孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  イランへの「S300」供与中止 シリアには対艦巡航ミサイルを売却

2010-09-24 20:40:28 | 国際情勢

(08年5月モスクワ 対ドイツ戦勝記念日軍事パレードで披露された対空ミサイルシステム「S300」  “flickr”より By Danner Gyde
http://www.flickr.com/photos/dannergyde/2966814646/ )

【イラン問題での欧米協調明確化】
国連安保理の対イラン追加制裁で、イランへの武器売却は禁止されています。
これに関連して、ロシアがイランに供与することが07年に契約されていたものの、国際的な影響を考慮してイランへの引き渡しが先延ばしにされていた対空ミサイルシステム「S300」について、ロシア・メドベージェフ大統領がその売却禁止を明確にしました。
「S300」については、イスラエルがイランの手に渡ることを極度に警戒しており、もしロシアがイランに「S300」を引き渡すとの情報があれば、イラン空爆に踏み切るのではないか・・・という見方もありました。

****ロシアがイランへの武器売却禁止へ*****
ロシアのメドベージェフ大統領は22日、ロシアの兵器をイランに売却することを禁止する法令に署名した。
売却禁止対象の兵器には、あらゆる種類の戦車、兵員輸送装甲車、軍用機、攻撃用ヘリコプター、軍用艦艇、ミサイルシステムなどが含まれる。国連安保理の対イラン追加制裁の対象となる、対空ミサイルシステム「S300」も含まれている。

これに先立ちロシア国内メディアは、 ロシア政府が対空ミサイルシステム「S300」のイランへの売却の中止を決定したと報じていた。
国営ノボスチ通信社によれば、ロシア軍のマカロフ参謀総長はS300の売却中止決定について、「これが明らかに国連安保理の対イラン追加制裁の対象となるためだ」としている。参謀総長は、今後イランとの間の武器売却契約を終了することになるかは明らかにせず、「すべては、イランがどのように行動かによる」と述べたという。
ロシアは、国連安保理が6月に対イラン追加制裁を発動したことを受けて、S300の引き渡しを凍結していた。【9月23日 CNN】
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「S300」売却契約を破棄した場合、約8000万ドルの違約金が生じるとも報じられています。【9月23日 毎日】

追加制裁が採択された当時、ロシア連邦下院国際問題委員会のコサチェフ委員長は、追加制裁でイランへの大型武器輸出は禁止されたものの、「S300」のような防衛的なシステムは対象になっていないと述べているように、ロシア国内には「攻撃兵器ではない」として、「S300」などの武器の対イラン供与は許されるとの主張が軍産複合体を中心にありましたが、今回の大統領決定はこれを否定する形になっています。
なお、国連安保理の追加制裁は攻撃的武器と防衛的武器を区別していません。

ロシアはこれまで、ブシェール原子力発電所の稼働や「S300」供与といったイランとの取引を保留する形で、イランへの影響力を「イランカード」として対欧米外交において利用してきましたが、今回決定は欧米との協調姿勢を明示する狙いがあると思われます。

【中東には引き続き関与】
イランへの「S300」売却中止でロシアの中東への関与がなくなるのかと言えば、そういう訳ではないようで、同時期にロシアからシリアへの対艦巡航ミサイル売却が報じられています。

****露、シリアにミサイル 米・イスラエルが懸念 「軍事バランス崩れる」****
ロシアが対艦巡航ミサイルをシリアに売却する方針を明確にし、米国やイスラエルが「中東の軍事バランスを崩しかねない」と懸念を強めている。欧米の反発を考慮してメドベージェフ露大統領は22日、イランへの高性能対空ミサイルシステム「S300」の供与を禁止する大統領令に署名したものの、引き続き中東諸国の安全保障に関与する姿勢を鮮明にした。

4月の米露による新核軍縮条約調印後も、ロシアは欧州における米国のミサイル防衛(MD)計画の進展に対し警戒を緩めておらず、シリアとの軍事協力強化を対米交渉のカードにする狙いもありそうだ。
ロシアのセルジュコフ国防相は先週、米国でゲーツ国防長官と会談した。双方は国際社会が直面する課題について、閣僚級など3つのレベルで協議機関を設けることで一致した。ただ、総額3億ドル(約255億円)に上るロシアの対艦巡航ミサイル「ヤホント」(射程300キロ)の対シリア供与問題では、立場の違いが浮き彫りになった。
「シリアへの兵器供与がもたらす結果を考えてほしい」とロシア側に自制を求めたゲーツ長官に対し、セルジュコフ国防相は、「シリアとの売買契約は2007年に交わしたもので、停止する必要はない。テロリストの手に渡る危険性などない」と反論、契約を履行する考えを強調した。

20日にはイスラエルのバラク国防相も、「レバノンの民兵組織ヒズボラの手に渡り、イスラエルに対して使われる可能性がある」とロシアの動きを牽制(けんせい)した。ヒズボラは06年夏にイスラエルと軍事衝突した際、イスラエル軍艦艇をミサイルで大破させた。
バラク国防相は今月上旬、訪露してプーチン首相らロシア側高官と会談、軍事協力強化で合意したばかり。イスラエルの対露接近の背景には、ロシアにはない高度な軍事技術を提供する引き換えに、中東の反イスラエル諸国の軍備強化を思いとどまらせる狙いがにじんでいる。

モスクワの軍事評論家コロトチェンコ氏はロシア国営通信に対し、「シリアの港タルトゥースには、地中海をにらむロシア海軍の最重要拠点がある。シリアへの巡航ミサイル供与にはロシア海軍を守る意味合いもある」と述べている。巡洋艦や空母も寄港できるよう、ロシアが同港で港湾整備を進めているとの情報もあり、ロシアの対応には未知数の部分も残っている。【9月23日 産経】
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イランでは協調、そのかわりシリアに関与、一方でイスラエルとも軍事協力を進める・・・ロシアの対中東外交も一筋縄ではいかないものがあります。

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