「住環境整備・街直しの理論と実践」佐藤圭二、鹿島出版会、2005年
この本は著者の2002年日本建築学会論文賞の受賞論文を加筆、改編したものです。住環境とはなにか、改善するのは誰か、費用負担の観点から捉え直したものです。やや専門的ですが、平易に書かれていて、論点が歴史的に整理されています。1~6章を走り読みして、気になる論点を掲げコメントします。
「住環境」と「居住環境」を分けて定義し、住環境は数量的なハードに限定しています。そして、その環境整備は公共性があり、公的責任をあげています。行政の現場でも一番ここが問題となります。区画整理では3割が減歩となり、開発行為の場合は2割程度が道路となり寄付します。4m未満の狭あい道路に個人が建てる場合は、道路中心から2m後退した部分が敷地から除外されます。豊田市では里道を整備する場合、工事費の1割負担が必要です。さらに、境界を確定する測量費もかかります。かなり実践的に制度解説してありますが、個別事例で聞いて見たい箇所です。住環境には住宅も含まれ、その水準も論じられています。また、公営住宅法や住宅金融公庫の融資縮小、公的住宅の供給縮小など「小さな政府論」や、新自由主義による規制緩和の流れの中でのセーフティネット論批判など多角的な分析がされています。
住宅マスタープランと都市計画マスタープランの関係も整理するとありますが、あまり詳細には論じられてなく、この点は理解できませんでした。もちろん住宅政策や都市政策が自治体から、あるいは住民の立場から作られた経験や、システムがない自治体では理解ができないことでしょう。筆者の携わった多治見市の住宅マスタープランの経験から、事例が論点整理されています。今後、見直しを行う自治体では、高山市の事例とともに参考になるでしょう。愛知県では地方行革で土木・建築の研究所において行なわれていた、県下の職員などの技術研修をなくしてしまいました。職員も視察の旅費は削られ、人員は削減され、業務は「地方分権」で増える中、政策能力の形成や時間のかかる住民との協働をどのように進めればよいのでしょう。自治体段階で規模によりますが、住宅課のある市は少ないです。あっても市営住宅の管理が主となっています。住環境や住宅マスタープランの策定は総合的でありますが、所管は住宅、建築行政、都市計画をベースにし、福祉、防災などプラスαとするのは現実的で、同意できるものです。ただし、狭あい道路などは生活道路計画として土木部局との共同が事業化に欠かせません。建築の道路後退では境界確定や整備負担などでよくトラブルになるところです。調整会議は全体を見通せる職員、アドバイザーが必要です。また、公正な執行には基準の公開と議員の理解も必要で、不当な要求に屈しない姿勢が求められます。
狭あい道路と敷地規模の制限の問題など、地域住民と行政などが地域の課題を発見し、整備の負担をどのように持ち、居住水準をどこからどの程度レベルアップするのか、地区の将来像、整備目標、計画など作る必要があります。その整備はまちづくり交付金でなく、自主的に使える都市計画税(市街化区域)が適切で、100ha当たり1億円程度の助成はすべきだと思います。地域計画を持てば、高層マンションの抑制にもなり、用途地域見直しの住民提案もできるようになります。これらの地区の計画作りはかなりの専門家の支援が必要で、横浜市などのコンサル派遣制度をつくり、活用を工夫すべきです。また、まちづくり協議会の発足、指導は豊中市のように成長段階に応じた支援をすべきで、それにはまちづくり担当やまちづくり課を置かないと進まないでしょう。
土地利用コントロールで、著書では紙数の都合があってか戸数密度について触れられていないですが、建築基準法の改悪により「容積率の転移」ができるので複雑になる心配があります。私は住民にわかりやすい単純な高さ規制でコントロールしたほうが良いと考えます。なお、まちづくりは建築基準法への過度な依存はやめるべきで、集団的な面的整備手法を規制と整備の両面から制度設計すべきです。
写真は大徳寺の塀です。
この本は著者の2002年日本建築学会論文賞の受賞論文を加筆、改編したものです。住環境とはなにか、改善するのは誰か、費用負担の観点から捉え直したものです。やや専門的ですが、平易に書かれていて、論点が歴史的に整理されています。1~6章を走り読みして、気になる論点を掲げコメントします。
「住環境」と「居住環境」を分けて定義し、住環境は数量的なハードに限定しています。そして、その環境整備は公共性があり、公的責任をあげています。行政の現場でも一番ここが問題となります。区画整理では3割が減歩となり、開発行為の場合は2割程度が道路となり寄付します。4m未満の狭あい道路に個人が建てる場合は、道路中心から2m後退した部分が敷地から除外されます。豊田市では里道を整備する場合、工事費の1割負担が必要です。さらに、境界を確定する測量費もかかります。かなり実践的に制度解説してありますが、個別事例で聞いて見たい箇所です。住環境には住宅も含まれ、その水準も論じられています。また、公営住宅法や住宅金融公庫の融資縮小、公的住宅の供給縮小など「小さな政府論」や、新自由主義による規制緩和の流れの中でのセーフティネット論批判など多角的な分析がされています。
住宅マスタープランと都市計画マスタープランの関係も整理するとありますが、あまり詳細には論じられてなく、この点は理解できませんでした。もちろん住宅政策や都市政策が自治体から、あるいは住民の立場から作られた経験や、システムがない自治体では理解ができないことでしょう。筆者の携わった多治見市の住宅マスタープランの経験から、事例が論点整理されています。今後、見直しを行う自治体では、高山市の事例とともに参考になるでしょう。愛知県では地方行革で土木・建築の研究所において行なわれていた、県下の職員などの技術研修をなくしてしまいました。職員も視察の旅費は削られ、人員は削減され、業務は「地方分権」で増える中、政策能力の形成や時間のかかる住民との協働をどのように進めればよいのでしょう。自治体段階で規模によりますが、住宅課のある市は少ないです。あっても市営住宅の管理が主となっています。住環境や住宅マスタープランの策定は総合的でありますが、所管は住宅、建築行政、都市計画をベースにし、福祉、防災などプラスαとするのは現実的で、同意できるものです。ただし、狭あい道路などは生活道路計画として土木部局との共同が事業化に欠かせません。建築の道路後退では境界確定や整備負担などでよくトラブルになるところです。調整会議は全体を見通せる職員、アドバイザーが必要です。また、公正な執行には基準の公開と議員の理解も必要で、不当な要求に屈しない姿勢が求められます。
狭あい道路と敷地規模の制限の問題など、地域住民と行政などが地域の課題を発見し、整備の負担をどのように持ち、居住水準をどこからどの程度レベルアップするのか、地区の将来像、整備目標、計画など作る必要があります。その整備はまちづくり交付金でなく、自主的に使える都市計画税(市街化区域)が適切で、100ha当たり1億円程度の助成はすべきだと思います。地域計画を持てば、高層マンションの抑制にもなり、用途地域見直しの住民提案もできるようになります。これらの地区の計画作りはかなりの専門家の支援が必要で、横浜市などのコンサル派遣制度をつくり、活用を工夫すべきです。また、まちづくり協議会の発足、指導は豊中市のように成長段階に応じた支援をすべきで、それにはまちづくり担当やまちづくり課を置かないと進まないでしょう。
土地利用コントロールで、著書では紙数の都合があってか戸数密度について触れられていないですが、建築基準法の改悪により「容積率の転移」ができるので複雑になる心配があります。私は住民にわかりやすい単純な高さ規制でコントロールしたほうが良いと考えます。なお、まちづくりは建築基準法への過度な依存はやめるべきで、集団的な面的整備手法を規制と整備の両面から制度設計すべきです。
写真は大徳寺の塀です。