榊原英資(2008)『強い円は日本の国益』東洋経済新報社
「ミスター円」と言われた著者の為替についての本は、現実味と説得力があります。まえがきで、「パラダイム・シフトの時代」とグローバリゼーション第2幕を掲げています。
序章で円高の経過として、71年から円高が進行し、1985年のプラザ合意で242円から、95年の79円です。91年にバブル崩壊がありました。95年から米のドル高政策有益論と為替介入で、円安に向かいました。その経緯が国際金融責任者として、リアルに述べられています。「製造業の競争力強化にともなって円は趨勢的に高くなってきましたが、過度の円高を抑え、彼らの競争力が大きく毀損しないようにすることが、日本の国益であることはまちがいありません。」と、円安への介入を述べています。しかし、その反動か、世界経済恐慌の下で、日銀も政府も効果的に円安へ打つ手はなくなっています。そこで「円高を国益に」という著書の発想をどう読み解くべきでしょうか。また、先進国の成熟化、「ポスト産業資本主義社会」の模索を、水野和男の本を引用しつつ提案しています。
第1章21世紀の世界経済で、「日本は食料自給率が40%を切り、農業の競争力は極めて弱体です。自給率を急速に引き上げ、その競争力をどう上げていくか考えないと、日本は21世紀の産業構造転換に乗り遅れる可能性があります。」と、当たり前の指摘です。
しかし、豊田市では食料自給率12%で、目標すら持っていません。それはグローバル化の変化を見ずに、車に特化した製造業の「成長」を信じ、自動車大企業のみに依存した「地域振興」を願う、旧態の発想から来るのではないでしょうか。大企業からトリクルダウンの効果と、愚直なコスト削減、品質改善による成果主義の発想に固執する姿勢も、時代遅れであることに気付くべきでしょう。豊田市は世界の縮図でもあります。
2章で、「1ドル360円から79円」の経過が書かれています。3章は、「日本の製造業の成熟」です。
4章「ドルとユーロ-ドル安は続くか」で、「米ドルがトレンドとして下落していく可能性は高い」という指摘はその通り進行しています。「極めて単純化すれば、西ヨーロッパの国々は、いわば、戦争国家なのです」。その「戦争の歴史を超えて実現したヨーロッパ統合」の項は示唆に富み、その意義があったと思います。しかも、ドルの横暴な基軸通貨に対抗して、ユーロが作られたと思いますが、EUの銀行も投資に走り、さらには加盟国(マーストリヒト条約を偽って加入)の財政破綻も続いています。
5章「円安バブルの形成と崩壊」で、ヨーロッパ旅行をするといかに高かったか、円安バブルがつくられたのはなぜか?結論は、「現在の円安バブルは政策的につくられたものです。そしてこの円安は主として小泉政権時代の2002年から07年にかけて進行したのです。主たる原因は二つ。長期間にわったゼロ金利政策と。2003年04年にかけて行われた巨額のドル買い為替介入です。」という下りは納得です。
これは小泉さん、竹中さん、奥田さんが進めたのでしょうか。トヨタはアメリカのサブプライムによる住宅バブル期に、02年から07年に輸出絶好調で、車の生産台数がGMを抜いて世界一、営業利益2兆円、「いざなぎ景気超え」と言われていた時でした。輸出企業の成長の後押しだったのです。その絶好調の時ですら、下請け単価の切り下げ、04年非正規労働者の製造業進出、賃金抑制、福祉切り捨てで、豊田市民の生活は生活保護増大、自殺増大、可処分所得の低下で悪化していました。大企業が儲かっても、労働者、下請け、地域への配分は減り、すでにトリクルダウンの理論は消えていました。(猿田正機編『トヨタ企業集団と格差社会』)「ドルに対して1円高くなると300億円くらいの損失が発生する」とトヨタ関係者は話していますが。裏返せば、円安誘導で莫大な利益を上げたわけです。そればかりか、円高対策もしっかりヘッジしています。
0金利は99年2月、97~98年の金融危機の影響を受けて実施しました。00年8月解除しますが、しかし、01年1月量的緩和で、事実上の0金利となりました。「長過ぎたゼロ金利の維持が、日本からの資本の流出を加速し、いわゆる円キャリートレードを生み、円安バブルを生みだしていきました」。
7章「構造改革と円高対策」で、「一言で単純化して言うならば、日本の企業はまだものづくりシンドロームから抜けきらないでいるのです」。「価格革命が進行するなかで、中国等は官民を挙げて、資源確保に乗り出しています」。最後に本のタイトルでもありますが「強い円は日本の国益」として、筆者は今後の政策の方向性を示しています。①「21世紀は天然資源の時代」は同感です。②現在(08年7月、世界恐慌直前)は「円安バブル」で、その恩恵と責任はどうでしょうか。この後、再度ゼロ金利と為替単独介入を行いました。③「日本企業に忍び寄る構造変化」で、「円安バブルに充分気付いていません。」と指摘していますが、著者も世界恐慌までは予測できなかったのでしょう。④脱・ものづくりで、パラダイム・シフトの必要性。後は、円安反転に注意、金融政策の転換、エネルギー・農業に必要な政策支援など結果は適切な指摘でした。ただ、借金大国で「強い円は日本の国益」とはどうあるべきか、世界恐慌後の国民が利益を受ける政策提言が欲しいところです。(写真は高専前の桜並木です。木が大きく人が保王を通れず縁石を歩いていました。)
「ミスター円」と言われた著者の為替についての本は、現実味と説得力があります。まえがきで、「パラダイム・シフトの時代」とグローバリゼーション第2幕を掲げています。
序章で円高の経過として、71年から円高が進行し、1985年のプラザ合意で242円から、95年の79円です。91年にバブル崩壊がありました。95年から米のドル高政策有益論と為替介入で、円安に向かいました。その経緯が国際金融責任者として、リアルに述べられています。「製造業の競争力強化にともなって円は趨勢的に高くなってきましたが、過度の円高を抑え、彼らの競争力が大きく毀損しないようにすることが、日本の国益であることはまちがいありません。」と、円安への介入を述べています。しかし、その反動か、世界経済恐慌の下で、日銀も政府も効果的に円安へ打つ手はなくなっています。そこで「円高を国益に」という著書の発想をどう読み解くべきでしょうか。また、先進国の成熟化、「ポスト産業資本主義社会」の模索を、水野和男の本を引用しつつ提案しています。
第1章21世紀の世界経済で、「日本は食料自給率が40%を切り、農業の競争力は極めて弱体です。自給率を急速に引き上げ、その競争力をどう上げていくか考えないと、日本は21世紀の産業構造転換に乗り遅れる可能性があります。」と、当たり前の指摘です。
しかし、豊田市では食料自給率12%で、目標すら持っていません。それはグローバル化の変化を見ずに、車に特化した製造業の「成長」を信じ、自動車大企業のみに依存した「地域振興」を願う、旧態の発想から来るのではないでしょうか。大企業からトリクルダウンの効果と、愚直なコスト削減、品質改善による成果主義の発想に固執する姿勢も、時代遅れであることに気付くべきでしょう。豊田市は世界の縮図でもあります。
2章で、「1ドル360円から79円」の経過が書かれています。3章は、「日本の製造業の成熟」です。
4章「ドルとユーロ-ドル安は続くか」で、「米ドルがトレンドとして下落していく可能性は高い」という指摘はその通り進行しています。「極めて単純化すれば、西ヨーロッパの国々は、いわば、戦争国家なのです」。その「戦争の歴史を超えて実現したヨーロッパ統合」の項は示唆に富み、その意義があったと思います。しかも、ドルの横暴な基軸通貨に対抗して、ユーロが作られたと思いますが、EUの銀行も投資に走り、さらには加盟国(マーストリヒト条約を偽って加入)の財政破綻も続いています。
5章「円安バブルの形成と崩壊」で、ヨーロッパ旅行をするといかに高かったか、円安バブルがつくられたのはなぜか?結論は、「現在の円安バブルは政策的につくられたものです。そしてこの円安は主として小泉政権時代の2002年から07年にかけて進行したのです。主たる原因は二つ。長期間にわったゼロ金利政策と。2003年04年にかけて行われた巨額のドル買い為替介入です。」という下りは納得です。
これは小泉さん、竹中さん、奥田さんが進めたのでしょうか。トヨタはアメリカのサブプライムによる住宅バブル期に、02年から07年に輸出絶好調で、車の生産台数がGMを抜いて世界一、営業利益2兆円、「いざなぎ景気超え」と言われていた時でした。輸出企業の成長の後押しだったのです。その絶好調の時ですら、下請け単価の切り下げ、04年非正規労働者の製造業進出、賃金抑制、福祉切り捨てで、豊田市民の生活は生活保護増大、自殺増大、可処分所得の低下で悪化していました。大企業が儲かっても、労働者、下請け、地域への配分は減り、すでにトリクルダウンの理論は消えていました。(猿田正機編『トヨタ企業集団と格差社会』)「ドルに対して1円高くなると300億円くらいの損失が発生する」とトヨタ関係者は話していますが。裏返せば、円安誘導で莫大な利益を上げたわけです。そればかりか、円高対策もしっかりヘッジしています。
0金利は99年2月、97~98年の金融危機の影響を受けて実施しました。00年8月解除しますが、しかし、01年1月量的緩和で、事実上の0金利となりました。「長過ぎたゼロ金利の維持が、日本からの資本の流出を加速し、いわゆる円キャリートレードを生み、円安バブルを生みだしていきました」。
7章「構造改革と円高対策」で、「一言で単純化して言うならば、日本の企業はまだものづくりシンドロームから抜けきらないでいるのです」。「価格革命が進行するなかで、中国等は官民を挙げて、資源確保に乗り出しています」。最後に本のタイトルでもありますが「強い円は日本の国益」として、筆者は今後の政策の方向性を示しています。①「21世紀は天然資源の時代」は同感です。②現在(08年7月、世界恐慌直前)は「円安バブル」で、その恩恵と責任はどうでしょうか。この後、再度ゼロ金利と為替単独介入を行いました。③「日本企業に忍び寄る構造変化」で、「円安バブルに充分気付いていません。」と指摘していますが、著者も世界恐慌までは予測できなかったのでしょう。④脱・ものづくりで、パラダイム・シフトの必要性。後は、円安反転に注意、金融政策の転換、エネルギー・農業に必要な政策支援など結果は適切な指摘でした。ただ、借金大国で「強い円は日本の国益」とはどうあるべきか、世界恐慌後の国民が利益を受ける政策提言が欲しいところです。(写真は高専前の桜並木です。木が大きく人が保王を通れず縁石を歩いていました。)
銀行による投資は経済を狂わす。
そもそも食料自給率という、農水省の予算獲得のために考え出した指標を元に批判する意味がわからない