昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

三鷹通信(181)第23回読書ミーティング(3)

2017-04-11 04:36:42 | 三鷹通信
 次にボクの推薦作、藤沢周平「逆軍の旗」
 全国をほぼ統一しかけた織田信長が、本能寺で部下明智光秀に討たれて亡くなるという歴史上の大事件を、時代小説の巨人である藤沢周平が描いた名品である。
 ちなみに史実に基づいているものが<歴史小説>であるが、どちらかというと架空の人物を創出して江戸時代の市井の人々や武士を扱い、無名で、清貧な人々の愛情や正義感を扱う<時代小説>の名手藤沢周平の手にかかると、こうした作品になるのかと痛く感銘した作品だ。
 戦国時代、天下統一を目指した戦略家<織田信長>と<豊臣秀吉>の狭間にあって、歴史上の巨人織田信長を討ち滅ぼした明智光秀の<本能寺の変>は歴史的な大事件であった。
 しかし、藤沢周平は明智光秀を信長を倒して天下人になろうとした歴史上の戦略家としては捉えていない。
 得難いチャンスを与えられた頭脳明晰なエリートが、いわば咄嗟の<気まぐれ>で引き起こした事件として捉えている。
 それを<時代小説>の名手は、人間的な懊悩する感情が介在するドラマとして筋立てた。
 その背景には主君織田信長の政治に対する無謀な手法に対する反発、屈折した個人的な感情が絡んでいる。
 先ず、比叡山延暦寺に見られるような残忍な手口に違和感を覚える。       

 光秀を小賢しく、小生意気な小役人的な部下としてバカにする日頃の態度。 
 明智光秀の心の裡に潜むこれらの葛藤をベースに<本能寺の変>に至る経緯を、藤沢周平は、<連歌>という小道具を使って巧みに描く。
 
 ─続く─