自分の書いた本を愛読してくれる人がいることはうれしいことだ。私は酒と旅の本を5冊ほど書いているが、いずれも趣味の世界で、人に読んでもらうというより自分のために書いたような本が多い。それを大事にしてくれて、折に触れ愛読してくれていた人がいるとすれは、まさに冥利に尽きるものがある。
実は先夜、親戚筋に当たるH.K氏の訃報に接し通夜に駆けつけた。遠縁だが隣に住む義姉の関係者で親しく付き合った方だ。
通夜の席に駆けつけてみると、部屋の入口に「個人の遺品」が飾られていた。驚いたことに、その真ん中に私の著書『酒は風』が置かれてあった。奥様とご長男のお話によれば、「首藤さんのこの本は本箱の一番上の真ん中にいつも置かれていて、栞も立てられ常に愛読していました。だから遺品として並べさせていただいた」とのことだ。
この本は写真家の英伸三氏夫妻との共著で、すでに20年前に出版、私の最初の本として思い出深い。ちゃんとサインもして宛名書きまでしてあるが、贈呈した経緯や記憶も定かでない。しかしそんなに大事にしてくれたとは著者冥利に尽きる。
ひとしきり酒や本の話になったが、ご長男の「首藤さんが参列してくれるとは思ってもいなかったが、こんな話ができてうれしい」という言葉に頭が下がった。正に通夜の話題にふさわしい話となって、人の縁というものは、どんなに大事にしてもしすぎることはないと思った。