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ND提言「抑止一辺倒を超えて」抜粋

2021-05-15 | 気になる本

米中関係と尖閣・台湾問題における日本の役割

ND提言「抑止一辺倒を超えて」より・抜粋メモ・本多弘司

 政府のコロナ対策の無為無策も不安であるが、香港の人権弾圧、尖閣諸島での領海侵入など中国の動きも気にかかる。日米共同声明、非公開の外務、防衛の「2プラス2」の安全保障会議の問題は何か。これらの疑問に応えるND(NEW DIPLOMACY INITIATIVE)の柳澤、半田、佐道、猿田「抑止一辺倒を超えて」は、情勢にピタリの政策提言である。以下、台湾と日本の課題の抜粋である。関心のある方は本文を是非読まれたい。(  )は私のコメント。

 序論

安全保障国家の存続にかかわるすべての課題。①食料、資源・エネルギー、②新型コロナウイルス、③地震、火山噴火など。が、安全保障の議論が軍事のみに偏っている

 本来、戦術論レベルの議論に必要なのは、日本情勢の客観的な評価・分析、広い視点での戦略的議論である。30年代は恐慌との対応で、各国は自国の政策優先で、ナショナリズムの高揚と社会不安の中でファッシズム・軍国主義で、戦争につき進んだ。

 巨大な経済力・軍事力を背景に既成の国際秩序を、自らに都合の良いように変更しようとしている中国の存在感は増大している。世界は権威主義と自由・民主主義体制の二つに分裂するおそれがある。さらには、自由主義や民主主義を普遍的価値としてきたアメリカやヨーロッパにおいても、これまでの政治体制に不満を持つ人が増え、自由主義や民主主義が危機に瀕している。

 安倍・菅政権が壊したもの

1 安倍政権下、日米の軍事的一体化が進んだ

 安保法制による集団的自衛権の容認と自衛隊による米艦防護、敵基地攻撃能力の保有で長距離ミサイルの取得・開発が進んでいる。戦後日本はアメリカに依存しつつ防衛力を整備してきた。基地提供する一方で、戦争に巻き込まれないないよう、専守防衛に限定し、「米軍の戦闘行為とは一体化しない」という制約を課してきた。

 仮に米中が戦えば、地理的に最前線に位置する日本への影響は計り知れない。米中が互いに対立姿勢を先鋭化するなか、「米中戦争に巻き込まれる」という同盟のジレンマが現実化する危険が増大している。

2 「説明しない政治」で不信

 説明責任や情報公開は民主主義の基礎である。(モリカケの公文書改ざん、官僚の忖度、桜疑惑で安倍首相の嘘答弁、検察庁改定法案、河井夫妻の逮捕など)

 気候変動による大規模災害、未知の感染症、大国間の偶発的な衝突というリスクに満ちた不安定な時代である。科学的に基づく論理的考察が必要である。菅政権も、科学的リスクを国民と共有する努力を怠ってgoto政策に固執した結果、感染拡大を招き、国民の政治不信を高めた。(内閣支持率の低下・逆転)

 私たちは、パンディミック対応においても強権的に国民を隔離・統制することで危機を克服する全体主義を望まない。日本が直面するリスクを正しく認識し、不安の裏返しとしての軍事力に過度に依存した願望に走ることなく、穏当で説明可能な、我が国に相応しい目標設定が求められている。(中国は強権的に都市封鎖を行った。日本は外出の自粛を求めたが、補償が不十分である。アベノマスクやウイズコロナ、gotoで対応が、科学的でなく後手である。感染者には隔離のホテルが準備されていない。コロナが収束に向かわないのは国民のせいにし、惨事便乗で国民投票を改悪し、さらに憲法に緊急事態条項を盛り込もうとしているのが自民党で、支持しているのが公明党、維新である。)

日本の置かれた安全保障環境

1 米中対立と安全保障のジレンマ

 米国は、台湾海峡や南シナ海に軍艦や爆撃機を派遣し、空母機動部隊を集結させた訓練を行うなど、中国に対する軍事プレゼンスを強化した。中国も、台湾周辺での海。空軍の活動を活発化するとともに、米海軍艦艇や基地への攻撃を想定したミサイル演習を行うなど軍事的緊張が激化した。

 トランプからバイデンに代わっても、対中国政策については強権的な政策に変化はない。人権面ではより厳しい対応を求める。いずれ側の行動も相手の対抗行動を誘発する力学が作用する。経済的には制裁の応酬、政治的には非難の応酬があり、軍事的には一方の防御的行動が一方を誘発して対抗的な行動を生み、対抗を高める「安全保障のジレンマ」の顕在化が懸念される。

 米中が牽制を強める中において、日本が軍事的な技術論に傾斜していてよいはずはなく、国益のために長期的な視点に立った議論が十分に行わなければならないし、その上で、米中の軍事衝突を避けるために日本にどのような貢献ができるか冷静に検討し、米中の理解を得て、両国の「架け橋」とならなければならない。(日米安保同盟の強化を進める日本の自公政権では不可能ではないか)

2 米中軍事バランスと前線化する日本列島

 中国は、台湾や南シナ海での武力紛争に備えて、米国の介入を阻止する能力を強化するとともに、宇宙・サイバー領域における妨害能力を高めてきた。米国は、インド太平洋の態勢を変換しつつある。兵力を小型化・分散化して、精密打撃ミサイルのプラット・ホームを増やし、相手の攻撃目標を分散しつつある。西太平洋における米軍のハブであるグアム島の防衛のための地域統合ミサイル防衛網を、同盟国と共同で構築しようとしている。

 米軍における抑止力とは、戦争に勝つことができる能力を意味する。日本国内では、「抑止力があれば戦争にならない」との認識がある。米国の新たな軍事戦略の意図が「抑止力強化」であっても、前線に位置する日本にとっては、「抑止が破綻した場合は戦場になる」という覚悟を国民にもとめなければ、リアリティのある政策とはならない。

3 沖縄米軍基地をめぐる状況変化

 1つに、米海兵隊の主要な役割は、離島に分散して、一時的なミサイル発射施設や航空基地を構築することに変化する。他に、普天間の駐留の説明もなく、辺野古も軟弱地盤であり、海兵隊のニーズに合うかわからない。

 日本社会には米軍受け入れじたいについての支持は相当程度あるが、米軍も日本社会のルールに従うべきであるという意識は強い。現在の日米地位協定の運用では、様々に起きる事態に対応できていない現実がある。(沖縄における米軍基地撤去、地位協定見直しの動きは根強い。)

4 南シナ海・尖閣における中国の現状変更の試み③

 中国は、南シナ海に構築した人工島の軍事施設化を進めるとともに、フィリッピンやベトナムの排他的経済水域のなかで、当該国を排除しつつ、石油開発や漁業を行うなどの行動をとっている。我が国固有の領土である尖閣についても多数の公船を接続水域に配備するとともに、長時間にわたって領海に侵入する事案が多発し、日本の安全保障上の大きな不安要素になっている。米海軍による南シナ海における「航行の自由作戦」が常態化してるが、中国による南シナ海支配の動きは止まっていない。バイデン氏は、尖閣諸島に日米安保条約第5条が適用されると明言したが、中国による南シナ海支配の動きは止まっていない。中国はグレーゾーンの範囲で目的を達成しているのであって、抑止されていないのが現実である。

 仮に島が占拠された場合に、日本が奪回したとしても、大国に対して力で対抗するのには限界がある。米軍の参戦を求めれば、戦域は尖閣に止まらず、沖縄、九州を巻き込んだ本格的な戦争に発展する可能性は否定できない。

 日本は圧力に耐え、抵抗の姿勢を維持しつつ、政治的解決の道筋を息長く模索する以外にない。そのためには海上保安庁の能力の拡充が急務である。

 

 抑止政策の限界と安全保障の新たなマインドセット

 一つの切り口で見る場合には、反(親)米、反(親)中といったバイアスに陥ることが避けがたい。

抑止とは、攻撃に対して反撃する意思と能力を示すことによって、相手に反撃を思いとどまさせる作用である。抑止とは、相手に一定の行動を我慢させることである。現在の米中関係をみると、その抑止への理解が欠如していると言わざるをえない。

日本にとって最大のリスクは、米中の対立が管理不能な状態になって戦争に至ることである。米中の戦争回避を我が国の安全保障の目標とすべきである。

抑止は、相手への安心供与なしに安定したものにはならないので、抑止力だけを論じても、それだけで安全保障政策としては完結しない。抑止を補完し、機能させ、破綻させないための対話の努力を安全保障政策の「車の両輪」と位置付けることが不可欠である。

日本は、米中の対立の影響を最も受ける。他の東アジア諸国と連携しながら平和構築の水先案内人となるべきだ。唯一の戦争被爆国、憲法9条を持つ国、沖縄戦という民間人を含んだ悲惨な戦争を体験した国、東アジアとの連携のなかで経済発展を遂げた国として発信するメッセージも、意味がある。(アジアへの侵略戦争の反省も必要である。また、フィリッピン、ベトナムなど安い労働力としての使用も問題が残る。)「非核・非戦」という価値観を発信する国でありつづけることが日本の国際貢献となろう。

 

提言

◆世界は、相互不信が「安全保障のジレンマ」を顕在化するリスクを高めている。自然災害・感染症の蔓延のなかで、人々の不安が拡大している。

◆国民が安心して生活できる国と社会のあり方を守ることが本来の安全保障である。安全保障に必要なものは、広角的視点と説明責任である。

◆軍事面では、米中対立が戦争に至らないようにすることが喫緊の課題である。(本当の)抑止力を高める一方で、抑止を安定化させるための「安心供与」と、信頼醸成・多国間協力を通じた対立の管理を「車の両輪」として機能させなければならない。

◆私たちは、政治における議論が、戦術的抑止のレベルに留まっている現状を危惧する。

 直面する課題について

◆米国の戦略に協力する場合「戦争に巻き込まれない」心構えが必要である。

・米軍の中距離ミサイルの配備など、日本をミサイル軍拡の場とする政策に反対すべきである。

・自衛隊のミサイル長射程化や艦艇のプレゼンスなどかえって地域の緊張を招くことがないよう配慮(?)すべきであり、「敵基地攻撃の禁止」など自衛隊の運営に関する新たな「歯止め」を設けるべきである。

・沖縄への過重な基地負担は、日米同盟の最大の不安要素である。膨大な経費を必要とする辺野古基地の建設はやめるべきである。日米地位協定の改定を目指すべきである。

・尖閣については、力だけで守り切ることが困難なことを踏まえ、海上保安庁の態勢を強化し、加えて、日中間の政治的危機期管理体制を構築すべきである。

在日経費米軍駐留経費負担は、合理的根拠に基づかない安易な増額をすべきではない。

・「インド太平洋」諸国との連携を進めるべきである。その際、対中封じ込めと軍事協力一辺倒ではなく、地域の協調関係を推進するためのアジェンダの包括性と当事者の多様性を追求すべきである。

◆その他の外交課題

・「唯一の戦争被爆国」であること、憲法9条を持つ「非戦の国」であることを活かし、多国間枠組みの創設とその活性化を目指すべきである。核兵器禁止条約締約国会議に積極的に参加すべきである。

 

 執筆者 柳澤協二、半田滋、佐道明弘、猿田佐世

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