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「豊田市の人口ビジョン」を読んで

2016-06-05 | 市民生活・企業都市

 「豊田市の人口ビジョン」は「まち・ひと・しごと創生法」に基づき、国においては2060年に1億人程度の人口を確保する戦略が示されたことにより、策定されたものである。愛知県人口ビジョンを参考に、豊田市の人口に関する5か年戦略や方向を示すもので、現在策定中の総合計画の重要なベースとなる。しかし、一言でいえば人口減少は必然で、現行の大企業依存策、農林業の衰退を是認し、人口減少の現象には触れているが、本質的な要因分析が無い。従って、解決策は対処療法の施策の羅列にしか思えない。批判だけでなく、いくつかの対案も提起したい。
 総人口および3区分別人口推移では、老齢人口が増加し、年少人口が減少している。山村地域では生産人口の減少も著しい。昭和55年より平成23年の人口の伸びは、1.33で隣接市と同程度であるが、長久手市、みよし市、日進市では2を超えている。
1 人口の自然増は縮小、雇用調整による社会減
 自然増減は総人口の増加に寄与しているが、縮小している。社会増減はリーマン・ショック後の09年より減少に転じている。
①合計特殊出生率1.60(P11、図表1-9、どうやって1.8~2.0にするか)
合計特殊出生率は平成26年愛知県1.46で、豊田市1.60と県平均を上回るが、隣接市の安城、知立、刈谷、みよしよりも低い。
②高い人口性比(P14、図表1-5)、高い中堅男性未婚率(P15)
人口性比は109.9と男性割合が高い。特に20~24歳は141.9、25~29は14⒈3と異常に高い。35~39歳の男性未婚率は36.4%で県平均より高い。製造業の会社に独身男性が多く就職し、男女交流の時間と場所が少なく未婚率が高くなっている。さらに、正社員になれない非正規労働者が増え、雇用調整で社会減になり、未婚率の増大、中堅世帯が市外に転出し定住できず、自然増の縮小、少子化に連動している。産業・労働環境と居住・子育て環境などの自治体政策と密接に関係してくる。産業都市では社会増減の原因分析と雇用・定住政策が最も重視されるべきだと思う。
2 人口の社会減の要因
① リーマン・ショック後に人口は社会減になった。トヨタはいち早く期間工を08年夏から8,000人ほど雇止めした。下請けなども派遣労働者・外国人を解雇した。愛知県内でも年越し派遣村が設置され、知立団地や保見団地で外国人の相談会も開催された。リーマン・ショックはアメリカのサブプライムローンを背景に住宅バブルの崩壊であった。そのため、2002年から2007年まではアメリカへの車の輸出は絶好調であった。小泉内閣と奥田経団連会長の時代、04年から製造現場に派遣労働者が改悪された。結果としてリーマン・ショック(トヨタ・ショック)の時から人口の社会減である。大企業が栄えれば地域経済も反映するというトリクルダウンは、それ以前から少なくなっていた。そして、エコ減税の名のもとに大企業支援、減税、リノベーション、単価引き下げでトヨタはV字回復した。しかし、09年3月期から13年の5年間は法人税を「免除」(繰越欠損税制や連結納税制度など)された。庶民の家計が赤字でもそのような優遇策はない。さらに、トヨタが新聞広告で14年4月からの消費税率の引き上げについて、「『節約はじつは生活を豊かにするのだと気がつけば、増税もまた楽しからずやだ』などと述べている。法人税が払われていなかったため、法人市民税が豊田市では激減した。大企業依存と自動車産業に特化した地域経済の脆弱性が露呈した。地域の内発的な地場産業、農林業、商業のバランスが欠けているなどリスクとして指摘されてきたが、失敗の予防線にしか聞こえない。地 方創生ならTPPに反対し、農林業の自立と食料自給率の数値目標を、カロリーベースであっても国並みの50%に設定すべきである。
②社会減(P21)と地域的な人口移動(P22、図表1-13)、住みにくさ
人口移動の特徴は県外から転入し、県内の市外へ転出している。市外への転出超過が多いのは、名古屋市、みよし市、岡崎市、日進市、長久手市である。社会減の一番の要因は、非誠意労働者が定職につけず定住できないからである。さらに、住宅マスタープランやアンケートからも住宅取得費が高い、住宅取得者の支援がない、公営住宅が不足(市営入居待機者約300世帯、県営は保見団地に300戸ほど空きがあっても入居制限)している。市政は大企業優遇策、駅前再開発や自治体の市場化で、居住環境(住宅、公園、公共交通、文化)や子育て支援(保育園の民間移譲、介護・医療施設の不足)が太田市政から一層後退している。09年から外国人は帰国支援金で追い返した。さらには賃金、所得の低下、生活保護の増大などがある。これらの社会的な現状分析と市民の認識、周知が必要である。アパート経営や駐車場などの不動産収入も不安定化してきた。
 総合計画案では住みやすいが71.5%で過去最高としているが、「住めば都」でどこの自治体でも増える傾向にある。岡崎市の方が83.6%と高く、その違いを比較検討すべきである。
 豊田市の人口ビジョンではバブル崩壊、リーマン・ショックなど経済環境の周期的な変化だと他人事のように指摘するが、本質的な問題を見ていない。
③ 若者の移動
大学ではみよしの愛知大学が名古屋に移転したように、都心回帰と青年の減少がある。豊田市にあった大学も撤退や定員割れになっている。大学は交通の利便性、若者のバイト先、都市の魅力などが選択される。大学生は貸付奨学金とブラックバイトで苦労している。さらには就職先も不安定雇用の心配がある。
④就業構造
業種別は製造業の職業が圧倒的に多い。夜勤、残業、賃金など働き方は、住居や子育てに影響する。母親の就業は、小学生保護者でフルタイムが2割、パート、バイトの割合が5割弱、未就業が25%である。
⑤ 豊田市の人口動態に関する人口特性と課題
 ここでは自動車の国内生産の維持(300万台体制)と海外シフトの不安を挙げている。
3 人口の将来展望(P38~)
① 広域的な位置づけ
家族形成期の市外転出は、市の重要課題である。広域で人口集積を図るとしている。
② 山村の価値
③ 若年層の吸引力
④ 超高齢社会への対応
⑤ 豊田市で暮らし働きたいという流入人口の定着化
⑥ 将来の人口展望は、2025年、30年の43万人をピークに減少
4 総合戦略(P44~)
① 基本方針は、強い産業、若者が活躍する社会として、以下特性を述べている。
② 産業発展に支えられた行財政力、自治区組織、地域自治システムと見直し、TPP、国際競争力、国内生産拠点の分散化、法人市民税の一部国税化など強みと弱みがある。
5 基本方針と目標(P45~)
 基本目標は、仕事づくり、賑わいづくり、子育て環境整備、豊かさの実感できるまちづくりの4つである。具体的には「戦略的企業誘致」で既存大企業支援、新規に「中核製材工場の誘致による地域材の流通化」?を挙げている。農山村の林業が活性化できるのか、既存の小さな製材業との共生はどうか。「産業の強靭化では自動車産業の大企業依存」に変更はない。「ラグビーのワールドカップで賑わい」つくり、「リニア中央新幹線の開業に期待」し交流人口の増大と観光誘致である。「必要な住宅や宅地の供給をする」、とあるが公営住宅やアフォーダブル(低所得者向け)な住宅供給や、民間賃貸住宅の家賃補助による公営住宅不足を補う考えはない。住宅リフォームの助成事業の創設が各地で成果を上げているが、検討されていない。
現状の、非正規労働者の増大による社会減、不安定雇用による定住不可、未婚率の上昇、中堅世帯の市外転出、子育て環境の悪化など指摘されているが、方針、目標での解決策が噛み合わず、現在の政策を列記している感じが否めない。数値目標も実現可能性のあるもの、都合の良いものが目立つ。人口減少はやむを得ないという諦めがある。東京1局集中に対抗できる自治体からの人口ビジョンが望まれる。今後は他市との比較、地区別分析もしたい。(写真は遅ればせながら改修された豊田市美術館)
コメント
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