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大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

パイロットになりたくて(2)

2007-04-21 22:19:25 | Angel ☆ knight


 クロノス社、不当ヘッドハンティングでレオン社を提訴

大手ゲームメーカークロノス社(代表取締役KR2014)は、同社の契約プログラマー天海(アマミ)氏を不正競争目的をもって不当に引き抜いたとして、本日付でレオン社(代表取締役GLLEON)に損害賠償請求訴訟を提起した。
天海氏はク社の大ヒット商品『サイバー・ブルー』のメインプログラマーを務めた人物。『サイバー・ブルー』の完成後、次のゲームの製作請負契約をク社と結んでいたが、3000万の違約金を払ってこの契約を解除し、レ社に移籍した。その後、ク社の株価は下落し、レ社の株価は高騰している。
ク社は、天海氏の違約金をレ社が負担したことなどから、レ社が不正競争の目的をもって不当な引き抜きを行ったとして、同社に株価の差額相当の損害賠償を請求している。

レ社代表取締役GLLEON氏の話:移籍は天海氏の自由意思によるもので、当社が不当な引き抜きを行った事実はない。違約金を立て替えたのは事実だが、報酬の中から返済して貰うことになっている。当社は天海氏をゲームソフト部門に迎えたわけではなく、そもそも不正競争目的など存在しない。

 「教官、教官」
何度目かの呼びかけでようやくエースはイリヤに振り向いた。
補聴器の調子が悪いのかと思ったが、そうではなく、「教官」という呼称がピンとこなかったようだ。
エースは、週二回、エスペラント・シティ警察訓練所(ヤード)に武道を教えに来る非常勤講師だ。今回初めて採用された科目なので、イリヤ達4月生は必須だが、上級生は希望者のみが受講している。
「さっきの授業に出てきた『前足を抜く』っていうのが、よくわからないんですけど」
イリヤが質問すると、エースは廊下の端に寄って、イリヤに足を前後に開かせた。両方の膝が曲がった状態で、前足はつま先立ちになり、後ろ足の膝を伸ばす。
「今、前足には全く体重がかかっていません。そのまま前足の踵をストンと落としてみて下さい」  イリヤはそうした。
「それが、前足を抜いた状態です」
「余分な力が入ってないっていうことですか?」
「特に、膝にね。毎日のウォーミングアップに今の動作を取り入れると、すぐに感覚を覚えられますよ」
と、説明するエースの顔は女のように優しげだ。イリヤも自分を女顔だと思っているが、エースは内側から穏やかで柔らかい雰囲気が立ちのぼっている。青みがかった白髪は、幼い頃にかかった熱病のせいだという。その影響で聴力が大幅に低下したので、いつもヘッドフォンのような補聴器をしていた。
彼の教える武道もいささかユニークなものだった。
構えは自然体でただ突っ立っているだけ。スポーツの試合と違い、実戦では不意打ちをくらうことが多いので、全く構えていない状態から対応できるのが望ましいからだ。
フットワークも普通にすたすた歩くだけで、手を振る動作の延長のようにして突きが繰り出される。この突きに腕自慢の教官があっけなくダウンをとられたのが、採用のきっかけだったという。筋力にものをいわせるパンチではなく、自然な体の動きに上手く体重をのせるというものだ。
腕力に自信のある者は、「女子供の護身術」と軽く見ているが、イリヤのように細身の者や小柄な者、女性の訓練生は熱心に稽古していた。任意で受講している上級生も女性が多かった。
ちょうど今、後ろから近づいてくる三人も受講生だった。卒業試験を間近に控えた3期上の9月生だ。イーストエイジアン三羽烏と呼ばれている有名な三人、隼都(ハヤト)、如星(ルーシン)、美影(ミヨン)だ。
「イリヤ、教官に何聞いてたの?」
一番小柄な美影が訊ねてくる。イリヤが説明すると、三人もその場で猫足立ちをした。
それだけの動作でも見惚れるほど美しいのが如星だ。190㎝のスレンダーな肢体にそって、艶やかな黒髪が揺れる。ビームサーベルの戦闘では右に出る者がないといわれ、対テロセクションのコマンダー・ユージィンが「早くロードマスターのライセンスを取れ」とせっついているそうだ。
隼都は既にロードマスターとシルフィードのダブルライセンスを取得している。ヤード在籍中のダブル取得は、組織犯罪対策課のランスロット捜査官に続く歴代2人目だ。
イリヤにはよくわからないが、隼都も如星も男性のような名前なのだという。
美影は銃の名手で、イリヤと共に、シティ警察随一のスナイパー、リョウの特別指導を受けている。
自分でも驚いたことに、イリヤも銃が得意科目だった。
引き金は息をひそめて静かに引く。発射の反動で銃口がはねあがるので、ターゲットのやや下方を狙う。それを教わっただけで、面白いように的に当たった。同期の連中が大きく外すのがジョークのように思われた。
同じ教官の指導を受けていることもあって、美影は気さくにイリヤに話しかけてくる。自然、隼都や如星とも話をするようになり、憧れの三羽烏と親しげだというので、同期生達もイリヤと話したがった。自分の周りに殻をつくりがちな彼が皆に溶け込めたのは美影のおかげともいえる。
大きく取った窓の外に美影が目を向けたので、イリヤもつられてそちらを見た。救助隊機シルフィードが編隊を組んで視界をよぎって行く。エンジン音がほとんど聞こえないところをみると、新しく配備されたシルフィード・マークⅡだろう。
救助セクションを志望しているという美影は首を曲げて遠いシルエットをじっと目で追っていた。

 エスペラント空港にほど近いアビエイション・センターに向かう途中、美影は何度も立ち止まって空を見上げた。これまで空を濁らせていた霞や塵が消えて、どんどん本来の色を取り戻す季節。シルフィードのコックピットに座ってあの爽快な青に包まれたら、どんな気持ちがするのだろう。
イファンは今頃あの空を飛んでいるのかもしれないと考えると、地面にへばりついている自分がたまらなくなる。二期上の9月生だった彼は、昨秋から救助セクションで実務についていた。
アビエイション・センターの存在を教えてくれたのはイファンだった。ここには、プロ・パイロット志望者のためのありとあらゆるシミュレーターがある。旅客機、戦闘機、シルフィード…
間近に迫ったシルフィードの適性検査では、これと同じシミュレーターを操作させられる。もちろん、まだ操縦は習っていないので技量を見定められるわけではなく、操縦センスやのみこみの早さといったものをチェックされるそうだ。
―適性を見て貰うのに事前に練習なんかしたら意味がないと考える奴もいる。だが、練習する機会があるならどんどんして適性を高めようとする意欲も適性のうちじゃないかな。
イファンにそう言われて、美影もこのセンターに足を運んだ。シミュレーターに乗ると、コンピューターが実際の試験と同じ形式で指示を出し、終わると適性がパーセンテージで評価される。講評は一切なし。美影が初めて出した数字は65%だった。
イファンは一回目が77%。その後、どこが良くてどこが悪かったかを自分なりに検討して、本番前にもう一度トライしたところ、92%まで上がったという。
美影も今日が二度目のトライだ。アビエイション・センターが近づくと、さりげなく周囲に目を配った。他の同期生と顔を合わせるのは、ちょっときまりが悪い。大急ぎで受付をすませ、割り当てられたシミュレーターに向かった。どうかいい数字が出ますように。

 「バカチョン戦闘機?」
レーヴェは白い額の下で眉を寄せた。あきれるべきか、興味を引かれるべきか。
生まれて初めて飛行機に乗る人間でも、その日のうちに一流パイロット同様に操縦できる戦闘機。秘書の差し出したファイルの表紙には、ライオンのロゴが型押しされている。これを持ち込んだのは、ギルバート・ライオネスか。
ギルバートは、レーヴェのコングロマリット傘下の二代目社長だ。有能だが、創業者である父親ほどの独創性はない。本人もそれを自覚していて、父親を越えようと必死になっている。
「敵を自動的に補足・追尾・撃墜するオートフォーカス機能…熟練パイロットの神経伝達回路をシミュレートしたサポートギアが、高度な状況判断を瞬時に行ってパイロットの身体各部に指令を発する…なるほど」
「ライオネス本人が説明に来ておりますが、お会いになりますか?」
レーヴェは机上のモニターのスイッチを入れた。応接室のソファに座る二人の人物が映し出される。ライオネスと、もう一人は…
「このプロジェクトのソフトウェア部門を手がける会社の代表者だそうです」
秘書がレーヴェの視線を読んで言った。
「わかった。話を聞こう。通してやれ」
秘書がギルフォードを呼びに行っている間に、レーヴェはぱらぱらと資料をめくった。
「なるほど、あれはこのためだったんだな。面白い。実に面白い」

(続く)