孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

揺れるウクライナ  反政府デモ拡大、一部暴徒化も 

2013-12-09 22:37:38 | 欧州情勢

(治安部隊の盾にバラを挿すデモ参加の女性 ただ、レーニン像を引き倒すような暴徒もいます。“flickr”より By Jf1234 http://www.flickr.com/photos/kde-head/1838470/in/photolist-aqvL-aqvM-cq3K-cq4d-cq4v-cq4Q-cq55-cq5m-cq5v-cq5J-cq5W-6yegR-6yegS-u1ppb-6x3aXy-hYmEQA-ebLmTt-hQuGUt-crTmhG-crTuUW-crTuoQ-crTyVG-crTiuN-crTr6J-crTq7E-crTjPQ-crTj3b-crTgDS-crTwPN-crTxUU-crToBm-crTya5-crTx89-crTtTS-crToNy-crTkGq-crTthw-crTfnj-crTzqC-crTu8L-crTkpf-crTjAS-crTg9m-crTk99-crTwzG-crThWf-crTeRb-crTwhY-crThD5-crTv8U-crTmQy/)

EU、ロシアの間で危うい綱渡り
東方拡大を進めてきたEUと、勢力圏再構築を狙うロシアの思惑がぶつかり合う場ともなっている旧ソ連ウクライナのヤヌコビッチ大統領は、欧州連合(EU)加盟に道を開く「連合協定」締結直前になって、その条件となっていた親欧米派で拘束中の政敵ティモシェンコ前首相の国外(ドイツ)療養を認めず、「連合協定」署名を見送るという形で、ロシア接近への方向転換を見せています。
(11月28日ブログ「EUとロシアのはざまで揺れるウクライナとモルドバ」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131128

2004年の「オレンジ革命」で成立した親欧米派ユーシェンコ大統領が経済不振・相次ぐ国内政争から国民の支持を失い、2010年、ティモシェンコ前首相を僅差で退けヤ親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が誕生しました。

もともとヤヌコビッチ大統領は ロシアとの経済関係が強くロシア系住民も多いウクライナ東部の出身で、ロシア重視の政策をかかげ、選挙戦でもロシアからの支持を受けて当選を果たした親ロシア派ですから、就任直後はロシアとの関係改善に動きました。

しかし、その後はロシアと距離を起き、EUと接近する姿勢を見せていました。
今回見送られた「連合協定」もそうしたEU接近の延長線上にあるものです。

****ロシアか EUか 揺れるウクライナ**** 
・・・・ところが就任後、ロシアとの関係が安定すると見るや、ヤヌコービッチ大統領は路線を修正します。EUとの関係も重視する姿勢を見せ始めたのです。

最初の外遊先に選んだのは、ロシアではなくEU本部のある、ベルギーのブリュッセル。ヤヌコービッチ大統領は「ヨーロッパへの統合を進めることがわが国の外交における優先事項だ」と述べ、将来のEU加盟に向けた協定の締結を目指したのです。

EUとの関係強化に乗りだした背景には、ウクライナ経済を自立させようという狙いがありました。エネルギーの大半をロシアに依存しているウクライナ。 過去に天然ガスの供給を止められた苦い経験がありました。

ヤヌコービッチ大統領を勢いづかせたのが、ウクライナ国内の「シェールガス」の存在です。今月(11月)、ウクライナ政府は欧米のエネルギー企業と、シェールガスの探査を開始する文書に署名しました。
さらにEUとの関係を強化して産業の競争力を高め、ロシア依存の経済から脱却をはかろうとしていたのです。【11月28日 NHK online】
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このウクライナ・ヤヌコビッチ大統領の路線変更は、当然にロシア・プーチン大統領を怒らせます。
勢力圏再構築を図るロシア・プーチン大統領にとって、ウクライナは必要不可欠なピースです。

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ウクライナは、旧ソビエト時代に産業、軍事で重要な拠点が集中した場所です。今でも、ロシア海軍の基地はウクライナの黒海沿岸にあるクリミア半島の一部を租借していまして、ロシアにとっては死活的に、戦略的に重要な国です。

(中略)また、プーチン大統領は、2015年に旧ソビエトの一部の国々をメンバーにして、ユーラシア連合という、EUのような経済圏をつくりたいという構想を掲げています。そこにウクライナという多くの人口を抱え、経済規模も大きな国が加わらなければ、その実効性がなくなると考えています。【同上】
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歴史的にみても、12世紀、ウクライナの地に誕生したキエフ公国が、その後のモスクワ公国・ソ連・ロシアと続くロシア史の原点・故郷であるという意識がロシア側には強くあります。

もっとも、ウクライナ側には、キエフ公国とロシアは別物で、自分たちウクライナがその後継者であるとのナショナリズムがあります。
ウクライナの反ロシア・親欧州の意識の根底には、「キエフ公国以来の高い文化を持つウクライナ」と「モスクワ公国から一貫して専制的なロシア」という対比があるようです。
(参考「ロシアの起源とウクライナの起源」http://www.geocities.co.jp/SilkRoad/5870/zatuwa1.html

いずれにせよ、怒るプーチン大統領は、今年8月、ウクライナ製品の事実上の全面禁輸に踏み切り、ウクライナに圧力をかけます。
また、しばしば“ガス紛争”としてパイプライン下流の欧州各国を巻き込む形で問題となる天然ガスについても、厳しくウクライナに迫っています。

****プーチンに脅されるウクライナ*****
プーチン大統領が天然ガス供給を材料に交渉するのは、今回が初めてではない。

2006年と09年1月の厳冬期にウクライナとの天然ガスの価格交渉が難航したこととガス抜き取り疑惑を理由に、ロシアはウクライナ向け天然ガス供給数量を大きく削減した。

当時欧州向け供給の80%から90%はウクライナ経由のパイプラインで供給されていたので、欧州諸国にも大きな影響を与え、09年の中断の際には、ブルガリアなど6カ国向けのロシアからの供給が全て途絶するなど18カ国が影響を受けた。(中略)

09年の供給途絶の後、ウクライナ政府はロシア・ガスプロムからの購入価格を大きく上げることに合意した。
いま、その価格は、ガスプロムのドイツ向け価格1000立方メートル当たり400ドルを上回る430ドルだ。
ウクライナは「適正価格は250ドル」と主張しているが、プーチン大統領が提示した価格引き下げの条件は、ウクライナ国内のパイプラインをガスプロムに譲渡するか、あるいはロシアが主導する関税同盟にウクライナが参加するかだ。どちらもウクライナが受け入れられる条件ではなかった。

11月29日のEU・ウクライナの連合協定調印予定が決まってからは、プーチン大統領は、サンクトペテルブルク市に勤務していた際の部下であったガスプロムのミレル社長経由で、さらに圧力を強めた。

ミレル社長は、「ウクライナのガス料金支払いは遅れており、10月1日現在で5億5000ポンドが未払いになっている」と主張し、直ちに支払うことを要求した。ロシアの意図がウクライナのEUへの接近阻止にあるのは明らかだった。

一方、ウクライナは、料金値上げ以降の過去3年間で200億ドル以上の過払いがあると反論し、契約の見直しがなければ、ロシアからのガス購入を中断すると10月10日に発表した。

これに対し、10月末にはガスプロムは、未払い問題が解決しない限り前払いが必要とウクライナに要求する。

ウクライナは11月11日にロシアからのガス購入を中止し、ハンガリー、ポーランドなどが輸入しているガスを迂回購入する契約を結ぶが、結局4日後にロシアからのガス購入が再開された。

その6日後には、ウクライナ政府がEUとの連合協定調印の準備作業を中断し、ロシアの関税同盟に関する対話を再開すると発表することになり、国内は大きな混乱に陥った。(後略)【12月5日 WEDGE】
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上記記事では、ウクライナが“変心”する11月後半に、ロシアとの間でどのようなやり取りがあったのかは定かではありませんが、相当にシビアなやり取りがあったであろうことは想像できます。
もっとも、プーチン大統領は、ウクライナに圧力をかけているのはEUの方だと、EU側を批判していますが。

このような流れを経て、突然のヤヌコビッチ大統領のロシア回帰というか変心というか、再度の路線変更が行われました。
EUとロシアの綱引きが行われるなかで、その双方から最大限の利益を引き出そうとするバランス外交との見方もありますが、相当に危うい綱渡りでもあります。

【「オレンジ革命」以来の政情不安定化
ただ、これで話が収まった訳でないことは、連日報じられている反ロシア・親欧州デモに見るとおりです。

****ウクライナ:15年大統領選にらみ溝 反政府デモ続く*****
欧州連合(EU)との連合協定署名見送りに端を発したウクライナの反政府デモは、4日で2週間。
2004年の民主化運動「オレンジ革命」以来の政情不安定化の背景には、15年初頭に予定される次期大統領選をにらんだ与野党の対立がある。ロシアとEUのどちらに接近するかや、地域、年代による政治志向の違いも絡み、国内の溝は深まっている。

首都キエフ中心部に約1万人のデモ隊が陣取る中で開かれた3日のウクライナ国会(定数450)。野党側提出の内閣不信任決議案の投票が行われたが賛成は3野党の169人と無所属議員ら計186人にとどまった。

現地からの報道によると、反政府デモ支援の野党指導者にはオレンジ革命の立役者が多い。04年大統領選でやり直しの決戦投票を実現させ首相だったヤヌコビッチ氏の当選を阻んだ勢力だ。

ティモシェンコ前首相=服役中=を中心とする最大野党「連合野党・祖国」を率いるヤツェニュク氏は親欧米のユーシェンコ前政権で外相と経済相を務めた。野党第2党「ウダル」党首でボクサー出身のクリチコ氏も前大統領顧問として政治活動を開始している。

次期大統領選への出馬を明言するクリチコ氏ら野党側は現政権打倒を目指し、選挙の前倒し実施を求める。与党「地域党」は工業が盛んな東部を地盤に財界の支持も受け一歩も引かない構えだ。

キエフ国際社会学研究所の11月中旬の世論調査では、EU加盟支持は39%、ロシア主導の経済ブロック「関税同盟」加入支持は37%で、ほぼ伯仲。欧州との関係が強い西部では69%がEU加盟支持だが、ロシア系住民の多い東部では関税同盟支持が61%で地域差は歴然だ。18〜29歳のEU志向は5割超だ。

亀裂の走る世論を背景に、ヤヌコビッチ大統領は改めて1日、「EU接近に全力を尽くす」と表明、協定交渉継続の意向を示した。一方、ロシアへは4日、関係改善交渉のため代表団を派遣。再選を目指しバランス外交を続けている。【12月4日 毎日】
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4日には、ヤヌコビッチ大統領の最側近の一人であるアルブゾフ第1副首相は、首都キエフなど全土で続くEU加盟を求める反政権デモを受け、大統領と最高会議(議会)の前倒し選挙を実施する可能性に言及しています。

中国・ロシアからの資金援助
こうした混乱が続く国内情勢のなかで、ヤヌコビッチ大統領は中国・ロシアを訪問してロシアへの返済のための金策・交渉に努めています。

****国内混乱のウクライナ大統領が訪中…援助獲得で****
中国外務省によると、ウクライナのヤヌコビッチ大統領は5日、訪問先の北京で中国の 習近平 ( シージンピン )国家主席と会談し、幅広い分野での経済協力強化で合意した。

大規模な反政府集会でウクライナ国内は大揺れだが、経済立て直しのため、中国への外遊による援助獲得を優先した模様だ。

ロシアのインターファクス通信によると、大統領は約80億ドル(約8200億円)分の援助協力で合意したことを明らかにした。昨年の2国間貿易の総額に匹敵する額だ。

中国紙・環球時報によると、ウクライナはロシア産天然ガスの購入費と政府債務の返済のため、2014年中に約170億ドル(約1兆7400億円)の確保を迫られているという。【12月5日 読売】
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****ウクライナ・ロシア首脳 良好な関係を****
ヨーロッパとロシアのどちらとの関係を重視するかを巡って揺れてきたウクライナで、ヨーロッパへの接近を求める反政府デモが続くなか、ヤヌコービッチ大統領はロシアのプーチン大統領と会談し、ロシアと良好な関係作りに努める姿勢を示しました。

ウクライナでは先月下旬、政府がEU=ヨーロッパ連合に加盟するための前提となる協定の締結を見送ったことに抗議して、野党勢力や市民が集会を開いたり政府庁舎を封鎖したりして、大規模なデモを続けています。こうしたなか、ウクライナのヤヌコービッチ大統領は6日、ロシア南部のソチを訪問し、プーチン大統領と会談しました。

ウクライナ政府の発表によりますと、両首脳は貿易・経済の問題のほか、将来の戦略的パートナーシップに関する条約について意見を交わしたということで、良好な関係作りに努める姿勢を示しました。

会談で両首脳は、ウクライナで続く反政府デモやEUとの関係についても意見を交わしたものとみられます。

ウクライナを巡っては、欧米各国が野党勢力などが続けているデモを支持する一方で、ロシアはヤヌコービッチ政権を支持しており、欧米とロシアを巻き込む形で対立が深まっています。
今回、ヤヌコービッチ大統領がプーチン大統領と会談したことで、ヨーロッパへの接近を求める市民の反発が一層強まることも予想されます。【12月7日 NHK】
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引き倒されたレーニン像
このプーチン大統領との会談で、ヤヌコビッチ大統領は天然ガスの輸入価格の引き下げなどを求めていますが、安価なガスと数十億ドル(数千億円)の援助と引き換えにウクライナがロシア主導の関税同盟に参加することを認めたとする憶測もあり、反政府デモをさらに刺激しています。

****EU加盟デモ、20万人規模に=レーニン像破壊―ウクライナ****
ウクライナで欧州連合(EU)加盟を求める反政権デモが8日行われ、AFP通信によると、首都キエフ中心部「独立広場」には約20万人が集結した。

夜には一部が暴徒化し、旧ソ連の象徴である革命家レーニンの銅像を引き倒した。主要野党は「(破壊は)許可していない」と釈明した。

11月21日にヤヌコビッチ政権がEUとの「連合協定」署名見送りを発表した後、週末の大規模デモは3度目。治安当局は内乱と騒乱の容疑で捜査を始めた。

今回は初めて地方からもデモ隊が大量動員された。
野党は「12月17日に政権が(ロシア、ベラルーシ、カザフスタンでつくる)関税同盟加盟文書に署名するとの情報がある」と主張。

収監中のティモシェンコ前首相は声明を出し、対ロシア関係を最優先させるヤヌコビッチ大統領の即時退陣を要求した。【12月9日 時事】 
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11月30日未明にも、治安部隊がデモ隊の強制排除に乗り出し、広場にいた30人以上の若者らを拘束、立件に向けた捜査に着手したことがあります。
その際に治安部隊の一部がこん棒で若者らを殴る映像が公開される、なりふり構わぬ強権姿勢に出たヤヌコビッチ政権への怒りが一気に爆発してデモが拡大したことがありました。

このときは、ヤヌコビッチ大統領は「独立広場で今朝にかけて起きた出来事に激しい怒りを覚える。対立と人々の苦しみをもたらした行動を非難する」との声明を発表し、責任がある者を罰すると述べて沈静化を図りました。

ただ、8日のデモのように一部が暴徒化すると、治安当局も再び強硬な対応をとることも予想されます。

反政権派は、ヤヌコビッチ大統領が48時間以内に政権を解散しないならば、キエフ郊外のドニプロ川の岸辺にある同大統領の豪邸を封鎖する構えを見せていると報じられています。【12月9日 AFPより】

今後の治安当局の対応、ロシアとの関税同盟の行方次第で、更に緊迫した事態も予想されるウクライナです。

なお、11月25日から抗議のハンストを行っていた収監中のティモシェンコ前首相は、12日目の6日、ハンストを中止しています。
“デモ参加者から健康悪化を懸念する声が高まったのが理由。デモの拡大を踏まえ、一定の成果は得られたと判断したもようだ”【12月7日 時事】
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