孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン  台風30号被害に対する日本支援に好意的反応

2013-12-05 23:01:51 | 東南アジア

(フィリピン・レイテ島のタヌワンの海岸に到着した自衛隊のホーバークラフト型揚陸艇から、感染症予防に必要な物資を積み陸揚げされる車両=26日(早坂洋祐撮影)【11月26日 msn SankeiPhoto】http://photo.sankei.jp.msn.com/kodawari/data/2013/11/26JSDF/)

“スーパー台風”で死者は5560人に
11月8日に「瞬間風速は90メートル近かった可能性がある」という“スーパー台風”30号(アジア名:ハイエン)の直撃を受けたフィリピンでは、懸念されていたように膨大な犠牲者を出しました。
11月28日に発表されたフィリピン国家非常事態局の報告では、死者は5560人に達したとされています。

大きな犠牲が出た背景にはいろんな点があるかとは思いますが、大きな被害を出した高波に対する住民の理解が十分でなかったことも指摘されています。

****フィリピン:「津波」なら逃げた 言葉の壁、被害を拡大****
台風30号の直撃を受けたフィリピン中部レイテ島では、現地語や公用語のタガログ語に「高潮」を明確に意味する単語はなく、メディアや防災関係者は英語の「ストーム・サージ」をそのまま使って警告した。テレビで流れた高潮を意味する英語「ストーム・サージ」を理解する人も少なかった。

地元防災担当者は「大きな波が来る」と警告したが、住民の反応は鈍かった。沿岸集落の責任者は「日本の『津波のような波が来る』と言ってくれていたら」と悔やむ。不十分な避難情報と言葉の壁が、被害を拡大させた。(後略)【11月25日 毎日】
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また、日本の気象庁予測でもフィリピン南部接近時の勢力は中心気圧905hPa、最大風速60m、瞬間最大風速85mとされていました。
この数字の意味、それがもたらす脅威が正しく伝われば、普段の台風とはまったく異質のものだと認識され、住民の避難行動も変わったと思いますが、現地ではこうした情報理解が十分でなく、“台風慣れ”した住民は単に“強い台風”というぐらいの認識しかなかったのではないか・・・とも悔やまれます。

台風シーズンの最終盤になって発生した“スーパー台風”と地球温暖化の関係はさだかではありませんが、被災直後に開催された国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)において、台風30号についてフィリピン政府代表団の交渉官が、「温暖化を疑う人は今起きている現実を見てほしい。狂った状況を止めよう」と涙ながらに17分を超える大演説を行い、参加者の共感を呼んでいます。

今世紀末には、温暖化の影響で日本近海の海面水温が2~3度上昇するとされており、「温暖化が進む今世紀末ごろには(今回のような“スーパー台風”が日本に)襲来する可能性がある」「今回の台風の災害は決して遠い南の島の出来事ではない」との指摘もあります。【11月13日 産経より】

11月23日に閉幕したCOP19では、“温暖化で被害増加が見込まれるスーパー台風や洪水などの異常気象や、海面上昇などの徐々に現れる変化に伴う「損失と被害」に対処するため、COPの下に「ワルシャワ国際メカニズム」と呼ぶ新たな機関を設置し、途上国支援を強化する。執行委員会が、科学的情報の収集や既存の途上国救援機関との連携などを図る”【11月24日 毎日】とされています。

積極的平和主義
今回のフィリピンの惨事に対し、日本・安倍政権は資金援助の他、海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦「いせ」やCH47大型輸送ヘリを含む、過去最大となる1180人規模の自衛隊派遣、機密扱いの情報収集衛星データを基にした地図の提供など、迅速で手厚い支援を実施しています。

これは、東日本大震災でフィリピンから受けた支援への返礼の意味合いがあると同時に、中国の影響力が増す東南アジア地域で日本の存在感を示す狙いもあるとされています。
また、自衛隊の海外活動など国際社会での日本の役割拡大を目指す「積極的平和主義」を提唱する安倍首相の意向に沿ったものとも理解されています。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版)は、日本が「第二次世界大戦後として最大規模の海洋部隊の展開」を含んだ支援を表明したことに触れ、「日本は誰からも全うな抗議を受けない形で誇りをもって部隊を南方に進めることになる」と報じています。【11月25日 産経より】

自衛隊の救援活動は現地では非常に効果をあげており、好感をもって迎えられているようです。

****自衛隊、機動力で存在感 フィリピン支援活動、記者ルポ****
台風30号で壊滅的被害を受けたフィリピンで、自衛隊が過去最大規模の支援活動を展開している。洋上の活動拠点に記者が入った。

フィリピン中部レイテ湾。4日早朝、自衛隊の大型ホーバークラフト(LCAC)が中国人民解放軍の白い病院船の脇をすり抜け、台風で壊滅的被害を受けたレイテ島に向かった。

 ■離島に直接
水しぶきと砂を巻き上げ、東沿岸部の浜辺に上陸。ハッチがあき、防疫用薬剤を載せたトラックと四輪駆動車2台が北部タクロバンの避難所へ走り出す。この間、わずか数分。大型船が接岸できないケースで有用な上陸作戦だ。

自衛隊は今回の台風被害で「サンカイ(現地語で友達の意味)作戦」として過去最大の約1180人の支援部隊を編成。計16カ国が軍や関連部隊を派遣しているが、比海軍幹部は「自衛隊の存在感は米軍と並んで極めて高い」と話す。

評価の理由は、護衛艦「いせ」(全長197メートル)と輸送艦「おおすみ」(同178メートル)を洋上に停泊させ、大型ヘリやLCACで人員や物資を運び、点在する被災地や離島に自力で直接運び入れている点だ。中国軍の病院船は患者や隊員の輸送を比軍のボートに頼る。大型ヘリで離島へ物資輸送しているのも自衛隊だけで、重宝されている。

 ■中国を念頭
3~4日、両艦やLCACへの乗艦取材が許可された。「いせ」甲板は洋上の巨大ヘリポートで、4機のヘリが数時間ごとに離着陸を繰り返す。そのたびに艦首を風上に向け、ヘリの安全を確保する。11月27日には米海軍のオスプレイが甲板に降りた。米軍派遣部隊ウエザーラルド少将の視察のためだ。オスプレイの実際の任務での着艦は初だ。

日本政府が大規模な災害支援活動を決めたのは、安倍晋三首相が「積極的平和主義」を掲げていることが背景にある。首相は災害発生直後の先月13日、自身のフェイスブック(FB)に「フィリピンの人々を救うため、矢継ぎ早に支援を行う」と投稿し、国際貢献への積極姿勢を示した。

対中国を念頭にフィリピンとの関係強化を進める狙いもある。日本とフィリピンは東シナ海と南シナ海で中国の海洋進出という共通の課題に直面しており、政府関係者は「フィリピンは地政学的にも非常に重要な国」と説明する。【12月5日 朝日】
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****自衛隊いいね!…首相投稿、フィリピンで大反響****
首相官邸が開設している「フェイスブック」英語版で、11月の台風で多数の死傷者が出たフィリピンへの自衛隊派遣をめぐる安倍首相の投稿が大きな反響を呼んでいる。

英語版のフェイスブックは2011年の東日本大震災直後に開設。投稿に好感を持った人がクリックする「いいね!」の数は通常の首相の投稿で400程度。

しかし、11月14日に日本を出発する自衛隊機の写真とともに「大災害の被害の苦しみは、他人事ではありません」とコメントした投稿には、3日正午現在で過去最高の6万9400件超の「いいね!」が寄せられた。多くのフィリピン人が支援への感謝をつづっている。【12月4日 読売】
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また、近年の日本による現地での治水対策支援が効果を発揮したことも報じられています。

****日本が治水、死者激減 レイテ島、91年「最悪」被害の市 フィリピン台風****
レイテ島は、1991年にも20世紀最悪とされる台風被害にあっている。このときは、同島西部の主要都市オルモックを中心におよそ5千人の犠牲者が出た。しかし今回、同市では、死者ははるかに少なかった。
22年前の台風後、日本の援助でインフラ整備を進め、住民の防災意識を向上させてきたからだ。

タクロバンから、太平洋戦争中に日米両軍が激しい戦闘を繰り広げたリモン峠を越えて2時間余り。オルモックの市街地では、ほとんどの家屋の屋根は飛び、建物の全半壊も目立つ。
ところが、1989人の死者を出したタクロバンに対しオルモックは37人。人口はともに約20万人だ。

91年11月初旬、台風ウリンがフィリピンを襲った。死者は公式記録で5101人だが、死者・行方不明者8千人との説もある。オルモックでも中心部を挟むように流れる二つの川が大氾濫(はんらん)。数千人が亡くなった。
町中が泥に覆われ、遺体があふれた惨劇は、台風30号まで、災害の多発する国にあっても史上最悪の自然災害と記録されてきた。

オルモック市はその後10年をかけて、両川を全面的に改修した。川幅を広げて新たな堤防・護岸を造り、遊歩道を設置して排水を改善した。さらに砂防ダムの一種スリットダムを上流3カ所に設けた。

川上から川下まで一貫整備するとともに、水位を見張るための展望台や堤防の維持管理を地元住民に任せるなど住民参加のシステムの構築をめざしてきた。一連の事業は国際協力機構(JICA)が21億円の無償援助で全面的に協力してきた。

この結果、今回の台風でも川の氾濫はなかった。
レイテ湾に面し、高潮の直撃を受けたタクロバンに対しオルモックは高潮に襲われなかった幸運が大きかったが、来襲の2日前に市当局が一部地区に避難命令を出し、8千人がこれに従ったことも功を奏した。

川沿いの集落に住むネスター・シクスクさん(54)によると、22年前は370世帯で約100人が亡くなったが今回はゼロ。「住民は台風にトラウマを抱えており、今回は学校に自主避難するなど対応が早かった」

エドワルド・コディリア市長(53)は「日本の支援のおかげで、91年より強大だった今回の台風では人的被害を少なく抑えることができた」と感謝を語った。(後略)【11月29日 朝日】
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一方、フィリピンと南シナ海領有権で対立する中国は支援体制が遅れ、外交的に大きな失点となったされています。
“最近では「支援に消極的だ」との批判に神経をとがらせ、国際的な体面を保とうと躍起だ”【11月23日 読売】とも。

****比台風 大型揚陸艦も派遣 中国、海外世論に反発****
台風で被災したフィリピン中部に海軍の病院船を派遣した中国が、同船の支援名目で大型のドック型揚陸艦も派遣することが22日、明らかになった。中国中央テレビ(CCTV)などが報じた。中国メディアは艦艇2隻の派遣を「初の本格的な海外救援活動」と位置づけている。

中国海軍の病院船は21日、呉勝利海軍司令官が見送る中、浙江省舟山の軍港を出港。24日にレイテ島沖に到着する。病院船を支援する揚陸艦「崑崙山号」(排水量2万トン)は、同じく同海域に派遣された海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(同1万4千トン)を揚陸能力で上回る。

中国は当初の消極支援を「けち」「外交の失敗」と批判した海外世論に反発。22日付の中国共産党機関紙、人民日報(海外版)は、政治や軍事に絡めた論調を牽制(けんせい)し、「被災国に援助の手を差し伸べるのは、大国が有すべき道義であり、見せかけであるべきではない」とアピールした。
同紙傘下の国際情報紙、環球時報もフィリピン政府が病院船派遣に謝意を表明したと強調した。【11月23日 産経】
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歴史認識の問題
中国との援助合戦はともかく、日本が現地の救援・支援に大きな協力ができていることは非常に喜ばしいことです。
ただ、現地の好意的反応によって過去の歴史への認識を変えてしまっていいものでもありません。

****日本への恨み言は聞こえない レイテ島に癒やされ****
このしなやかさは、なんだろう。台風30号により甚大な被害を受けたフィリピンのレイテ島の人たちのことである。
未曽有の暴風に見舞われてから10日あまりして現地で取材した。最悪期は脱していたとはいえ、多くの人が自宅や家族を失っていたはずだ。それなのに、南国の人たち特有の性格だろうか、表情からはあまり悲壮感が伝わってこない。

当初は略奪があったというが、救援物資の配給の列では、みな整然と列をつくり、笑顔で接してくれた。仕事を失ったある男性は、「立ち直るのに1、2年はかかるかな。でも大丈夫だろう」と将来を決して悲観していない。食料も多少の蓄えがあるのか、親類縁者で助け合って何とかしのげているようだった。

食料がないのはむしろ、われわれ外国人の方だ。飲食店や商店は軒並みシャッターをおろしている。そこで、地元のおばさんに頼んだら、1食150ペソ(約350円)でご飯や魚を毎晩用意してくれた。「あしたは、エビにするわね」と言われたときは、翌朝インドへ帰る日。ちょっと惜しい思いをした。

人々からは、第二次大戦で村々を戦火にさらした日本への恨み言は聞こえてこない。当時の日本兵も、私のようにレイテ島の人たちの心に癒やされていたのかもしれない。【12月5日 産経】
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“当時の日本兵も、私のようにレイテ島の人たちの心に癒やされていたのかもしれない”という上記記事には強い違和感を感じました。

“何事もなかったような”好意的反応と、“実際に何事もなかったのか”という問題は別物です。
もちろん、戦前日本の置かれていた状況下における日本側の事情とか、欧米列強も植民地支配をおこなっており、当時と現在の倫理観・行動規範には差があること、意図的に日本支配の負の側面を強調するようなプロパガンダもあったであろうこと・・・等々はあったとしても、日本支配のもとで現地社会との間で犠牲を伴う軋轢があったことも事実でしょう。

そうした過去を忘れてしまっていいものではありません。特に、加害者側は忘れてしまいがちですから留意する必要があります。

中国・韓国との間では絶えず歴史認識が問題となります。
いつまでも日本の非を言い立てる対応に辟易することも多々あろうかとは思いますが、立場を入れ替えて、もし日本が同じような植民地支配される立場に置かれ、同じような悲惨な経験をしたら、日本が行っているような説明・主張で納得するだろうか・・・少し考えてみるのがいいかと思います。

「いつまでも訳のわからないことを言う奴だ」という反応からスタートするのと、「立場が逆なら、そうした感情もあるのかも」という認識からスタートするのでは、異なる結論が出るのではないでしょうか。
個人レベルでも、国家レベルでも、相手の立場にたって考えるわずかばかりのイマジネーションがあれば、大方の争い事は緩和されるのではないでしょうか。
コメント (3)
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