、新郎たちはこの変わった解決方法を受け入れているようだ。「携帯電話やデジタルカメラで撮影した写真をうちのスタジオへ印刷に来るよ」と、セホールでカメラ店を経営するデベンドラ・マイティルは言う。(中略)

しかしセホールの政策から分かるように、最近のインドはこの問題に真摯に取り組んでいる。
ジャイラム・ラメシュ農村開発相の下、インド政府は10年以内に屋外排泄を撲滅するという目標を掲げる。農村開発省はトイレ敷設のための支出を大きく増やし、人々が自宅にトイレを作るよう促すさまざまな革新的制度を考え出している。

それでも状況の深刻さと悪化する水不足のせいで問題はなかなか改善されず、新たな排泄物処理技術の開発がどうしても必要だ。WHOが提案する一番単純な解決策は、コンクリートの大きな穴を使って排泄物を肥料に変えるというもの。これはNPOのスラブ・インターナショナルが採用している。

一時しのぎの手段として、農村部には適しているだろう。しかし大都市では、長期にわたって有効な解決策にはなり得ない。それにこうした設備を政府が設置したところで、使われずに終わることが多い。臭くて排泄物の飛び散ったコンクリートの穴を使うより、大自然の中でするほうがいいと村人たちは考えるだろうから。【5月22日 Newsweek】
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トイレをつくることができない貧困層が結婚機会から締め出されるという問題もありそうですが、人々の目をトイレに向けさせるためには有効でしょう。

【「性犯罪被害の状況は何も変わっていない」】
“変わらぬインド”を印象づけるのは性犯罪の横行です。

****インド集団レイプ事件から1年 おぞましい性犯罪減らず****
インドで大規模な反レイプデモの引き金となった女子学生=当時(23)=の集団レイプ事件の発生から約1年がたった。

ちょうど1年目となった16日には、女子学生の死を悼む集会が首都ニューデリーで開かれ、事件の再発防止を求める声が上がったが、女性に対する性暴力が相次ぐ事態は何も変わっていないのが現状だ。

 ■与党惨敗の一因に
(中略)州に相当するデリー首都圏では、今月8日に開票された地方議会選挙で、地方政府でも与党だった国民会議派が惨敗し、汚職対策やレイプ犯罪対策の強化を訴えた新党が国民会議派を抑えて第2党に躍進、市民の現政権への不満を象徴する結果となった。

 ■何も変らぬ被害状況
インドでは事件後も、新聞紙上に数々のおぞましい性犯罪事件が連日のように掲載されてきた。
タイムズ・オブ・インディア紙が行ったアンケートによると、「事件から1年たって町が女性にとって安全になったか」との問いに「イエス」と答えた人はわずか5%にとどまり、「ノー」が94%にも上った。

地元メディアによれば、ニューデリーで今年11月までに報告されたレイプ事件は1493件と前年より倍増。わいせつ行為は4倍以上の3237件となった。

法令の改正により、より多くの女性が被害を申告したことも件数増の要因になっているとはいえ、女子学生の父親は「大規模な抗議デモや法の改正があったのに、被害の状況は何も変わっていない」と嘆いている。

デリー政府は事件後、庶民の足であるオートリキシャと呼ばれる三輪車に衛星利用測位システム(GPS)を導入したり、女性専用のピンクの車両を導入したりすると表明していたが、いずれも実現を見ていない。

レイプ犯罪に対する罰則が強化されても、相変わらず法が適正に運用されていないとの批判も根強い。専門家は「法がきちんと順守されてこそ、その罰則の恐ろしさが効果を持つ。そうでなければ、あらゆる努力はうわべだけのごまかしに過ぎない」と批判している。【12月21日 産経】
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“昨年12月の女子学生暴行死事件を機に、性犯罪対策を求める大規模デモが起こったインドで、性的暴行の申告件数が急増、被害者女性が声を上げ始めている。
女性蔑視の傾向が強く、性的暴行が見過ごされてきた社会が変容する兆しとも言えるが、そうした女性は都市部に集中、人口の7割を占める農村部の女性はなお沈黙を強いられている。”【12月20日 読売】

【「デリーの政治が我々一般人の手に初めて渡った歴史的な日だ」】
【12月21日 産経】にある、デリー首都圏での選挙異変は“変わるインド”の一面でしょう。

****インド:新党のケジリワル党首 いきなり首都圏政府首相に****
インドのデリー首都圏(州)政府首相の就任式が28日行われ、今月4日投票の首都圏議会選挙で第2党となった新党・一般人党のアービンド・ケジリワル党首(45)が就任した。

選挙では、最大野党のインド人民党が第1党となったが過半数に届かず、他党との連立協議に失敗。代わりにケジリワル氏が、第3党に転落した前政権与党・国民会議派を取り込み、政権樹立に成功した。

「腐敗一掃」を訴え、昨年結成されたばかりの一般人党は今回、初めて選挙に参加。党首のケジリワル氏はいきなり首都圏で最高権力者の州政府首相となり、劇的な政界デビューを果たした。

一般人党は来年4〜5月ごろに実施されるインド下院選挙での勝利を次の目標としており、今後も国民会議派、人民党の2大政党を揺るがす存在となりそうだ。

28日、ケジリワル氏は首都郊外の広場に約10万人の支持者を集めて異例の就任式典を開いた。就任演説で「デリーの政治が我々一般人の手に初めて渡った歴史的な日だ」と語った。強力な腐敗防止法の制定や安定した電力供給などが公約。

来年の下院選挙では、過去10年間政権を維持してきた国民会議派の敗北と、人民党による政権交代の予測が強い。今回、国民会議派がケジリワル氏と組んだのは、首都圏でかろうじて政権にとどまるための苦肉の策と受け止められている。

ケジリワル氏は税金徴収官吏を経て社会活動家になった。一昨年、政府高官らの腐敗を批判する抗議デモを全国で展開し、「現代のガンジー」と呼ばれたアンナ・ハザレ氏(76)のブレーンとして有名になった。【12月28日 毎日】
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この新党・一般人党が国政で国民会議派、人民党の2大政党を揺るがす存在になれば、インドの変化も加速するのでしょう。
ただ、全体的な印象としては、中国と並ぶ膨大な人口を抱え、極度の貧困層も多く、またカーストなどの伝統も強いインドが変わるのは、そう簡単なことでもないように思えます。
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