Con Gas, Sin Hielo

細々と続ける最果てのブログへようこそ。

「30年後の同窓会」

2018年06月23日 12時56分47秒 | 映画(2018)
想い出という宝物を共有する。


コメディ俳優という括りにありながら、最近は影のある役を演じることが多いS.カレル

今回は、妻と息子に立て続けに先立たれてしまった中年男性・ラリーという役どころ。

ただでさえ人生の先が見えてきて希望を持てなくなっている年代である上に、自分が存在する理由まで失ってしまった男がとった行動とは何か。

監督はR.リンクレイター。リンクレイター監督といえば、何と言っても「ビフォア~」3部作である。

男女のカップルと、30年ぶりに会った旧友という違いはあるものの、本作は「ビフォア~」シリーズと重なるところが多く見受けられた。

特に後半、息子の棺を伴ってアムトラックで自宅へ向かうという下りである。列車の中で、途中下車した街で、とりとめのない会話が繰り返される中で、それぞれの気持ちが重なって絡み合っていく。

交わされる会話のおもしろさももちろんだが、道中のエピソードが楽しかったり心温まったりするところも共通だ。

ベトナム戦争の兵役時代を引きずるように昼夜問わずに酒浸りで荒っぽい性格のサル。退役後にキリスト教と出会いすっかり心変わりした牧師のミューラー。

ラリーも含めて三者三様の彼らは、戦争がなければ出会うことすらなかったかもしれない。エピソードの裏には、多かれ少なかれ戦争の影が見えるところが本作の特徴である。

若くて何も考えずやんちゃしていた時代。それは厳しい戦地で生き抜くために必要だった遊びしろだったのかもしれないが、彼らの行為が救えるはずの同胞の命を奪い、ラリーを除隊に追い込むことになってしまった。

人生の濃い時期を過ごした仲間と30年ぶりに会うということ。ミューラーは忌まわしい過去の襲来というような表現をしていたと思うが、少なくともラリーにとっては、これから自分が生きる道を確かめるためにも必要な儀式だった。

そしてそれは、特段の問題なく日々を暮らしていたサルとミューラーにとっても特別な意味を持つものになった。

戦争はもちろんない方が良い。ただ、彼らの過去に厳然と存在するそれをなかったものにすることはできない。

長い旅路は、3人が自分たちの過去に初めて正面から向き合う時間となった。

皮肉なのは、その過去はすべてが苦しいことばかりではなかったということ。バカ話で大笑いする3人を見ると、ラリーにとって戦場で会ったこの2人がいなかったら、果たして家族の死を乗り越えられたかと複雑な心境になる。

息子の埋葬が無事に執り行われ、ラリーは過去の清算を終えた。良いことも悪いことも見つめ直した結果として、彼は今後の人生をどのように選択するのか。

それはもちろん描かれることはない。いくらでも選択肢はあるし、選択しないという生き方すらあるから。人生は、生きるということは、これほどまでに複雑だということだ。

(90点)
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「犬ヶ島」

2018年06月23日 12時05分56秒 | 映画(2018)
とらえどころが、ない。


ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞。北米マーケットで地味ながらサプライズヒットを記録しているという本作。

監督はW.アンダーソン。一風変わった作品を撮るというイメージが先行するが、振り返れば実際に観たのは「ムーンライズキングダム」だけだった。そのときの評価は良くも悪くも取れる感じ。

本作の話題は何と言っても日本を舞台にしたストップアニメーションフィルムだということ。これはもうイメージだけじゃなく完全に風変わりな作品である。

舞台は架空の都市・メガサキ。中華街やランタンフェスティバルといった、いかにも外国人受けしそうな色合いを持つ長崎市がモデルであることはおそらく間違いない。

主人公の少年の名前は小林アタリ。苗字からはそれなりに日本に造詣が深いことが分かるが、アタリはゲームの名前である。

一事が万事そのような調子で、現実の日本に寄せている部分とまったく見当違いな部分がまだら模様に描かれていて、よく言えば独特の世界観を創り出すことに成功している。

そして、もう一人の主人公は犬だ。アタリ少年の育ての親であるメガサキ市の小林市長は、人間の友人として長い歴史をともにしてきた犬を目の敵にし、海を隔てたゴミの島にすべての犬を隔離してしまう。

小さい頃から犬と生活をしてきたアタリ少年は、不当な扱いから犬たちを救おうとたった一人でゴミの島へ向かう。

基本的に言葉が通じない中で、お互いの思いや感情を伝え合うコミュニケーションの描写は独特ながら説得力がある。なかなか心を開かなかった野良犬のチーフと絆を築く過程が物語の中心となる。

それにしても、なぜこの話をストップモーションアニメで撮ったのか。映画の良し悪し以上にそこがどうしても気になってしまう。

ここでもキーワードは「独特」だ。他にはない世界観にする必要があったということなのだろうけど、それによる効果とは?何か自分に近い特定の場所であり事象でありを容易に想像させないための仕掛けと見るのは早計だろうか。

いずれにせよ、それほど複雑ではない物語を強く印象付けることに成功したのは確かなことだ。

ただ評価は、・・・今回も良し悪しとしか言いようがない。

最後に、声優陣はS.ヨハンソンE.ノートンといった一線のハリウッド俳優から、ヨーコ・オノ渡辺謙野田洋次郎まで、洋邦を問わずまぶしいくらい豪華だ。監督の芸術性に関する評価が高いことの証であろう。

(70点)
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