昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

なるほど!と思う日々(579)文明④ 20世紀の文明を代表するのは<汽車>!

2019-06-01 05:28:08 | なるほどと思う日々
 ・・・汽車の見えるところを現実世界という。汽車ほど20世紀の文明を代表するものはあるまい。
 
 何百という人間を同じ箱に詰めて轟と通る。情け容赦はない。詰めこまれた人間は皆同程度の速力で、同一の停車場へとまってそうして、同様に蒸気の恩沢に浴さねばならぬ。・・・

 
 夏目漱石は<草枕>の中で述べている。

 ・・・人は汽車へ乗ると云う。余は積み込まれると云う。人は汽車で行くと云う。余は運搬されると云う。汽車ほど個性を軽蔑したものはない。

 文明はあらゆる限りの手段をつくして、個性を発達せしめたる後、あらゆる限りの方法によって此の個性を踏み付け様とする。
 一人前何坪何合かの地面を与えて、此地面のうちでは寝るとも起きるとも勝手にせよと云うのが現代の文明である。
 
 同時に何坪何合の周囲に鉄柵を設けて、これよりさきへは一歩も出てはならぬぞと威嚇するのが、現代の文明である。
 
 何坪何合のうちで自由を壇にしたものが、此鉄柵外にも自由を壇にしたくなるのは自然の勢いである。
 憐れむべき文明の国民は日夜に此鉄柵に噛み付いて咆哮している。
 
 文明は個人に自由を与えて虎の如く猛からしめたる後、之を陥穽のうちに投げ込んで、天下の平和を維持しつつある。この平和は真の平和ではない。
 動物園の虎が見物人を睨めて、寝転んでいると同様な平和である。

 檻の鉄棒が一本でも抜けたら・・・世は滅茶ゝゝになる。第二の仏蘭西革命は此時に起こるであろう。・・・
 余は汽車の猛烈に、見界なく、凡ての人を貨物同様に心得て走る様を見る度に、客車のうちに閉じ籠められたる個人と、個人の個性に寸毫の注意をだに払はざる此鉄車と比較して──
 
 あぶない、あぶない。
  現代の文明は此あぶないで鼻を衝かれる位充満している。
 
 ・・・おさき真闇に盲動する汽車はあぶない標本のひとつである・・・

 錦織圭が、全仏オープンで死闘を制してランク16に進出した。