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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国人船長が処分保留で釈放 経済先行の日中関係再考の契機に

2010-09-25 18:04:41 | 国際情勢

(満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)から79年となる9月18日、北京で行われた尖閣諸島問題に関する日本への抗議デモ デモ自体は小規模で(写真で見ると、そこそこの人数はいるようですが)当局側の管理下で行われたと報じられています。 “flickr”より By roserose5
http://www.flickr.com/photos/54115026@N04/5007144719/ )

【破滅的なチキンレースを回避】
尖閣諸島沖の日本領海内で起きた中国漁船衝突事件で逮捕、拘置されていた中国人船長が処分保留で釈放された件に関して、日本国内では“中国の理不尽な恫喝に屈して無様に白旗をあげた・・・”との日本政府への批判が多いかと思われます。

そうした批判が多いなかで書くのもためらわれますが、日本経済が大きく中国に依存している現実、中国における日本対する屈折した感情を考えると、放置すれば事態は破滅的にエスカレートする危険もあり、傷の浅いうちでの今回措置はやむを得なかったのではないかと、個人的には考えています。
外交に不慣れな民主党政権が、強硬姿勢を強める一方の中国側対応を当初予想しておらず、対策にあわてふためいたという面はあるでしょうが。

中国国内事情を考えると、中国政府が対日問題に関してここまで振り上げた拳を中途半端な形で下ろすことは考えられません。それは中国政府にとってはできないことでしょう。
後は、相手が降りるまでエスカレートさせるチキンレースの展開だけです。
日本が頼りにしてきたアメリカも対中国関係重視で、よほどのことがない限り日本支援には動かないことも、今回のことで明らかになりました。

【変化する日中関係への対応】
かつて日本経済はアメリカに依存し、「アメリカがくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」と言われていました。
であるからこそ、日本はアメリカに対し「配慮」「気遣い」もしたし、いろんな人脈・パイプで関係を調整しようと努めていました。
たとえ、安保同盟国でもある「友好国」、国民感情も相互にそんなに悪くないアメリカに対してであっても。

今や中国は日本にとって“いつの間にか”最大の貿易相手国になっています。
経済規模で中国が日本を抜いた云々が話題になったりもしますが、現在のペースで行けばその差は急速に拡大し、人民元切り上げなども考慮すれば、わずか数年後の2010年代後半には、中国の名目GDPが日本の2倍になる可能性も言われています。レアアースの問題に限らず、経済的力関係は急速に中国側に傾いています。

現実は、「中国がくしゃみをすれば、日本は風邪をひく」ような関係に向かっています。
にもかかわらず、かつての日米関係のような配慮が、中国に対してなされてきたとも思えません。
かつて、日米間でも経済戦争と言われる事態もありましたが、現在の日中間でそうした事態が起きれば、風に煽られた野火のように一気に事態は悪化・拡大する危険があります。

両国の国民感情は必ずしも良好とは言えず、過去の歴史を引きずっている部分があります。
中国側には、かつての戦争・支配に対する反日感情が根深く、最近の急速な経済発展による自信が、日本への強硬な姿勢となって吹き出しかねない素地があります。
日本側の中国に対する感情には、戦前あるいは日中国交回復当時の相手を格下に見下すような部分があります。
また、ギョーザ事件などにみられるような最近の中国の国益第一主義の理不尽な言動に対する不信感も強くあります。追い上げられた者の不安・焦りみたいな感情もあるようにも見えます。

そうした両国を結ぶ人脈・パイプは貧弱です。
菅首相は「民主党には(中国で副首相級の)戴秉国(たいへいこく)(国務委員)と話せるやつもいない。だからこういうことになるんだ」とこぼしたそうです。

****いらだつ首相「超法規的措置は取れないのか」*****
22日の訪米を控えた菅首相は、周囲にいらだちをぶつけた。沖縄・尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で、中国の対抗措置の報告が次々に上がってきていた。
首相は「民主党には(中国で副首相級の)戴秉国(たいへいこく)(国務委員)と話せるやつもいない。だからこういうことになるんだ」とこぼした、と関係者は語る。

首相とその周辺が中国人船長の扱いをめぐる「落としどころ」を本気で探り始めたのは、船長の拘置期限が延長された19日以降のことだ。この日を境に中国政府は、日本人4人を拘束し、レアアース(希土類)の対日輸出禁止の動きに出るなど、本格的な「報復カード」を相次いで切った。
実際に「船長釈放」に動いたのは、仙谷官房長官と前原外相だったとされる。
23日朝、ニューヨーク。日中関係の行方を懸念するクリントン米国務長官と向かい合った前原外相は、こう自信ありげに伝えた。「まもなく解決しますから」
那覇地検が船長を釈放すると発表したのは、その半日余り後の日本時間24日午後2時半だった。東京・霞が関の海上保安庁に、寝耳に水の一報が入ったのは、そのわずか10分ほど前。
「戦争になるよりはいい。このまま行けば、駐日大使の引き揚げ、国交断絶もありえた」――。首相に近い政府筋は24日夜、船長釈放に政治判断が動いたことを、周囲に苦しげに認めた。

「那覇地検の判断なので、それを了としたい」
仙谷官房長官は24日夕の記者会見で、ひたすら「地検の判断」を繰り返し、政治の介入を否定した。
柳田法相もこの後すぐ、法務省で記者団を前に「法相として検察庁法14条に基づく指揮権を行使した事実はない」とのコメントを読み上げた。質問は一切受けつけなかった。
だが、こうした弁明は、世間には通用したとはとても言えない。首相官邸には直後から「弱腰だ」といった抗議電話が殺到。官邸職員は対応に追われた。

民主党代表選での再選、内閣改造・党役員人事を経て、ようやく本格的な政権運営に着手したばかりの菅首相。「中国に譲歩した」と見られて再び世論の支持を失う失態は、できれば避けたかった。
首相がそれでも「政治決断」を選択したのは、中国の反発の強さが当初の予想を超えていたためだ。
19日の拘置延長決定後、中国は、20日に日本人4人を拘束、21日にはレアアース(希土類)の対日禁輸に踏み切るなど、たたみかけるように「対抗措置」を取った。日本側はこれらを公表しなかった。だが、ニューヨークにいた温家宝首相は21日夜(日本時間22日朝)、在米中国人約400人が出席する会合で、船長釈放を要求する異例の動きに出た。これが、官邸内に広がりつつあった「このままではまずい」という思いを、政府の共通認識にまで押し上げるきっかけとなった。
「あそこまで強硬にやるとは……。海上保安庁の船長逮捕の方針にゴーサインを出した時、甘く見ていたかもしれない」。政府関係者は、そもそも「初動」に判断ミスがあった、と苦々しげに振り返る。

菅政権の政治判断の背景には、郵便不正事件をめぐって大阪地検特捜部の主任検事が最高検に証拠隠滅容疑で21日に逮捕されたことで検察の威信が低下し、「今なら検察も言うことをきくだろう」との思惑が働いていたとの見方がある。
実際、船長以外の船員と船を中国に帰すにあたっては、「外務省が検察にかなり強く働きかけていた」と証言する日中関係筋もいる。
検察幹部も「外務省から、起訴した場合の日中関係への影響などについて意見を求めた」と話し、双方で早い段階からやりとりをしていたことがわかる。その際、起訴に向けた表立った異論はそうなかったとみられる。政府内に「迷い」が生じたのは、やはり19日に船長の拘置延長が決まった後だったようだ。

船長釈放は、結果として日米首脳会談直後というタイミングになった。このため、「米国からこれ以上の日中関係悪化について、いいかげんにしろ、と圧力がかかったのでは」との指摘すら出ている。
政府・民主党内でも、官邸の判断に対する評価は分かれる。「中国ではスパイ容疑は最悪、死刑が適用される。4人の人命がかかっていた」との危機感から理解を示す声がある一方、「レアアース問題は、世界貿易機関(WTO)に提訴すれば中国は負ける。ごり押しすれば勝てる、と中国にまた思わせただけだ」といった批判も多い。
「菅も仙谷も、外交なんて全くの門外漢だ。恫喝され、慌てふためいて釈放しただけ。中国は、日本は脅せば譲る、とまた自信を持って無理難題を言う。他のアジアの国々もがっかりする」。党幹部はうめいた。【9月25日 読売】
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菅首相の愚痴は正解です。
いたずらに「国威が損なわれた」云々の感情論に終始するのではなく、これだけ経済的に重要な存在になりながら、しかも国民感情が複雑な関係にありながら、それを放置し、間をとりもつ人脈もない・・・そうした事態こそ問題とすべき点でしょう。
単純な「力比べ」ができる相手ではもはやなくなりつつあることを踏まえて、今後の冷静な対策が求められます。



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