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『経済はナショナリズムで動く』

2010-08-25 | 気になる本
中野剛志(2008)『経済はナショナリズムで動く』PHP
 第1章 失われた10年
 「グローバリズムを引き起こしたのは、アメリカの『経済ナショナリズム』であった」。「グローバリゼーションは、世界経済の自然発生的な流れなどではなく、アメリカという強大な『国家の政治意志の産物なのだ』」と明快である。アメリカ型のグローバリゼーションを嫌悪したヨーロッパは、EU統合が進みアメリカに対抗した。アジアの通貨危機は、「市場原理主義を信ずるIMFの経済学者たちは、東アジア各国の固有の社会的事情や発展段階をまったく考慮に入れず、各国一律に同様の処方箋を提示し、それを強要した。
その結果1997年、東アジア経済は金融危機におちいった」という指摘は同感である。しかし、日本が本来別の代替案をアジアに示すべきであったという考えは、アメリカに従属した経済理論と大企業がアメリカの恩恵を受ける日本の政治経済構造からみて、無理な話である。最も中心命題である「ナショナリズムは、世界の政治経済を動かす主動力源として作用していた」という提起である。
 第2章 なぜ経済ナショナリズムの本質を見誤るのか
 70年代 「資源ナショナリズム」、石油危機
 80年代 ケインズ主義的な政策や福祉国家の失敗が顕在化
     新自由主義の台頭、レーガノミックス、サッチャーリズム
     日米貿易摩擦、「日米構造協議」
     ソヴィエト連邦崩壊
 90年代 バブル崩壊、経済自由主義へ
 第4章 本当の国力とは何か
 市場原理主義が全体主義を招いたとして、第1に市民社会の必要性、第2に中間組織と職業倫理が経済発展と秩序の維持を説く。人間は中間組織に属し、ルールやモラルによって規律されながら、一定の秩序をもって経済活動を行っている。
 容赦のない金儲けの行為は、社会秩序を破壊するとしていて同意できるが、新自由主義の市場原理主義はその段階であることには触れていない。民主党政権になっても変えようとはしないだけなく、従来の「構造改革」を進めようとしている。似通った二大政党は日本の悲劇であり、小選挙区制度の下では第3局は育ちにくい。
 第5章 「国力」を強化する政策とは
 軍事力と技術力をまずあげている。巨額の軍事支出は、それ自体が財政政策的に作用し、景気を刺激するとしているが、大きな疑問である。1929年の世界恐慌もニューディール政策よりも、戦争への突入が景気回復になったという見方も強い。ベトナム戦争やイラク戦争へのアメリカの一方的な、利権をめぐる戦争突入で、多くの兵士と市民を殺し、アメリカ自体も財政赤字となり没落しているのではないだろうか。日本でも豊臣秀吉の朝鮮出兵が、没落の要因と思われる。財政危機でアメリカも軍事費を削減したが、日本も削減がまったなしの状況でもある。
 終章 国力の基本戦略
 構造改革で国力が弱体化した。その通りで、痛みだけが残った。「日本的な経営」を捨てて、アメリカ型のスタイルを強引に押し付けてきた。
 「日本の構造改革論者たちは、経済がグローバル化した時代においては、企業や資本を国内にひきつけるよう、投資先として魅力的な環境を整えなければならないと、くり返し主張してきた。国家による社会福祉政策や累進度の高い税制といった平等な社会を実現するための政策は、企業や資本家の負担を重くするものである。また、市場競争を制限するさまざまな規制は、投資先としての魅力を損なうものである。こうした政策や規制を嫌がる企業や資本は、海外へと逃避してしまう。その結果、国民経済は成長できなくなり、グローバル化する世界経済のなかで、生き残ることができなくなる。これが、日本を支配してきたレトリックである」。「他方、本書や欧米の次世代の政策理念は、国力の源泉をネイションの内に見出そうとするものである。アメリカもまた、新自由主義的な政策を続けた結果、市民社会が崩壊しつつあり、自ら富を生み出す能力が衰退している。だから、この国は、金融技術を駆使して他国の富をひきつけ。あるいは収奪するといった戦略に訴えざるをえなくなっているのではないだろうか。しかし、真の国力とは、他国から資源や富を収奪してくる強制力ではなく、富、文化、制度そして思想を生み出し続ける能力である。」という点は、本書の主題でもあり同意できる。
 利益優先の行き過ぎた大企業、銀行、投資会社を誰がコントロールするのか、出来るのかが問題である。さらに、企業はコスト削減で自社の利益を追求する競争が止められない。いわゆる合成の誤謬も問題となる。良心的な資本家・経営者の出現を期待しているのだろうか、官僚の立場の限界ともとれる。古典的な文献を読み解き、日本の構造改革論を批判し、経済戦略の基本を提起した点では一読に値する。
<特記>
 残暑厳しいですが、蝉の声を少し静かになりました。ブログも久しぶりに書きました。今日は毘森プールで800m泳ぎました。
コメント
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