孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン政権内に「対立」?

2010-09-16 19:54:40 | 国際情勢

(9月8日 全会派一致でイランの石打ち刑批判を採択した欧州議会 “flickr”より By European Parliament http://www.flickr.com/photos/european_parliament/4973101259/ )

【石打ち刑執行停止】
姦通罪で石打ちによる死刑を宣告されたイラン女性、サキネ・モハマディ・アシュティアニさんは、姦通罪以外にも夫を殺害した共犯者とされており、8月11日には罪を認める告白映像がテレビで放送されましたが、彼女の弁護士は、12日の英紙ガーディアンとのインタビューで、女性はイラン当局から拷問を受け、「自分の夫の殺人に関与した」と国営テレビで告白するよう強要されたと語っています。

石打ち刑は、胸まで地中に埋めて身動きできなくし、周囲から石を投げて死なせる刑です。
アシュティアニさんの処遇をめぐっては欧州で抗議行動が起き、国際的な救済運動に発展しており、イラン当局は死刑執行を一時停止しています。石打ち刑から絞首刑に変わったとの情報もあります。
罪状も当初の姦通罪から夫殺害に重点が変わっているようです。【8月13日 AFPより】

また、英紙タイムズにヘッドスカーフを着用していないアシュティアニさんの写真が掲載されたことが「腐敗とわいせつ」を広めた罪にあたるとして、99回のむち打ち刑の追加執行が決定されたとの報道もありますが、本人と面会したイランの司法関係者の話では、アシュティアニさんは初めて聞いたと言って、驚いていた・・・ということ。アシュティアニさんの息子サジャッドさんは9月6日、パリでの電話会見で、「むち打ち刑が執行されたと聞かされた」と話しています。【9月9日 AFPより】

情報が不明確な部分がありますが、イラン当局も石打ち刑に対する国際批判を考慮して、その対応に迷っているような節も見られます。
****イラン 姦通罪の石打ち刑問題で政府内部に亀裂?*****
世界の人権活動家はイラン政府との戦いで部分的な勝利を収めた。国際的な抗議の広がりに直面した同国政府は先週、姦通罪で石打ち刑が言い渡されていた女性の刑の執行を停止したことを認めた。
刑執行停止の背景にはどんな事情があるのだろう。イラン政府関係者は、石打ち刑の件で政府内部に亀裂が生じたことを示唆する。

イラン外務省のある外交官は、自分も同僚もイランが「正しい」という考えの下で政府の方針を擁護してきたと話す。だが今回の石打ち刑の問題だけでなく、拘束中の反政府活動家が拷問されたり殺されたりしているという話を聞くうちに、政府に疑問を感じるようになってきたという。
「われわれ外交官は、イランが核開発を進めても心配のない法治国家だと説明しなければならない」のだがと、この外交官は語る。
イラン政府の混乱は明らかだ。9月9日、昨年7月にイラクとの国境地帯で拘束した3人のアメリカ人のうち女性I人を釈放すると発表したが、10日になって突然撤回した。
一方、石打ち刑判決を受けたイラン女性は収監されたままで、絞首刑で処刑される可能性が依然として残っている。イランは「非文明国」だという批判は当分、消えてなくなりそうにない。【9月22日号 Newsweek】
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少なくとも石打ち刑は停止されたということでしょうか。

【二転三転したスパイ容疑米国人女性保釈】
14日には、イランでスパイ容疑で拘束された米国人旅行者3人のうち、サラ・ショウルドさん(32)が、保釈金が支払われたあと解放され(米国務省のフィリップ・クローリー報道官は、米国は保釈金を一切支払っていないと述べています)オマーンに到着しました。
この件についてのイラン側対応にも、上記記事にもあるようにブレが見られました。

****イラン大統領に司法が横やり? 米国女性の解放に遅れ****
イラン政府が14日、昨年7月からスパイ容疑で拘束していた米国人女性を保釈した経緯が欧米メディアの関心を呼んでいる。11日に予定されていた保釈が突然延期されるなど、決定をめぐり曲折があったことから、政権内の対立が影響しているのではないかとの観測が広がっている。保釈されたのは、イラン国内に違法に越境したとして、米国人男性2人とともに拘束されていたサラ・ショードさん(32)。イラン司法当局は保釈理由を「健康悪化のため」としている。ショードさんは14日にイランを出国した。

ショードさんの保釈については当初、イランの文化・イスラム指導省が発表。決定にはアフマディネジャド大統領の意向があったとされる。ところが、11日の保釈当日になって司法当局が手続きの不備を理由に保釈延期を発表し、その後、保釈金50万ドル(約4200万円)の納付を条件に保釈が再び許可された。
保釈決定が二転三転した経緯をめぐり、AP通信は、政権内でアフマディネジャド大統領派と、司法部門に権限をもつ最高指導者ハメネイ師を中心とする一派の溝が深まっていると報道。司法当局トップが、大統領の経済・外交政策に批判的なラリジャニ国会議長の弟だったことも、“対立説”に拍車を掛けている。【9月16日 産経】
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【「体制を守るためなら、こんな破壊行為や非道徳的な行動が許されるのでしょうか」】
イラン政権内の“対立説”の真相はよくわかりませんが、いずれにしても保守派内での話であり、最近殆ど報じられることがなくなった反体制派への締め付けは相変わらず厳しいようです。

****イラン 当局の締め付け強化で反体制派があえいでいる*****
世界の人々はイランの国内情勢への関心を失っているようだが、イラン政府は今も反体制派を抑圧し続けている。一方、司法当局は姦通罪での石打ち刑の執行を猶予された女性を処刑しようと画策しているらしい。
8月にニューヨーカー誌が報じたように、イラン政府は反体制派の改革主義者たちへの締め付けを強化している。トラブルを起こしそうな人々を保守派の民兵組織バシジに監視させているのだ。「彼らはあらゆるものをかぎつける」と、改革派とみられるある人物はニューヨーカー誌に語った。「公的な活動だけでなく私生活も監視
されている」
9月初めには、昨年の大統領選挙に立候補した改革派の指導者メフディ・カルビの自宅がバシジと革命防衛隊によって包囲されたと報じられた。3日に予定されていた集会への出席を阻むためだ。カルビの妻ファテメは最高指導者アリ・ハメネイ師に、夫の自由を求める手紙を書いたが、一部の報道によれば、カルビの家は襲撃を受
けて破壊されたという。
英フィナンシャル・タイムズ紙によると、改革派のミルホセイン・ムサビ元首相の妻ザフラ・ラフナバルは8月31日、自宅の外で男たちに取り巻かれた。「男たちは彼女を侮辱し、信仰心を正すよう求めた」と同紙は報じている。
イラン人女性の側に立って発言する外国人も標的になっている。サルコジ仏大統領の妻カーラ・ブルーニが、石打ちによる死刑の執行を猶予された女性サキネ・モハマディ・アシュティアニを擁護すると、ケイハン紙はブルーニを売春婦呼ばわりした。
国際社会の圧力でアシュティアニの刑執行は猶予された。彼女はその後、夫の殺害に関与したとテレビ番組で「自白」したが、出演前に拷問を受けた可能性がある。英デイリー・メール紙は、彼女はいつ処刑されてもおかしくないとしている。
フィナシシャル・タイムズによれば、カルビの妻はハメネイ師への公開書簡にこう書いた。「たとえ途上国とはいえ、個人の基本的権利が守られず、反体制派やその隣人たちがこうした扱いを受ける国がほかにあるでしょうか。体制を守るためなら、こんな破壊行為や非道徳的な行動が許されるのでしょうか」【9月15日号 Newsweek】
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大統領選挙後の熱気を思えば、権力に対して「改革」を実現していくことの難しさを改めて感じます。

コメント
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