孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  移民増加で深まる英社会の苛立ち キャメロン首相の移民規制策

2013-12-26 23:18:09 | 難民・移民


(「不法移民は帰国しろ」と書かれたイギリス内務省の宣伝カー その後、キャンペーンは中止されました。【10月24日 WSJ】http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304523904579154812025062456.html

【「どうして我々までがイスラムの信仰に従う必要があるのか」】
移民・難民に関する話題を取り上げる際に再三言っているように、異なる文化を持つ者が一緒に暮らすということは非常に難しい問題です。

ただ、だから移民・難民は受け入れるべきでないというのも短絡的であり、極端な外国人排斥的な言動は自らの品位を貶める行為に思えます。

外国人を受け入れる側からすれば、どこまで異文化を許容するかという話になりますが、事例にもよりますし、一概に線引きすることはできません。

****英M&S:イスラム従業員の豚肉販売拒否はOK****
英小売り大手「マークス・アンド・スペンサー(M&S)」はイスラム教徒の従業員に対し、酒や豚肉の販売に関わることを拒否することを許可した。

これに対し一部顧客が「なぜイスラムの信仰に従う必要があるのか」と反発し、購買拒否の呼びかけも始まった。他宗教に寛容とされてきた英国だが、移民の増加で国民にはいらだちが深まっているようだ。

英メディアによると、M&Sは従業員の信仰を尊重し、イスラム教徒が酒や豚肉、ユダヤ教徒が豚肉の販売に関与しなくてもいいことを決めた。

豚肉や酒を買おうとした客が、レジのイスラム教徒従業員に別のレジに並ぶよう指示されたことをきっかけに同社の内規が明らかになった。内規の作成時期は不明だが、英メディアは22日から報じた。

インターネットの交流サイトでこの情報が広まり「豚肉や酒に触るのが嫌なら、食料品担当から外すべきだ」「英国はキリスト教と非宗教的な市民が多数だ。どうして我々までがイスラムの信仰に従う必要があるのか」−−などの批判が出た。

M&S広報担当者はデーリー・テレグラフ紙に対し「あらゆる宗教の信仰を尊重すべきだと考えている」と説明した。ただ、英国の他スーパーの多くは、従業員に対し、信仰を理由に特定の品物の販売に携わることを拒否する権利を与えていない。【12月26日 毎日】
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詳しい状況がわかりませんので推測・仮定の話になりますが、“豚肉や酒を買おうとした客が、レジのイスラム教徒従業員に別のレジに並ぶよう指示された”とのことで、もしレジの列に並んでいて、やっと自分の番になったと思ったときにこうした対応を受けたら、やはり不快に思うでしょう。

イスラム教徒が豚肉や酒を忌避するのはかまいませんが、「豚肉や酒に触るのが嫌なら、食料品担当から外すべきだ」というのが常識的でしょう。

移民規制を強めるキャメロン政権
“英国は伝統的にアジア、カリブ海、アフリカなどの旧植民地出身の移民に寛容だった。冷戦後はポーランドなど旧東欧からも多くの移住者を受け入れ、08年のリーマン・ショック後、その数は年間20万人を超えた。”【8月11日 読売】というイギリスですが、“移民の増加で国民にはいらだちが深まっている”のが現状です。

そうした社会不満を背景に、2010年の総選挙で、当時、最大野党だった保守党党首のキャメロン氏は、移民の数を年間10万人未満に制限すると移民規制を公約して勝利しました。

実際、キャメロン政権は移民規制を強化する姿勢を見せています。

****なぜ非白人狙う…英移民政策に批判「差別的****
キャメロン英政権が、移民の数を年間10万人未満に制限するとした公約実行に本格的に乗り出した。

2015年の次期総選挙を視野に、「反移民」を掲げる右派政党に奪われた支持層を取り戻すことが狙いだ。歴史的な移民への寛容政策を転換しようとする首相に、最大野党・労働党などは反発を強めている。

英内務省は今月1日、ロンドン、マンチェスター、ダラムなど都市部で不法移民の一斉摘発を行った。不法就労などの疑いがある139人を摘発し、マーク・ハーパー移民担当相は「脱税や劣悪な労働環境を生む不法移民を許さない」と成果を強調した。

ところが、この後、捜査官が有色人種だけを選び、職務質問したと、人権団体などが問題提起した。実際、摘発された人の多くは黒人や南アジア系だった。

最大野党・労働党のドリーン・ローレンス下院議員は「移民には白人もいる。なぜ非白人だけ狙うのか」と人種差別があったと指摘。

これを受け、行政機関に是正措置を命ずる権限を持つ国の独立機関「平等人権委員会」が実態調査に乗り出した。英国は、1976年の人種関係法や2006年の平等法で人種に基づいて人に不利益をもたらす行為を禁じており、同委が是正を求める可能性がある。

同委は、内務省が移民の多いロンドン郊外の6地区で「不法滞在者は出国しなければ捕まる」と移民を脅すかのような広告を掲載した車両2台を7月下旬に走らせたことも問題視する。
(中略)
首相は秋には不法滞在者を雇った事業者への罰則を強化する新法案も下院に提出する方針だ。「英国人から雇用を奪う移民の排斥」を打ち出し、右派政党・独立党が支持を拡大していることが念頭にある。
これに対し、労働党は、首相の政策は「人種差別的」として政権攻撃の材料とする構えだ。【8月11日 読売】
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上記記事にもある「不法移民は帰国しろ。さもなければ、逮捕する」と書かれた宣伝カーをロンドン市内で走らせる公共広告キャンペーンについては、滞在する権利のない人たちに国内にとどまれないと告げることには何の問題もない・・・とは言うものの、表現があまりに露骨だとの批判があり、中止されています。

****英国、「不法移民は帰国しろ」キャンペーンを断念 -厳しい批判受け****
英国政府は22日、「不法移民は帰国しろ。さもなければ、逮捕する」と書かれた宣伝カーをロンドン市内で走らせる公共広告キャンペーンを取りやめると発表した。
この活動は、人権擁護団体などから大きな批判を浴びていた。

政府は中止の理由について、表現があまりに露骨である上、その効果も疑わしいためと述べた。

当局は7月、物議を醸すメッセージが表示された2台のバンをロンドン市内6つの地区で1週間試験的に走らせた。これは、キャメロン首相が掲げる不法移民取り締まり強化策の一環として行われたもので、その政策は2015年の次期総選挙を前に政治論争の重要な的となっている。

しかし、この宣伝カーに、人権擁護団体や広告業界の監視機関、連立パートナーの自由民主党から相次いで批判が寄せられた。一部の人権団体は、「帰国しろ」というフレーズは、70年代の人種差別団体のスローガンをほうふつとさせるものだと指摘。

また、自民党のケーブル民間企業・技術革新・技能相は、愚かで侮辱的なやり方だと批判した。

宣伝カーには、当局に出頭した不法移民は支援が得られることや、その際の連絡先が書かれていたほか、手錠の写真やその地域における逮捕者数も掲示されていた。

また、キャメロン首相率いる保守党と連立を組む自民党が、このキャンペーンについて相談を受けていないと不満を訴えたことで、連立政権内の亀裂もあらわになった。(後略)【10月24日 WSJ】
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【「貧乏な移民は来ないで」】
イスラム教徒やインド人のような異文化ではないEU域内からの移民についても、職を奪われるという不満や、貧困移民への社会保障費用がかさむという財政問題が生じます。

“欧州債務危機を受けて、ますます多くのヨーロッパ人がイギリスへ就労に行き、これらの移民は主にスペイン人やポルトガル人である。

また、2012年、イギリスへ移民したスペイン人は2万7000人となり、2011年の1万7000人を遥かに超えた。EU諸国からの純移民流入数が2012年に7万2000人増の10万600人に達した。イギリス国家統計局の報告書で明らかになった。

目下、イギリス政府は、来年1月、ルーマニアとブルガリア移民の就労自由化を実現すれば、イギリスの移民数が急増すると懸念を抱いている。これに対し、キャメロン首相は新たな制限策を制定した。”【12月3日 日本新華夏株式会社】

そのキャメロン首相による新たな制限策が「貧乏な移民は来ないで」というものです。

****英の新措置法「貧乏な移民は来ないで****
英国のキャメロン首相が11月末、他の欧州連合(EU)諸国からの移民に対する失業手当など社会保障費の支給制限を来年1月1日から実施すると英BBCテレビに語ったことが、英国などEU内で波紋を呼んでいる。

キャメロン氏が明らかにした“新措置法”は、不就労のEU移民は英入国から3カ月は社会保障支給の対象とならない▽明確に就労できる証明がない場合、6カ月で社会保障サービスの提供を打ち切る▽新規移民は住宅手当の申請ができない▽路上生活者や物ごいは強制送還する▽最低賃金を支払わない雇用者には4倍の罰金を科す-というもの。

同氏は「これはしっかりと働き、正しいことをしている人たちと公平に扱うための措置だ」と述べ、新措置法の導入を正当化。「EUが保証する移動や移民の自由の理念は大切だが、手当が目当ての移民に厳しく対処できるよう、EUは変わらなければならない」と強調した。

しかし、EUの政策執行機関である欧州委員会の委員の一人が「英国は厄介な国だ」とかみついた。
キャメロン氏はこれに「委員たちは、彼らの給料が英国の納税者からも支払われていることを忘れてはいけない」と反論した。

ただ、英国と同じように貧しい移民流入の問題を抱えているドイツのメルケル首相やフランスのオランド大統領は英国に理解を示していると伝えられており、今後もこの問題をめぐる論争は収まりそうにない。

自由や民主主義、平等、人権の尊重などの価値観を高らかにうたうEU加盟国はいまや28カ国。
しかし、「EU域内の移動は自由でも、お金のない貧しい移民には来てほしくない」という英国人のホンネを反映した新措置法は、EUの理念と現実の難しさを浮き彫りにしている。【12月8日 産経】
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中国人移民についてはwelcome
ところで、イギリスで現在一番多い移民は、イスラム教徒でもインド人でもEU域内移民でもなく、留学生を中心とする中国人だそうです。

****イギリス人口統計:中国がイギリス最大の移民送り出し国に浮上****
イギリスへ留学に行く中国人留学生数の増加に伴い、中国はインドを抜いて初めてイギリス最大の移民送り出し国に浮上し、その数は60万人に達した。

2日付の仏紙 「Nouvelles D´Europe」によると、イギリス国家統計局が行った「国際旅客動態調査」では、2012年、イギリスに入国した中国人は4万人とイギリスに入国した外国人総数の8.7%を占めた。インド、ポーランド、アメリカとオーストラリアは順に2~5位となったことが分かった。環球網が伝えた。

イギリスに入国した中国人4万人のうち、多くは留学生であった。イギリス国家統計局の調査報告書によると、大多数の中国人留学生は学業を終えた後、中国へ帰国する。この点はイギリスから出国した旅客を対象とした調査から確認できる。昨年、1万6000人の中国人がイギリスを離れ、中国に帰国し、これはイギリスから出国した外国人総人数の5%を占めた。

関係統計では、今までイギリスでパスポートを所持している中国人の総人数が60万人に達した。そのうち、留学生数は12万人だ。

訪中を前に、イギリスのキャメロン首相は「華人がイギリス社会の発展に積極的な役割を果たしている。統計データから見て、イギリスで華人は失業率と犯罪率が最も低く、最も高い教育を受けてイギリス社会と経済、文化などの発展に貢献している」と語り、「現在、イギリスへ留学に行く中国人留学生が増え続けている。イギリスの大学の募集条件を満たせば、イギリス政府は留学生の上限人数に制限を設けない。これは中英両国の関係発展及び教育、文化と経済分野の交流に役立つ」と強調した。(後略)【12月03日 日本新華夏株式会社】
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移民規制に熱心なキャメロン首相も、経済力を背景にした中国人移民についてはwelcomeのようです。

****英首相の低姿勢の中国訪問が示す手痛い教訓 ****
キャメロン英首相は今週の中国訪問中、これ以上ないほどに低姿勢で、英国人にとっては恥ずかしいほどだった。そんな態度は何も変えなかった。

経済危機から抜け出せない欧州は、世界第2位の経済大国である中国への輸出を増やそうと必死だ。しかし、これと欧州の価値や利益の維持とどのように折り合いを付ければよいのだろうか。(中略)

キャメロン氏は人権問題を持ち出すことにも消極的なようだった。中国政府は昨年、キャメロン氏がチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と面会したことを受け、両国間のハイレベル交渉を凍結した。今回の訪問を失敗させるわけにはいかなかった。(中略)

興味深いことに、政府はこうした戦略から得るものがほとんど、または何もないと頭では分かっている。
ドイツのビジネスが中国でうまく行っているのは、中国人が買いたいと思うものをたくさん作っているからだ。

キャメロン氏は今回の訪問の結果、数十億ポンド相当の取引が成立したと言う。だが、英企業は適切な価格で提供できるものがないと成功できないというのが現実だ。(後略)【12月6日 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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