ノラや 内田百間
ちくま文庫 2003年出版
内田百(1889-1971)は夏目漱石の門下生、
岡山市生まれ、東大独文化卒
猫23編からなるが、最初に掲載の「猫」、「梅雨韻」、「白猫」は猫にからんだ怪異な短編、
次の「彼ハ猫デアル」、「ノラや」からは大して猫好きでもなかった著者が一匹のノラ猫と出会ったことから
圧倒的な猫好きに変わっていった、
そして突然失踪したノラに対するたまらないほどの愛着と恋慕の情
は尽きることがない
著者はノラが消えていったときのことをいつまでもありありと覚えている、「家内の手をすり抜けて下へ降りた。そうして垣根をくぐりトクサの繁みの中を抜けて向こうへ行ってしまった」、それ以来ノラは戻ってこなかった、
著者は憂鬱になり来る日も来る日もノラが帰ってこないかと気も狂わんばかりの日々を過ごす、その寂しさに思わず涙にむせったことも、ついには謝礼付きの新聞の折り込み広告を出したりする、
百はどんな猫でも好きになったのではなかった、
いなくなってからその想い出の一つ一つが胸にこみ上げて余計に可愛さが募ったのではないかと思われる
彼は生涯のうち、たった二匹の猫にだけ愛情を注いだ、
二匹目はノラによく似た迷い猫でクルツという名前だった、このクルは尻尾が短いことを除けばノラに瓜二つだった、
だが、喧嘩をしたときの怪我が原因で体を壊し医者の治療も虚しく死んだ、飼われてから5年ちょっとだった、
ノラは飼われて一年ちょっとで行方不明となったが、クルは愛情を十分に注がれた一生だった
百は六十代後半むしろ七十近くなって猫を飼った、
子供もいなかったからその老年の慰めを得た、だからことさらにノラがいなくなったことやクルが短命で死んだことはことのほか応えたに違いない
ノラのことでは、あたかもかぐや姫の物語を連想してしまう、
大きくなったノラは爺と婆を置いて月の世界にいってしまった、
もの悲しい
「ノラや」テレビドラマになりましたね
可愛がっているいる者を失うのは
すごく辛いものですね
テレビドラマになっていたのは
知らなかったです
知っていれば観たであろうと
残念です
それにしても、せつない実話です