昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

中欧旅行(7)

2009-11-11 04:56:22 | 中欧旅行
「あらっ!あいにくの雨ね。気にならない程度だけど・・・」
 アニカさんが空を見上げる。
 ついにパラパラと雨が降ってきた。
「一張羅のお洋服なので濡れると困るから、雨具を着させていただきます」
 彼女はバッグからび透明なビニールを取り出した。
「こんなもので恥ずかしいけど、雨よけにはなるわ・・・」
 
「さて、今日は<ドナウのバラ>と呼ばれるブダペストを観光していただきます」
 たいした降りではないようだ。
 アニカさんはビニールのキャップは落として頭を出している。
「ブダペストは、王宮のある丘のブダ地区と平坦なペスト地区からなります。ブタ、とか病気のペストとか日本の方には嫌な名前ですね」
 アニカさんの明るい、大らかな顔の眉間に皺が寄り、口がゆがんだ。
 
 

 ドナウ川を臨む丘に王宮がそそり立つ。
 13世紀に最初の王宮が建設されてから、波乱万丈のハンガリー歴史の中心舞台であり、数多の戦争で何度も破壊され、現在のものは1950年代に完成された。
 現在は図書館や美術館、歴史博物館として利用されている。

 

 ドナウの漁師組合が守ったことから名づけられた<漁夫の砦>はブダペストの街並みを見下ろすベストポイントだが、今日はあいにくの<霧のブダペスト>だ。

 

 王宮の丘の長い石段を下って、マーチャーシュ教会に入る。
「ご入場を希望される方はおひとり1ユーロの入場料が必要です。これはステンドグラスが素晴らしいと言われるこの教会の修復費に使われます。私がまとめてお支払し、後で請求させていただきますのでよろしく・・・」
 ぼくらはぞろぞろと彼女に従って、全員入場した。

 

なるほど、ステンドグラスが素晴らしい。有名な画家の手で描かれた他のものとは異なる珍しいステンドグラスもある。
 まだ修復中の箇所もある。
 突然、荘厳な教会内がライトアップされまばゆく輝いた。
「みなさん! なぜ私たちが入場した途端ライトアップされたのでしょう?」
 アニカさんが大きな声を出した。
「真ん中に二人の紳士がいますね。あの方のためにライトアップされたのでしょうか。外へ出てから説明します」
 アニカさんがニヤニヤ笑っている。

「実はあのふたりは高貴な方でもなんでもありません。電気工でした。たまたま照明が故障したので修理をして、テストのため点灯したところだったのです。みなさん、運がよかったですね」
 アニカさんはみんなを見回してハッハと笑った。

 ─続く─


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