孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  カルザイ大統領、アメリカとの安全保障協定署名を事実上拒否

2013-12-06 22:37:28 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンからの帰還兵士 “flickr”より http://www.flickr.com/photos/47326183@N07/10888788684/in/photolist-hAcTvW-hActi9-hAeDwi-hAcPy9-hAc1nz-hAdmGb-hAeviK-hAeaVB-hAcT3o-hAccKK-hAe6Xg-hAcTQ3-hAcUTq-hAcdHN-hAdLgT-hAd2SM-hAe8Ya-hAd2CY-hAdST1-hAd5XU-hAeskv-hAcSJW-i1ZHQP-i3GthU-i3GeHi-hZ62xp-hZ63f6-hZ6kt3-i3pzLh-i6nPUy-i6nQ9H-i6nQ3v-i6oqmZ-i6nPQL-i5iGhT-hUUbMy-i4GPCs-i4GR9J-hAcMJs-hAdD4h-hAdWoB-hAdbsm-hAcVCU-hAddPh-hAda8j-hAcoNh-hAcLQc-hAdVta-hAeFHc-hAdhGA-hAd9GY)

【「米国ともっと政治取引をする必要がある」】
米軍など外国部隊がアフガニスタンから撤退する14年末以降の一部残留をめぐっては、カルザイ大統領とアメリカ側の交渉で大筋合意したものの、米兵の犯罪に関する裁判権をアフガニスタン・アメリカのどちらが有するかという問題を含む安全保障協定については、カルザイ大統領は「アフガニスタン政府の権限を越えている」として判断を留保、最終判断を国民大会議(ロヤ・ジルガ)にゆだねるとしていました。
(11月19日ブログ「アフガニスタン 米軍“完全撤退”をめぐる議論 ロヤ・ジルガとアメリカ国内悲観論」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131119

アメリカ側は、裁判権で合意が得られなければ残留はできず、完全撤退もやむを得ないとの姿勢を見せています。
実際、イラクでは合意が得られず完全撤退が現実のものになっています。
アメリカとの合意がまとまれば、他のNATO加盟国とも同様内容で話が進みます。

注目された国民大会議(ロヤ・ジルガ)は、アメリカの一部残留を可能とするため「大統領は年内に署名し、議会に付託するべきだ」との結論に至りましたが、カルザイ大統領は年内署名を拒んでいます。

****アフガン国民会議、米軍駐留延長を承認 カルザイ大統領は態度保留****
米軍が2015年以降もアフガニスタンに駐留を続けるための対米協定について、同国の国民大会議(ロヤ・ジルガ)は24日、協定案を承認し、カルザイ大統領に年内の署名を求める宣言を発表した。

米軍の一部の駐留継続へ後押しとなるが、カルザイ氏は「米国ともっと政治取引をする必要がある」として、署名の時期については明言しなかった。

米国側は10年、アフガニスタンに対し14年末までに治安権限を移譲することを決めた。しかし、完全撤退すると再びテロリストの温床になりかねないとの判断から、部隊を縮小して駐留を続ける方針を示している。

問題となっていたのは、駐留を続けるための安全保障協定案。米兵が罪を犯した場合でも裁判権が米国側にあることなどの内容が盛り込まれている。このため伝統的な民意の集約機関で部族長らが集まるロヤ・ジルガが、どのような対応を示すのか注目されていた。

24日の会議では「カルザイ大統領は一刻も早く署名するべきだ」という意見が相次いだ。米軍が撤退すれば混乱は避けられないためで、最終宣言は「大統領は年内に署名し、議会に付託するべきだ」とした。
今後の焦点は、カルザイ大統領がいつ協定に署名するかだ。

米国側は年内締結にこだわる。締結後、同じくアフガンに派兵している北大西洋条約機構(NATO)の他の加盟国もアフガニスタンと同様の協定を結んで、駐留延長に加わる道筋を描いているからだ。

しかし、カルザイ氏はこの日、即時の署名を拒否するとともに、「この国に平和をもたらすために政治取引が必要だ。治安のカギは米国が握っている。署名の条件は平和だ」と、署名の時期について明言しなかった。

さらに、米軍が武器を持って民家を急襲する捜索を問題視し、「今から家宅捜索が一度でも行われたら、協定は締結しない」とも主張。この問題をめぐってはケリー米国務長官からの要請で「米国人の生命に関わる特異な状況に限る」との条件つきで協定案に盛り込まれた。

米国側は「年内に合意できなければ、駐留できなくなる」(カーニー米大統領報道官)と警告している。

カルザイ氏は再選を果たした前回09年の大統領選で大量の不正が明らかになった投票結果をめぐり、米政府が介入した頃から米側との関係が悪化していた。【11月25日 朝日】
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カルザイ大統領は自身の任期中の署名を避け、来年4月の大統領選以降に先送るする考えを明らかにしています。
この背景には、上記の09年大統領選を巡るアメリカへの恨みや、国民に不人気の米国との協定署名を後任に任せたい思惑があると見られています。

【「NATOの完全撤退もありうる」「再交渉ありえない」】
アメリカなどNATO加盟国は、カルザイ大統領に年内署名を強く迫る姿勢で、それができないなら完全撤退も・・・という方向が現実味をおびています。

****NATO:アフガン撤退も視野****
北大西洋条約機構(NATO)は3日から外相会議を開き、アフガニスタンでの2015年からの訓練部隊展開に向けたアフガンとの安全保障協定締結に関し、「今月末が期限」との合意を改めて確認する。

アフガンのカルザイ大統領は署名を事実上拒否しており、加盟国では「NATOの完全撤退もありうる」(外交筋)との悲観論が強まっている。

NATO外相会議は、今年中に米アフガン間の安保協定と、NATO加盟国とアフガンの「枠組み合意」を締結、14年中に戦闘部隊を撤退させ、15年から8000〜1万2000人規模の訓練部隊に再編する従来の計画を改めて確認する。

4日には、NATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)参加国の会合にアフガンの内相・国防相を招き、協定締結への取り組みを求める。

安保協定はNATOの兵士・兵員が罪を犯した場合、アフガン側の司法権を認めていない。安保協定がなければ「訓練部隊の駐留はあり得ない」のがNATOの総意だ。

しかし「治外法権」を認める安保協定を結べば将来、責任を問われかねないことからカルザイ大統領は署名せず、来年4月の大統領選以降に先送りし、後任に署名させる意思を先月、表明した。

複数の外交筋によると、締結が来年にずれ込めば、作戦案や予算案の準備が間に合わず訓練部隊の再編計画は策定が困難になり、「完全撤退せざるを得ない」との声も強まっている。

また、年41億ドル(約4200億円)と予想されるアフガン国軍の維持費の9割は米国とNATO加盟国が分担する予定で、各国で議会との調整も難しくなりそうだ。

イラクでは安保協定が締結できず11年末に米軍が完全撤退。現在、毎日のようにテロが発生している。テロ根絶を目指し、犠牲者を出しながらアフガンに駐留してきたNATOにとって「同じ状況は避けたい」(別の外交筋)のが本音だ。【12月3日 毎日】
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カルザイ大統領は、米海軍グアンタナモ基地(キューバ)に収容中のアフガン人の釈放など協定締結に新たな条件を出しているようですが、アメリカ側は一切応じない構えです。

****アフガン:「再交渉ありえない」米国務長官が言明****
北大西洋条約機構(NATO)外相会議に出席したケリー米国務長官は3日の記者会見で、2015年からアフガニスタンでNATO訓練部隊を展開させる基礎になるアフガンとの安全保障協定について「再交渉があるとは思わない」と述べた。

アフガンのカルザイ大統領は米海軍グアンタナモ基地(キューバ)に収容中のアフガン人の釈放など協定締結に新たな条件を出しているが、長官はこれを明確に拒否。「早く締結する必要がある」と大統領に決断を促した。(中略)

ケリー長官は安保協定に関し「カルザイ大統領と合意し(先月の)国民大会議でも承認された。一方的な再交渉があるとは思わないし、オバマ大統領も承認しない」と述べた。(後略)【12月4日 毎日】
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強固なアメリカの姿勢に対し、カルザイ大統領はアメリカとの締結に同意せず、代わりにNATOとの交渉を始める意向を示しています。

****アフガン政府:NATOの分断模索…安保協定で****
北大西洋条約機構(NATO)は4日、アフガニスタンを巡る外相レベルの会合を開き、2015年からのNATO訓練部隊展開の基礎になる米国との安全保障協定についてアフガン外相に年内締結を求めた。

アフガン側は米国との締結に同意せず、代わりにNATOとの交渉を始める意向を伝えた。米国と他の加盟国を分断する動きと言え、交渉の混乱が一層深まり訓練部隊展開に暗雲がさしてきた。

外交筋によると、NATO側から米国との安保協定の早期締結を求められたアフガンのオスマニ外相は、締結について明言せず、代わりにNATOとの「枠組み協定」の「交渉を始める用意がある」と述べた。ラスムセン事務総長は、あくまで米国との締結を優先するよう促した。

NATOは、米国が米兵への治外法権を認める安保協定をアフガンと先に締結し、次に同内容の「枠組み協定」をNATOが結ぶシナリオを描いていた。

アフガンのカルザイ大統領は来年4月の大統領選以降に締結を先送りする意向で、NATO内部のかく乱を狙った模様だ。(後略)【12月5日 毎日】
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イラク:完全撤退で宗派間対立再燃
米軍など軍事行動で多数の民間人犠牲者を出していることから、アフガニスタン国内には強い反米感情があること、アフガニスタン大統領としてそうした声を代弁する立場にあることはわかりますが、この期に及んで署名を避けるカルザイ大統領の対応は納得しがたいものがあります。

ましてや、それが“恨み”とか“責任逃れ”から生じているのであれば、論外です。

もちろん、外国部隊が完全撤退してアフガニスタン政府が国内を統治できるのであれば、それは結構なことであり、是非そうあって欲しいものですが、タリバンが勢力を保ち、政権には腐敗・汚職が横行し、政府を支える勢力も民族ごとのいろんな思惑がある状況で、これまでのアフガニスタン政府の統治実績を考えると難しいものがあります。

単にアフガニスタン政府が崩壊するというだけの話なら自業自得ですが、それによる混乱の代償はアフガニスタン国民がその生命で支払うことになります。

安全保障協定で合意が得られず11年末に米軍が完全撤退したイラクでは、マリキ首相のシーア派重視の強引な政治手法もあって、シーア派とスンニ派の間の宗派間抗争が再燃する様相を呈しています。

****イラク、内戦の影再び テロ急増、民間死者数が最悪ペース****
米軍の完全撤退から間もなく2年を迎えるイラクで、テロが急増している。

民間人死者は11月末に7千人を超えた。アルカイダ系イスラム過激派の動きが、隣国シリアの内戦を受けて活発化。宗派対立も強まり、内戦状態に逆戻りしかねない状況に陥っている。

 ■アルカイダ系、活発化
国連イラク支援団(UNAMI)の集計によると、2009年から年3千人前後で推移してきた民間人死者数が今年4月から急増。
今年の死者数が11月末で計7157人に達し、比較可能な統計が残る08年の6787人を超えた。

米ブルッキングス研究所によれば、内戦状態に陥った06~07年には各2万~3万人超が死亡していた。

カフェやモスク、集会場などに集まるシーア派住民への自爆攻撃が大半だが、アルカイダ系の掃討作戦に加わるスンニ派も標的になっている。

ロイター通信によると、4日には北部の油田地帯キルクークで武装集団がショッピング施設を襲い、買い物客ら15人を人質にとって籠城(ろうじょう)。うち1人が自爆するなどし、計11人が死亡、70人がけがをした。

米ワシントン近東政策研究所の調べでは、2010年には月平均10回だった自動車爆弾が、今年は同68回に激増。複数の場所での同時攻撃も10倍以上となった。攻撃がより高度化、組織化しているのが特徴だ。

テロの中核になっているのが、スンニ派でアルカイダ系の旧「イラク・イスラム国」。4月にシリアのアルカイダ系ヌスラ戦線と合併して「イラク・シリア・イスラム国」(ISIS)に改編すると宣言した。
合併自体はヌスラ側の反発で実現しなかったが、イラクとシリアで攻撃を活発化させた。

 ■米軍撤退が一因
同研究所のマイケル・ナイツ研究員は、11年末の米軍完全撤退が「アルカイダ系復活の一因なのは明白だ」と指摘する。

更に、装備や情報収集能力で劣るイラク軍には、同西部からシリア東部に広がる砂漠や谷間に点在する隠れ家を掃討する能力が足りない。

米軍の支援で掃討作戦を担ってきたスンニ派主体の武装組織「覚醒評議会」も弱体化した。

ISISは7月にはアブグレイブなど2刑務所を襲撃し、アルカイダ系幹部を含む数百人が脱走。多くがISISに加わってシリアに向かったとされる。

宗派対立の深刻化もISISへの追い風となっている。国内では、シーア派のマリキ首相率いる政府に対するスンニ派の抗議デモが激化。
レバノンのシーア派組織ヒズボラが5月、ISISが勢力を広げる隣国シリアの内戦に本格参入し、対立の構図が国境を越えて広がった。

 ■経済にも悪影響
原油増産で明るさが見えていたイラク経済にも暗い影が落ち始めた。
11月に開かれたバグダッド国際見本市では、参加企業数が昨年の約1500社から約700社へと半減した。

来年4月に総選挙を控えて危機感を強めるマリキ首相は10月末、米軍の完全撤退後に初めて訪米した。オバマ大統領とテロ対策での連携で合意したものの、治安改善の抜本策は見えないままだ。【12月6日 朝日】
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マリキ首相の訪米が完全撤退後初めてというのも驚きです。
ここまで混乱が拡大してから再び頼られても、アメリカも困るのではないでしょうか。

イラクにしても、アフガニスタンにしても、アメリカの軍事行動の正当性を否定する向きは多々ありますが、それはそれとして、アメリカの立場に立てば、イラク・アフガニスタンに費やした巨額の資金、そしてなによりも両国で流した自国兵士の血はいったい何だったのか・・・という虚しさに襲われるのではないでしょうか?
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