キカクブ日誌

熊本県八代市坂本町にある JR肥薩線「さかもと駅」2015年5月の写真です。

「風俗 江戸東京物語」岡本綺堂

2021年01月13日 |   └─半七捕物帳

今読んでいる本。
小説ではなく、綺堂が江戸と(明治の)東京の風俗を紹介した文章。
(そこに今井金吾氏の註がつく)

ここに登場する江戸の風習の一部は「半七捕物帳」のなかで実際に半七老人の口から語られたのと同じ文章のため半七老人が語ってるような気がしてくる。使いまわしの感もあるが、ブレがないともいえる。
宮部みゆきの小説で読んだなぁというような話もあり、時代小説の格好の資料となっていると思われる。

今の人が知らない話も多く、いろいろびっくりしながら読んでる。

・江戸時代の人は楷書を習わない。書けない。行書や草書が一般的とか。
・大名が泊まる「本陣」はとても汚くて普通の宿屋の方がましだったところもあるとか。(しかも本陣は宿賃が安い)
・ゆすりたかりの「ゆすり」という言葉は、駕籠に乗った旅人がからだをゆすって駕籠かきからお金を脅しとることからきてるとか。
・「池袋の女」という怪談があったとか。
・江戸の芝居小屋は土間にござを敷いただけの粗末な席で、さらにトイレもとても汚くて入れたもんじゃなかったとか。

さりげなく「肥後米」は高級なおいしいお米だったと語られている。
へー。そうだったんだ。


緊急事態宣言中。
私の住む神奈川の状況がどんどん悪くなってきています。
東京の方へ向かう通勤電車はさほど変化は感じませんが、横浜南部で働くうちの夫の話によると電車の乗客数が減ってきてるとか。「神奈川」の人たちが覚醒してきたということかもしれません。

駅ピアノもまた使用禁止になってしまいました。
「馬車道」駅。


生協で届いた神奈川県産の春の七草を食べました。



半七は実在したか?昭和2年の綺堂の文章

2020年12月25日 |   └─半七捕物帳
昨日書いた「半七は実在した」に、綺堂本人が昭和11年に書いた文章を載せましたが、実は昭和2年にはかなり曖昧なことも書いているのです。

私はこちらの文章を先に読んでいたので、ずっと半七親分を実在とは思わなかったのでした。



その文章も引用します。

回想・半七捕物帳

捕物帳の成り立ち

 初めて「半七捕物帳」を書こうと思い付いたのは、大正五年の四月頃とおぼえています。その頃わたしはコナン・ドイルのシャーロック・ホームズを飛びとびに読んでいたが、全部を通読したことが無いので、丸善へ行ったついでに、シャーロック・ホームズのアドヴェンチュアとメモヤーとレターンの三種を買って来て、一気に引きつづいて三冊を読み終えると、探偵物語に対する興味が油然と湧き起って、自分もなにか探偵物語を書いてみようという気になったのです。勿論、その前にもヒュームなどの作も読んでいましたが、わたしを刺戟したのはやはりドイルの作です。
 しかしまだ直ぐには取りかかれないので、さらにドイルの作を獲あさって、かのラスト・ギャリーや、グリーン・フラダや、爐畔物語や、それらの短篇集を片っ端から読み始めました。しかし一方に自分の仕事があって、その頃は時事新報の連載小説の準備もしなければならなかったので、読書もなかなか捗取らず、最初からでは約ひと月を費やして、五月下旬にようやく以上の諸作を読み終りました。
 そこで、いざ書くという段になって考えたのは、今までに江戸時代の探偵物語というものが無い。大岡政談や板倉政談はむしろ裁判を主としたものであるから、新たに探偵を主としたものを書いてみたら面白かろうと思ったのです。もう一つには、現代の探偵物語を書くと、どうしても西洋の模倣に陥り易い虞れがあるので、いっそ純江戸式に書いたならば一種の変った味のものが出来るかも知れないと思ったからでした。幸いに自分は江戸時代の風俗、習慣、法令や、町奉行、与力、同心、岡っ引などの生活に就いても、ひと通りの予備知識を持っているので、まあ何とかなるだろうという自信もあったのです。
 その年の六月三日から、まず「お文の魂」四十三枚をかき、それから「石燈籠」四十枚をかき、更に「勘平の死」四十一枚を書くと、八月から国民新聞の連載小説を引き受けなければならない事になりました。時事と国民、この二つの新聞小説を同時に書いているので、捕物帳はしばらく中止の形になっていると、そのころ文芸倶楽部の編集主任をしていた森暁紅君から何か連載物を寄稿しろという注文があったので、「半七捕物帳」という題名の下にまず前記の三種を提出し、それが大正六年の新年号から掲載され始めたので、引きつづいてその一月から「湯屋の二階」「お化ばけ師匠」「半鐘の怪」「奥女中」を書きつづけました。雑誌の上では新年号から七月号にわたって連載されたのです。
 そういうわけで、探偵物語の創作はこれが序開きであるので、自分ながら覚束ない手探りの形でしたが、どうやら人気になったと云うので、更に森君から続篇をかけと注文され、翌年の一月から六月にわたって又もや六回の捕物帳を書きました。その後も諸雑誌や新聞の注文をうけて、それからそれへと書きつづけたので、捕物帳も案外多量の物となって、今まで発表した物話は四十数篇あります。
 半七老人は実在の人か――それに就いてしばしば問い合せを受けます。勿論、多少のモデルが無いでもありませんが、大体に於いて架空の人物であると御承知ください。おれは半七を知っているとか、半七のせがれは歯医者であるとか、或いは時計屋であるとか、甚しいのはおれが半七であると自称している人もあるそうですが、それは恐らく、同名異人で、わたしの捕物帳の半七老人とは全然無関係であることを断わっておきます。
 前にも云った通り、捕物帳が初めて文芸倶楽部に掲載されたのは大正六年の一月で、今から振り返ると十年余りになります。その文芸倶楽部の誌上に思い出話を書くにつけて、今更のように月日の早いのに驚かされます。(昭和2・8「文芸倶楽部」)

昭和2年の段階では、綺堂もまだ半七のモデルについて曖昧にしておくほうが読者の興味が削がれないと思っていたのかもしれないですね。

 「アドヴェンチュアとメモヤーとレターンの三種」
とあるのは、新潮文庫延原謙訳のタイトルで言えば、
「冒険」「思い出」「帰還」になります。綺堂は全て原文で読んでいるんですよね。その一方で当時の文化人らしく漢文方面にも精通して中国の怪奇ものをたくさん紹介してますし、明治の文化人のレベルの高さはすごいですね。それだからあんなに洗練された文章がかけるのかな。

 ところで、私が読んでいる半七捕物帳はアマゾンKindleから出ている電子書籍で、なんと捕物帳全69篇全て収録されていて100円くらいでした。(上記の文はその付録に収録されていたのです)

スマホに入れて通勤電車で読むのに便利です。著作権が切れているため、100円とというのは電子書籍にまとめる手間賃でしょうか?

電子書籍ならではの利点もあって、こういうシリーズものだと「あのエピソードはどの話に出てきたっけ??」なんていうことを確認したいときに、単語詮索できるのです。紙の本だと自分の記憶だよりですけどね。
あ、そうやって頭を使わないからどんどん劣化していくのか…?!




「半七は実在した」今井金吾著

2020年12月23日 |   └─半七捕物帳

いやいや面白かった。
この本も永久保存用に取り寄せようかしら??


 最近「半沢直樹」の作者池井戸潤が昔勤めていた銀行の頭取に「半沢」氏が就任という話題がありましたね。この半沢氏は池井戸潤の同期だったらしく、優秀だったので小説の主人公の名前に借りたとのだとか。半沢直樹が実在したというわけではないようですが、小説の世界が現実世界と地続きになってるようで、ファンは楽しく盛り上がったことでしょう。

 
三菱UFJ銀頭取に半沢氏 13人抜き、常務から来春昇格―池井戸潤氏と同期 2020年12月22日21時49分(時事ドットコム)

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が傘下の三菱UFJ銀行の次期頭取に、同行常務の半沢淳一氏(55)を昇格させる人事を固めたことが22日、分かった。同行で常務から頭取に就任するのは初めてで、副頭取など計13人抜きとなる。MUFGの指名・ガバナンス委員会の承認を得て、来年4月に就任する。
 半沢氏は1988年に三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、人気ドラマ「半沢直樹」の原作者である池井戸潤氏とは同期。(後略)


 さて、シャーロック・ホームズが架空の人物であるように、半七捕物帳の半七親分も岡本綺堂の創作だと思っていたのですが、どうやらそうでもないらしい。
半七親分にもモデルがいたそうです。
いや、モデルどころではない、実際に綺堂は半七親分(のモデルの人)から聞いた話を元に小説を書いたらしいのです。


 明治の半七老人が赤坂に住んでるというのは創作らしいですが。おそらく綺堂が執筆した当時はゆかりの人がまだいて、個人が特定されるのがよろしくないと考えたのかもしれません。
明治の半七老人は赤坂でなく大久保に住んでいたようです。(その大久保の住まいの様子は半七老人の友人である三浦老人の住まいとして「三浦老人昔話」の方で語られています。)



 綺堂も「モデルはいるのか実在の人物なのか?」と散々聞かれたらしく、自らちゃんと文章を残しています。ちょっと長いですが引用しておきます。(青空文庫から持ってきました)


半七招介状
 岡本綺堂

 明治二十四年四月第二日曜日、若い新聞記者が浅草公園弁天山の惣菜(岡田)へ午飯を食いにはいった。花盛りの日曜日であるから、混雑は云うまでも無い。客と客とが押し合うほどに混み合っていた。
 その記者の隣りに膳をならべているのは、六十前後の、見るから元気のよい老人であった。なにしろ客が立て込んでいるので、女中が時どきにお待遠さまの挨拶をして行くだけで、注文の料理はなかなか運ばれて来こない。記者は酒を飲まない。隣りの老人は一本の徳利を前に置いているが、これも深くは飲まないとみえて、退屈しのぎに猪口をなめている形である。
 花どきであるから他のお客様はみな景気がいい。酔っている男、笑っている女、賑やかを通り越して騒々しい位であるが、そのなかで酒も飲まず、しかも独りぼっちの若い記者は唯ぼんやりと坐っているのである。隣りの老人にも連れはない。注文の料理を待っているあいだに、老人は記者に話しかけた。
「どうも賑やかですね。」
「賑やかです。きょうは日曜で天気もよし、花も盛りですから。」と、記者は答えた。
「あなたは酒を飲みませんか。」
「飲みません。」
「わたくしも若いときには少し飲みましたが、年を取っては一向いっこういけません。この徳利も退屈しのぎに列べてあるだけで……。」
「ふだんはともあれ、花見の時に下戸はいけませんね。」
「そうかも知れません。」と、老人は笑った。
「だが、芝居でも御覧なさい。花見の場で酔っ払っているような奴は、大抵お腰元なんぞに嫌われる敵役で、白塗りの色男はみんな素面ですよ。あなたなんぞも二枚目だから、顔を赤くしていないんでしょう。あははははは。」
 こんなことから話はほぐれて、隣り同士が心安くなった。老人がむかしの浅草の話などを始めた。老人は痩やせぎすの中背ちゅうぜいで、小粋な風采といい、流暢な江戸弁といい、紛れもない下町の人種である。その頃には、こういう老人がしばしば見受けられた。
「お住居は下町ですか。」と、記者は訊きいた。
「いえ、新宿の先で……。以前は神田に住んでいましたが、十四五年前から山の手の場末へ引っ込んでしまいまして……。馬子唄で幕を明けるようになっちゃあ、江戸っ子も型なしです。」と、老人はまた笑った。
 だんだん話しているうちに、この老人は文政六年未年の生まれで、ことし六十九歳であるというのを知って、記者はその若いのに驚かされた。
「いえ、若くもありませんよ。」と、老人は云った。「なにしろ若い時分から体に無理をしているので、年を取るとがっくり弱ります。もう意気地はありません。でも、まあ仕合せに、口と足だけは達者で、杖も突かずに山の手から観音さままで御参詣に出て来られます。などと云うと、観音さまの罰が中る。御参詣は附けたりで、実はわたくしもお花見の方ですからね。」
 話しながら飯を食って、ふたりは一緒にここを出ると、老人はうららかな空をみあげた。
「ああ、いい天気だ。こんな花見日和は珍らしい。わたくしはこれから向島へ廻ろうと思うのですが、御迷惑でなければ一緒にお出でになりませんか。たまには年寄りのお附合いもするものですよ。」
「はあ、お供しましょう。」
 二人は吾妻橋あづまばしを渡って向島へゆくと、ここもおびただしい人出である。その混雑をくぐって、二人は話しながら歩いた。自分はたんとも食わないのであるが、若い道連れに奢ってくれる積りらしく、老人は言問団子に休んで茶を飲んだ。この老人はまったく足が達者で、記者はとうとう梅若まで連れて行かれた。
「どうです、くたびれましたか。年寄りのお供は余計にくたびれるもので、わたしも若いときに覚えがありますよ。」
 長い堤を引返して、二人は元の浅草へ出ると、老人は辞退する道連れを誘って、奴うなぎの二階へあがった。蒲焼で夕飯を食ってここを出ると、広小路の春の灯は薄い靄もやのなかに沈んでいた。
「さあ、入相がボーンと来る。これからがあなたがたの世界でしょう。年寄りはここでお別れ申します。」
「いいえ、わたしも真直まっすぐに帰ります。」
 老人の家は新宿のはずれである。記者の家も麹町である。同じ方角へ帰る二人は、門跡前から相乗りの人力車に乗った。車の上でも話しながら帰って、記者は半蔵門のあたりで老人に別れた。
 言問では団子の馳走になり、奴では鰻の馳走になり、帰りの車代も老人に払わせたのであるから、若い記者はそのままでは済まされないと思って、次の日曜に心ばかりの手みやげを持って老人をたずねた。その家のありかは、新宿といってもやがて淀橋に近いところで、その頃はまったくの田舎であった。先日聞いておいた番地をたよりに、尋ねたずねて行き着くと、庭は相当に広いが、四間ばかりの小さな家に、老人は老婢と二人で閑静に暮らしているのであった。
「やあ、よくおいでなすった。こんな処は堀の内のお祖師さまへでも行く時のほかは、あんまり用のない所で……。」と、老人は喜んで記者を迎えてくれた。
 それが縁となって、記者はしばしばこの老人の家を尋ねることになった。老人は若い記者にむかって、いろいろのむかし話を語った。老人は江戸以来、神田に久しく住んでいたが、女房に死に別れてからここに引込んだのであるという。養子が横浜で売込商のようなことをやっているので、その仕送りで気楽に暮らしているらしい。江戸時代には建具屋を商売にしていたと、自分では説明していたが、その過去に就いては多く語らなかった。
 老人の友達のうちに町奉行所の捕方すなわち岡っ引の一人があったので、それからいろいろの捕物の話を聞かされたと云うのである。
「これは受け売りですよ。」
 こう断わって、老人は「半七捕物帳」の材料を幾つも話して聞かせた。若い記者はいちいちそれを手帳に書き留めた。――ここまで語れば大抵判るであろうが、その記者はわたしである。但し、老人の本名は半七ではない。
 老人の話が果たして受け売りか、あるいは他人に托して自己を語っているのか、おそらく後者であるらしく想像されたが、彼はあくまでも受け売りを主張していた。老人は八十二歳の長命で、明治三十七年の秋に世を去った。その当時、わたしは日露戦争の従軍新聞記者として満洲に出征していたので、帰京の後にその訃ふを知ったのは残念であった。
「半七捕物帳」の半七老人は実在の人物であるか無いかという質問に、わたしはしばしば出逢うのであるが、有るとも無いとも判然と答え得ないの右の事情に因るのである。前にも云う通り、かの老人の話が果たして受け売りであれば、半七のモデルは他にある筈である。もし彼が本人であるならば、半七は実在の人物であるとも云い得る。いずれにしても、わたしはかの老人をモデルにして半七を書いている。住所その他は私の都合で勝手に変更した。
 但し「捕物帳」のストーリー全部が、かの老人の口から語られたのではない。他の人々から聞かされた話もまじっている。その話し手をいちいち紹介してはいられないから、ここでは半七のモデルとなった老人を紹介するにとどめて置く。(昭和11・8「サンデー毎日」)

面白いですね~!
半七捕物帳を読んだことがある方なら、この記者と老人のやり取りはまさに小説そのままだと気が付かれると思います。(というか、この浅草から向島への花見の話も小説の中に確かありましたよね)

 私が特に面白いなぁと思うのは、半七捕物帳の第一作「お文の魂」に登場する「Kのおじさん」のことです。この「Kのおじさん」が実在の人物で16歳の綺堂に「お文の魂」を話したのなら、綺堂は16歳のときに聞いた話の人物に20代半ばで出会って親しくなっているのです。そんな偶然あるのかしら??いくら今より人口が少ないとは言っても?


で、この本ですが、
この本の著者は半七親分は実在の人物で、場所などの設定は変えてあるものの、毎回話の導入部分に出てくる明治の話も事実であったと考えています。そして、半七の一生をできるだけ正確にたどって年表もつくってます。話に出てくる街の様子から、その日の歩いた道順はどうだったかとか、「停車場」とだけ書いてあるのは何駅だとか、注釈本を作る勢いで事細かに調べつくし、推理しつくしています。

 シャーロック・ホームズならシャーロキアンとかホームジアンと言われる研究者がいますが、こらはまさに「ハンシチアン」の研究成果。著者自身も戦前の神田の生まれで、思い入れも深いのでしょう。

 私も半七親分の神田三河町の家のあたりを歩いてみようと、鎌倉河岸のあたりを歩いたことがあります。その頃はまだ親分が実在だなんて知らなかったので、洒落のつもりでしたが、また行ってみたいと思います。
 その時の記事 ⇒ 2017半七捕物帳江戸散歩」

 子どものころからシャーロック・ホームズが好きな私は、ロンドンベーカー街へも行きましたが、やはり架空の人物とわかっているので221bがどこだったかとか真剣に考えようとは思いません。が、半七はちがいます。名前こそ「半七」ではなかったものの、実在の人物で、きっと子孫もどこかにいるでしょう、ひょっとすると先祖がかの有名な半七親分だとは知らずにいるのかもしれません。そんなことも想像すると、また一段と楽しくなります。

半七ブームが起きてほしいなぁ。
そして映像作品も良質なのがどんどんできてほしいです。
ホームズでいうところの「グラナダTVシリーズ」のような、原作に忠実な作品を見てみたいです。

新田神社今昔 「半七の見た江戸」今井金吾著 

2020年12月12日 |   └─半七捕物帳

半七捕物帳に出てくる江戸の場所を「江戸名所図会」などの絵と現代(といってもこの本が書かれた1999年ころ)の東京の写真と比べながらたどっていく本。本文は半七捕物帳で江戸の風物が描かれている部分の抜粋。

楽しい!!

場所が特定できないところもかなり推理で補ってあるし、昔の芝居小屋や店、町の名前など今ではもう残っていないものについては、現在の住所表示まで載せてある親切ぶり。


さて、私去年まで大田区に住んでいて毎年初詣には矢口にある「新田神社」におまいりしていました。半七捕物帳の「大森の鶏」という話にこの神社が登場します。関係あるとこだけ少し抜粋引用します。

「名は……八さんといっていますが、八蔵か八助か判りません。なんでも矢口の方から来るのだそうで……」
「矢口か。矢口の渡しなら六蔵でありそうなものだが……」と、庄太は笑った。

 ※平賀源内作と言われる「神霊矢口渡」という歌舞伎があるので、矢口の話は江戸の人々にもおなじみだったのでしょう。六蔵は新田義興公をだまし討ちにする船頭。

「いっそ矢口へ行ってみましょうか。大森のかみさんは曖昧なことを云っていましたが、ほかの女中にカマをかけて、鶏を売りに来た奴の居所いどこをちゃんと突き留めて来ました。そいつは矢口の新田神社の近所にいる八蔵という奴だそうです」
「矢切で死んだ奴の詮議に矢口へ行く……。矢の字尽づくしも何かの因縁かも知れねえ。おまけにどっちも渡し場だ」と、半七は笑った。「じゃあ気の毒だが矢口へ行って、あの鶏はどこで買ったのか、調べてくれ。こうなったら、ちっとぐらい手足を働かせても無駄にゃあなるめえ」
「そうです、そうです。こいつは何か引っかかりそうですよ。だが、これから矢口までは行かれねえから、あしたにしましょう」
 なにかの期待をいだいて、庄太は威勢よく帰った。明くる日も寒い風が吹いたので、庄太も定めて弱っているだろうと思っていると、果たしてその日の灯ひともし頃に、彼はふるえながら引き上げて来た。
「矢口へ行って、八蔵という奴の家うちをさがし当てました。あの鶏はやっぱり海保寺門前の桂庵の家で買ったということですから、鳥亀の女房が売ったに相違ありません」
 八蔵は農家の伜であるが、家には兄弟が多いので、彼は農業の片手間に飼い鶏どりや家鴨あひるなどを売り歩いていた。大きい笊に麻縄の網を張ったような鳥籠を天秤棒に担かついで、矢口の村から余り遠くない池上、大森、品川のあたりを廻っていたのである。

新田神社は江戸じゃないけど、この本にもちゃんと出てました。なじみの場所が出てくるとうれしくなっちゃいます。


「新田明神社」 
江戸時代らしくお寺も一緒にあります~真福寺。
新田神社は、新田義貞の次男義興公の怨霊を慰めるための社で、本殿の裏には義興公の塚があります。上の絵で丸く竹が生っている部分。この塚、もちろん今もあります。そこに生える笹が片葉になるという伝説もある・・・。

GoogleEarthで同じ角度から俯瞰した現在の新田神社。
周りは家がびっしり。


新田義興公の時代には新田神社のすぐ裏が多摩川で「矢口の渡し」があったといわれていますが、いまの多摩川ははるか向こうに・・・。



はじめは図書館で借りてきたのですが、
「これは永久保存だ!」と思ったので、アマゾンで買いました。

図書館に予約

2017年03月31日 |   └─半七捕物帳
大江戸鳥瞰図
クリエーター情報なし
朝日新聞出版


昨日から調べている江戸時代の地図や街歩き系の本を図書館に予約した。
この時代、図書館の本もネットで検索して、そのまま予約できるから便利。
本が届いたらメールでお知らせ来るし。

そのうち、自宅に配達サービスができたりしてね。
(さすがに無料じゃないだろうけど)

残りわずか

2017年03月30日 |   └─半七捕物帳


半七捕物帳 全69作品のリストを作って手帳に挟んでいる。
読んだものに黄色のチェックを入れてみてるけど、残りがだんだん減ってきた。
さびしい。
作品名の横の数字は青空文庫のID。

今はオーディブルで朗読を聞いてるけど(朗読の無い作品が10個以上ある)
聴き終わったら、「半七江戸地図」みたいなものを作ってみたい。
作品に登場した場所を地図にマークして、実際に訪ねて歩いてみるのも面白そう。
実は我が家の近所も登場している。半七は来なかったけど、子分が聞き込みに来たりしてて楽しい!もしかしたらもう誰かがやってるかな?

向島の寮(半七捕物帳)

2017年03月05日 |   └─半七捕物帳
森沢 幸 (ナレーション)

あらすじ
「土蔵の中には大きな蛇が祀まつってあるんだそうで……。それに三度の食物を供える。それには男の肌を知らない生娘きむすめでなければいけない…」。雇われた生娘が土蔵で見たのは…。幕末の江戸を舞台に、人情に篤いがクールな知性派、岡っ引きの半七親分が大活躍!


ネタバレします


これは完全にホームズだ!!
ブナ屋敷だ。

話は面白いけど、設定にちょっと無理があるかなー。
寮番夫婦は自分たちだけで手が足りないなら、お蛇様のお供えのご飯の世話は自分たちで賄って、その他の母屋や庭の掃除とか、そういう仕事に女中さんを使えばよかったでしょう。そうすれば発覚しなかったのに。
田舎者を馬鹿にしすぎでは?

向島の寮と言えば宮部みゆきの時代小説にも登場します。
宮部みゆきが、半七ファンだからかな、あるいは寮といえば向島だったのか?


半七で学ぶ江戸文化
・この時代、田舎者の娘でも読み書き普通にできる。彼女の書いた手紙が事件解決の端緒。


 →青空文庫「向島の寮」へ

勘平の死(半七捕物帳)

2017年03月04日 |   └─半七捕物帳
朗読:藤田かおる

あらすじ
衆人が見守る舞台上での殺人事件!半七親分が酔っ払いを熱演する目的は?江戸のホームズ、半七親分の活躍を朗読で楽しもう。
素人芝居「忠臣蔵」の勘平を演じる大店の息子が、本番の真っ最中に殺された!
半狂乱の実の母に頼まれて捜査に乗り出した半七は、自らも店先で大芝居を打ち、犯人を炙り出す――。
幕末の江戸を舞台に、人情にゃ篤いがクールな知性派、半七親分が大活躍!


以下、微妙にネタバレします。

素人芝居
すり替わる凶器
舞台上の死の臨場感
事件の動機は、陳腐と言えば陳腐ですが、半七の人情味あふれる解決法に感心します。

この解決法、今の価値観だとちょっと首をひねるところもありますが、江戸までさかのぼらずとも、松本清張の作品などでもこういう処理の仕方を良しとする価値観は受け継がれていたと思います。(ゼロの焦点とか)

半七に事件の調査を依頼に来る人物にひねりがきいてて、この人情話がもりあがります。
「依頼人」の存在は、シャーロックホームズでは、割合に必須条件ですが、半七捕物帳では、あまり依頼人というのは登場しませんので新鮮でした。ここかお上の十手を預かる半七と、私立の諮問探偵であるホームズとの違いですね。

「だが、旦那、このことは無論内分にいたしますが、江戸中にたった一人、正直に云って聞かせなけりゃあならない者がございますから、それだけは最初からお断わり申して置きます」
こういう物の言い方、ホームズにも共通しますね。ホームズはもうちょっと皮肉が利いてるか。


半七で学ぶ江戸文化
・磔の処刑の仕方が事細かく描写されていて怖かった。
 腋のほうから何度も槍を刺して絶命させるのですね。ブルブル・・・。

 → 青空文庫「勘平の死」へ

お照の父(半七捕物帳)

2017年03月02日 |   └─半七捕物帳
あらすじ・解説
娘思いの真面目な父が、ある朝突然の来訪者に殺された! 死をきっかけに、父親が隠しぬいた忌まわしい過去が炙り出される……幕末の江戸を舞台に、人情にゃ篤いがクールな知性派、半七親分が大活躍!




ネタバレしますよ

完全にこれはグロリアスコット号事件。
途中ではは〜ん。と気がつきました。
河童が出てきたので、四つの署名も混ざってるか??

細かく見ていくと、この話はグロリアスコット号の翻案と思えるほど。
腕に刺青がある、罪人であることを示す刺青をかくすために紅葉の刺青を入れてる。でも半七の観察眼にかかるとしっかり見破られる。ホームズのグロリアスコット号事件でも、トリヴァ老人の腕のイニシャルの刺青(を消そうとした跡)をホームズがしっかり観察している。すっかり心を入れ替えて真人間になり、周りからも善人の評判の高い人物になっているところへ、昔の悪事を知るものが訪ねてくるというのも一緒。

実行犯として小さな人間が登場するところは「四つの署名」風味。ホームズ物語は大英帝国らしく、植民地からやってきた「トンガ」ですが、こちらは鎖国中のお江戸。登場するのは「河童」です。
河童!!
半七捕物帳は、こういう怪奇風味もたっぷりなので、幽霊とか化け猫とか狐とかいろいろ出てくるんですが、この河童には最終的にはちゃんと現実的な解説がつきます。


半七で学ぶ江戸文化
・六十六部=巡礼者。略して「六部」ともいう。
・河童の見世物は見世物小屋の定番。

 →青空文庫「お照の父」へ

湯屋の二階(半七捕物帳)

2017年02月28日 |   └─半七捕物帳

ナレーター: 窪田 涼子
再生時間: 0時間 58分

あらすじ・解説:
黒船来航で治安が悪化している江戸の町。法螺熊こと手先の熊蔵からの知らせを聞いて、湯屋の二階に連日昼日中からやってくる二人の武士の物騒な密談に事件が隠されていると睨んだ半七だったが……幕末の江戸を舞台に、人情にゃ篤いがクールな知性派、半七親分が大活躍! ・・朗読は窪田涼子。すっきりと読みこなした初の半七捕物帳は、半七には珍しい失敗譚。「湯屋」は江戸風に「ゆうや」と読んでいます。あたたかみある半七の人柄がにじみでて、大変好ましい仕上がりになりました。



これは、「失敗譚」。
ホームズものでもたまにありますね。
でも失敗の方が面白かったりするのですね。
同じ失敗でも、依頼人をみすみす殺してしまった「踊る人形」とか「オレンジの種5つ」などはちょっと後味が悪いですが、こっちはもっと笑える失敗です。
ホームズ物語で言ったら「黄色い顔」的な話かな?

江戸のお風呂やさんっていいですね。2階で一日中ごろごろしててもいいなんて。でも男性限定らしい。残念。今ならきっと女性もOKなはず。最近はあまり行かないですがスーパー銭湯みたいなところ大好きです。出張の時に、わざわざスーパー銭湯に泊まったりしたこともありました。


ところで、今、テレビで「ブシメシ」というドラマをやっています。
幕末に実在した酒田伴四郎という、和歌山の藩のお侍の日記を元にした話ですが、ものすごくドラマチックに脚色されているようです。

数年前にこの日記を江戸東京博物館が公開して、それがドキュメンタリー番組になったことがありました。また、マンガにもなっています(マンガはただ日記を絵にしただけで、起伏がなくて面白くなかった。そりゃそうですよね、誰に読ませるために書いたわけでもない日記ですから)この日記で私が面白いと思ったのは、殿様の参勤交代で江戸勤めになっている「勤番」侍はヒマを持て余していた。という話です。この酒田さんの場合でいうと、藩の江戸屋敷へ出勤するのは3日に1度、しかも午前中のみで、その他の時間はあちこち見物に出かけ、名物をあれこれ食べ歩きしていたようです。うらやましい。

で、半七の話に戻ります。
「湯屋の二階に日がな一日入り浸ってる侍」ということで、半七は「勤番者だろう」とあたりをつけます。
やっぱりヒマな侍=勤番侍なのですね。



半七で学ぶ江戸文化
・侍は刀を腰に差しているから左の足が右より太く発達してる

これに気が付くところとか、やっぱり半七は日本のホームズです。



 →青空文庫「湯屋の二階」へ

旅絵師 (半七捕物帳)

2017年02月26日 |   └─半七捕物帳
ナレーター: 矢澤 亜希子
再生時間: 1時間 16分

あらすじ・解説:
「それですから、隠密に出された人たちは、その出先で、いろいろのおそろしいこともあり、おかしいこともあり、悲劇喜劇さまざまだそうですが、なにしろ命懸けで入り込むんですから、当人たちに取っては一生懸命の仕事です。」・・・  命をかけた隠密の仕事にスポットライトがあたる、特別編の趣です。



「隠密」・・・
隠密同心心得の条...ですね。やっぱりすぐに思い出すのは。

で、この隠密さん、お仕事は一生に一度なんだとか。
隠密同心のように、毎週毎週事件を解決したりはしてないようです(笑)。

この話には半七は出てこないし、舞台も江戸ではなくて東北の有る藩の城下町ですが、隠密というお仕事について詳しく解説されているのが興味深いです。

さて、お話は奥州街道(日光街道)の栗橋の関をこえて、利根川の渡し船に乗っているところから始まります。「栗橋」というと、いま東武鉄道で「栗橋行き」という電車が私の利用する駅にも入ってきます。
行ったことはないですが、なじみ深い地名です。埼玉県久喜市にある駅のようです。昔はここに関所があったのですね。

舞台になる城下町は具体的な地名は出てきませんが、宇都宮よりも北で、仙台松島ではないところのようです。雪も良く降るようなので米沢とか山形とかでしょうか?それとももっと北かな?


旅絵師に身をやつした隠密の探索にスポットが当たるのかと思うと、そうでもなく、隠密の仕事のために逗留している商家の娘に好かれて困ってる話とか、依頼された絵がどうしてもうまく描けないとか、そういう脇道っぽい話が出てきて、最後にびっくりするような依頼を受けて・・・と展開していきます。この話は半七捕物帳としては「番外編」もいいところじゃないかと思うのですが、話はすこぶる面白く、映像化を見たいような気になります。お家騒動の話は、あまり興味をひかれなかったけど、邪宗門の話は面白かった。

夜更けに暗い池のほとりの弁天堂の前で話をするシーンなど、ぞくぞくしました。
岡本綺堂の文章はコナンドイル同様妙な飾りがなく、シンプルで読みやすいのですが、この話は、時に情景が目に浮かぶようです。自信作だったんじゃないかな。

今のところ、読んだ中で1、2を争う面白さ。


半七で学ぶ江戸文化
・隠密は着物の衿の芯などに、刃物も仕込むし、調べてきた情報も縫い付ける。着物の衿万能!




  →青空文庫「旅絵師」へ

狐と僧 (半七捕物帳)

2017年02月25日 |   └─半七捕物帳
Audibleの朗読版
(ナレーター: 森沢 幸)

あらすじ
谷中の時光寺の住職・英善が戻らないので皆で心配していたところ、寺そばの溝で英善の袈裟や法衣をつけた狐が死んでいるのがみつかった。英善がゆうべこの狐にたぶらかさたのか、或いはその以前から狐が住職になり澄ましていたのか‥「泣くことはねえ。おれがその仇を取ってやる」・・幕末の江戸を舞台に、人情に篤いがクールな知性派、岡っ引きの半七親分が大活躍!

ネタバレしますよ。

朗読時間30分ちょっとの短いお話。
短いけれど、狐が人に化ける話、寺社方の話、甲州街道宿場の様子などなど盛りだくさん。

この話がちょっと爽やかな印象があって読後感がいいのは、登場人物に魅力があるから。宮部みゆきの時代小説に出てきそうな、頭のいい少年が登場します。宮部みゆきだと、ありえないくらいにこの少年を活躍させるところでしょうけど、岡本綺堂さんはそんなことはしません(笑)

出てくる甲州街道の地名~
新宿、府中、日野、八王子、駒木野、小仏、小原、与瀬、吉野、関野、上の原、鶴川、野田尻、犬目、下鳥沢、鳥沢、猿橋~
猿橋と言えば、落語「鰍沢」に出てくるあそこですよね。
その方面にある本山を目指していくというわけだから、日蓮宗のお話なのかな?


地の文で「半七はかれに何事かを教えてやった」とか、詳細を隠すような表現がある。
ここはちょっとアンフェアでは?と思いました。
ト書き部分で途中の大事な話を端折って先に進むところ、クリスティの「アクロイド殺し」っぽい。ミステリーの手法としては最後の種明かしの部分を劇的ににするため、途中では大事な手がかりを伏せておきたいわけです。その方が読者も楽しい。ホームズ物語だと、途中でホームズがつかむ手掛かりは書き手のワトスンにも知らされていないので、その辺フェアだと感じるけど、半七の昔語りという設定であるこのシリーズでは時々難しくなることもあります。ドイルの設定した「ワトスン」という語り手のなんとうまく機能していることかと改めて感心させられます。

なんだかケチをつけるようなことを書いてしまいましたが、半七捕物帳は面白いですよ。

半七で学ぶ江戸文化
・籠の数え方「一挺、二挺(ちょう)」


 →青空文庫「狐と僧」へ


朗読で聴く「半七捕物帳」

2017年02月23日 |   └─半七捕物帳
Audibleという書籍の朗読サービスで、いま、江戸のホームズ「半七捕物帳」を聞いています。
去年の5月に父に紹介してもらって「青空文庫」でも結構読んだのですが、半七捕物帳はシャーロック・ホームズの正典同様60編ほどもあるので、まだまだ読み終わっていませんでした。

Audibleには、古今の名作もかなり収録されているのですが、半七捕物帳もかなりの数があります。(そのほか、瀬戸内寂聴版の源氏物語もそろっている)出版社はまちまちで、朗読も上手い人とどうにも下手な人が混じっているのですが、短編はだいたい1時間なので、通勤時に聞くのにもぴったりです。

Audible(オーディブル)はスマホ、タブレット、そしてWindous10ならパソコンでも聞くことができます。お試し1か月無料でできるので(そのあとは月1500円)試してみたらどうでしょう?


これまで、半七捕物帳では

「松茸」
「猫騒動」
「十六夜御用心」
「川越次郎兵衛」
「奥女中」
「旅絵師」
「三河万歳」


などを聞きました。半七捕物帳の特長として、ちょっと怪奇趣味~怪談が混じってたりするので、朗読はかなり怖さが増します。「猫騒動」は聞き終わったのが夜更けだったこともあり、トイレに行けないくらい怖くなりました。それでも、この人の文章は読みやすく、聴きやすい。


感想をつらつらと・・・

弘化三年生まれは「丙午」。
これは事件の重要な要素になるくらい、「ひのえうま」の女は男を食い殺すという迷信が、浸透していた時代。

明治後期なら東武鉄道で行くのが普通であった(今でもですね)埼玉県の川越、江戸の頃は浅草の花川戸から船で川をさかのぼっていくのがふつう。陸路を行くよりよっぽど楽で、気安く往来していたらしい。川越では「新河岸」というところに降りたとか。新河岸、友達が住んでる。

江戸末期でも「隠れキリシタン」はしっかり隠れて信仰を守っていた。

江戸時代でも猫の多頭飼いをする人がいて、隣近所から苦情が殺到してしまう。
今も変わらないのですね。



半七捕物帳については、江戸の風物がリアルでそこに味わいが深いとよく言われる。
本当にそうだ。それにプラス、この地の文の設定である明治のことも触れられていて、平成に読む自分は100なん十年の時間旅行をしているような気持ちになる。神田、浅草、両国、川越、熊谷、栗橋、花川戸、押上、などなど地名は良くなじんでいるのだから。

「旅絵師」は特に面白かった。
舞台が東北で、半七も出てこない番外編みたいな話だけど。
奥女中はホームズで言うところの「ぶな屋敷」。
松茸は熊谷の話だけど、ホームズで言えば、さしずめアメリカ大陸。江戸時代なら熊谷あたりでも十分通用したわけですね。



半七捕物帳

2016年05月10日 |   └─半七捕物帳
今回の帰省で、父と話をしているときに「お前は半七捕り物帳を読んだことがあるか?」という話になった。
名前は聞いたことがあるけれど読んだことはないというと、「実は半七は日本のシャーロックホームズなのだ」という。

え?どういうこと?

「青空文庫にあるけん、読んでみるたい。」
と言われ、さらに「お父さんも以前全部青空文庫のをプリントアウトして読んだ。それが残っとるかもしれん」とごそごそ探して、「津の国屋」という一篇をプリントアウトしたものを渡してくれた。



帰りの飛行機で読んだ。
幽霊が出てくる怪談風味のおはなし。
コワイの苦手だよ~と思いつつも、語り口が非常にスッキリ読みやすく、テンポも良くて、どんどん先へ読み進めさせる。結局、熊本から東京までの機内で読み終わった。


感想、ものすごく面白かった!


大正時代に書かれたらしいが、今の小説と感覚的には全く違いがない。
古さを感じないというのは、人間の普遍的なものを描いているということか?
文章が分かり易くシンプルなところはコナンドイルにも通じると思う。
必要なことだけすっきり書いてて、前へすすんで行くと、いつの間にか読者は物語にどっぷりつかっている。そんな文章、憧れるなぁ。


ちょっと調べてみると、作者の岡本綺堂は明治5年の生まれで、漢文や英語を能くし、新歌舞伎なども評判だったらしい。ある時シャーロックホームズを原語で読んで感銘を受け、探偵小説を江戸を舞台に書いてみようと思ったそうだ。そして誕生したのが「半七捕り物帳」シリーズ。コナンドイルのホームズものと同様、60数篇があり、「日本の探偵小説の嚆矢」とされているとか。


早速、帰宅してから青空文庫で第一作目の「お文の魂」を読んだ。
これも幽霊の話で怪談風味、しかも前半半七が全然出てこない・・・・でも、最後まで読むと納得の面白さだったのでした。半七があんまり活躍しないで事件が解決するところなんか、すごくホームズっぽい。探偵の謎解きより、出来事の面白さ、奇怪さ、に心奪われていくのがホームズ風。



わ~い、これからちょっとずつ読もう。
江戸風俗の考証なんかもばっちりで、文体も読みやすく、シャーロック・ホームズときては、期待がいや増しますね。まだ読んだことのない話ばかり60編以上あるなんて、幸せすぎる!

父が紹介してくれる本には、時々大鉱脈があるなぁ。
子どもの頃のシャーロックホームズ、大人になってからの宮本常一、イザベラバード、そして今度は半七捕り物帳。

YOKOの好きなもの羅列

(順不同)地図、河岸段丘、保存樹木、宮本常一、縄文時代と日本の古代、文明開化と江戸時代、地方語、水曜どうでしょう、シャーロック・ホームズ、SHERLOCK(BBC)、陳昇、John Mellencamp、Kate Bush、イ・スンファン、カンサネ、1997年以前の香港映画、B級コメディー映画、SNL、The Blues Brothers、台湾、旅行の計画、イタリア、エステ、宮部みゆき、ショスタコーヴィチの交響曲5番、森川久美、のだめカンタービレ、くまモン
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