想い出という宝物を共有する。
コメディ俳優という括りにありながら、最近は影のある役を演じることが多いS.カレル。
今回は、妻と息子に立て続けに先立たれてしまった中年男性・ラリーという役どころ。
ただでさえ人生の先が見えてきて希望を持てなくなっている年代である上に、自分が存在する理由まで失ってしまった男がとった行動とは何か。
監督はR.リンクレイター。リンクレイター監督といえば、何と言っても「ビフォア~」3部作である。
男女のカップルと、30年ぶりに会った旧友という違いはあるものの、本作は「ビフォア~」シリーズと重なるところが多く見受けられた。
特に後半、息子の棺を伴ってアムトラックで自宅へ向かうという下りである。列車の中で、途中下車した街で、とりとめのない会話が繰り返される中で、それぞれの気持ちが重なって絡み合っていく。
交わされる会話のおもしろさももちろんだが、道中のエピソードが楽しかったり心温まったりするところも共通だ。
ベトナム戦争の兵役時代を引きずるように昼夜問わずに酒浸りで荒っぽい性格のサル。退役後にキリスト教と出会いすっかり心変わりした牧師のミューラー。
ラリーも含めて三者三様の彼らは、戦争がなければ出会うことすらなかったかもしれない。エピソードの裏には、多かれ少なかれ戦争の影が見えるところが本作の特徴である。
若くて何も考えずやんちゃしていた時代。それは厳しい戦地で生き抜くために必要だった遊びしろだったのかもしれないが、彼らの行為が救えるはずの同胞の命を奪い、ラリーを除隊に追い込むことになってしまった。
人生の濃い時期を過ごした仲間と30年ぶりに会うということ。ミューラーは忌まわしい過去の襲来というような表現をしていたと思うが、少なくともラリーにとっては、これから自分が生きる道を確かめるためにも必要な儀式だった。
そしてそれは、特段の問題なく日々を暮らしていたサルとミューラーにとっても特別な意味を持つものになった。
戦争はもちろんない方が良い。ただ、彼らの過去に厳然と存在するそれをなかったものにすることはできない。
長い旅路は、3人が自分たちの過去に初めて正面から向き合う時間となった。
皮肉なのは、その過去はすべてが苦しいことばかりではなかったということ。バカ話で大笑いする3人を見ると、ラリーにとって戦場で会ったこの2人がいなかったら、果たして家族の死を乗り越えられたかと複雑な心境になる。
息子の埋葬が無事に執り行われ、ラリーは過去の清算を終えた。良いことも悪いことも見つめ直した結果として、彼は今後の人生をどのように選択するのか。
それはもちろん描かれることはない。いくらでも選択肢はあるし、選択しないという生き方すらあるから。人生は、生きるということは、これほどまでに複雑だということだ。
(90点)
コメディ俳優という括りにありながら、最近は影のある役を演じることが多いS.カレル。
今回は、妻と息子に立て続けに先立たれてしまった中年男性・ラリーという役どころ。
ただでさえ人生の先が見えてきて希望を持てなくなっている年代である上に、自分が存在する理由まで失ってしまった男がとった行動とは何か。
監督はR.リンクレイター。リンクレイター監督といえば、何と言っても「ビフォア~」3部作である。
男女のカップルと、30年ぶりに会った旧友という違いはあるものの、本作は「ビフォア~」シリーズと重なるところが多く見受けられた。
特に後半、息子の棺を伴ってアムトラックで自宅へ向かうという下りである。列車の中で、途中下車した街で、とりとめのない会話が繰り返される中で、それぞれの気持ちが重なって絡み合っていく。
交わされる会話のおもしろさももちろんだが、道中のエピソードが楽しかったり心温まったりするところも共通だ。
ベトナム戦争の兵役時代を引きずるように昼夜問わずに酒浸りで荒っぽい性格のサル。退役後にキリスト教と出会いすっかり心変わりした牧師のミューラー。
ラリーも含めて三者三様の彼らは、戦争がなければ出会うことすらなかったかもしれない。エピソードの裏には、多かれ少なかれ戦争の影が見えるところが本作の特徴である。
若くて何も考えずやんちゃしていた時代。それは厳しい戦地で生き抜くために必要だった遊びしろだったのかもしれないが、彼らの行為が救えるはずの同胞の命を奪い、ラリーを除隊に追い込むことになってしまった。
人生の濃い時期を過ごした仲間と30年ぶりに会うということ。ミューラーは忌まわしい過去の襲来というような表現をしていたと思うが、少なくともラリーにとっては、これから自分が生きる道を確かめるためにも必要な儀式だった。
そしてそれは、特段の問題なく日々を暮らしていたサルとミューラーにとっても特別な意味を持つものになった。
戦争はもちろんない方が良い。ただ、彼らの過去に厳然と存在するそれをなかったものにすることはできない。
長い旅路は、3人が自分たちの過去に初めて正面から向き合う時間となった。
皮肉なのは、その過去はすべてが苦しいことばかりではなかったということ。バカ話で大笑いする3人を見ると、ラリーにとって戦場で会ったこの2人がいなかったら、果たして家族の死を乗り越えられたかと複雑な心境になる。
息子の埋葬が無事に執り行われ、ラリーは過去の清算を終えた。良いことも悪いことも見つめ直した結果として、彼は今後の人生をどのように選択するのか。
それはもちろん描かれることはない。いくらでも選択肢はあるし、選択しないという生き方すらあるから。人生は、生きるということは、これほどまでに複雑だということだ。
(90点)