昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

言葉(8)半村良の女っぽいとは

2012-03-28 05:18:04 | 言葉
 正直言って、半村良氏のことはよく知らない。
 たまたま下記に取り上げる<女帖>しか読んでいないと思う。

 ウィキペディアで調べてみた。
 

 一時、<伝奇SF小説>と呼ばれるジャンルを開拓して活躍していたようだが、<雨やどり>という人情小説で直木賞を受賞している。
 連れ込み宿の番頭やキャバレーのバーテンなど30近い職業を転々としたという。
 女に向ける確かな目は、その頃養われたものであろう。

 以前、スリップの上へレインコートを着て、電車で出勤して来た若いホステスを見たことがある。梅雨のおわりの頃で、蒸し暑い雨の日であった。
 私はそれを大変カッコいいと思った。ワンピースは手に持った紙袋にいれてあり、店へ着くまでに汗ばんでしまうよりは、そのほうがずっと賢いと感じた。それにもまして、レインコートのしたはスケスケのスリップだけというのが色っぽく、人ごみをその格好で何食わぬ顔をして通り抜けて来た彼女に、少しばかり尊敬の念を抱いたりした。
 だが、それは男っぽいやり方であった。本当に女らしい場合は、そんなことはしないのではないだろうか。
 一生懸命に化粧して、あれこれ衣裳選びをした末にやっと着る物をきめ、着おわって靴をはいてしまってから、「あらいやだ、雨よ・・・」と眉をひそめてレインコートを着る。道を歩きだしてしばらくすると蒸し暑さに気づきはじめ、電車に揺られているうちに汗びっしょりになってしまう。
「どうしよう。汗でビショビショ・・・」
 店へ着いてレインコートを脱ぐとそんな悲鳴をあげ、汗を拭くやら乾かすやらの大騒ぎ。そんなときはたいてい仲間のホステスが一人二人面倒を見てくれて・・・と、そうなるのだ。
 
 (半村良<女帖>から)