旅のプラズマ

これまで歩いてきた各地の、思い出深き街、懐かしき人々、心に残る言葉を書き綴る。その地の酒と食と人情に触れながら…。

年の瀬の一休止符 ・・・ 映画「コシ・ファン・トゥッテ」に酔う

2009-12-22 16:47:23 | 文化(音楽、絵画、映画)

      

 「モーツァルトは美しい」などと言うと、「今ごろ何を言っているのだ」と子馬鹿にされるのがオチだろう。しかし、「それにしても美しい、何でこんな調べが生まれるのか?」と改めて思った。

 1220日の日曜日などというのは、年末の最終戦になだれ込む最繁忙日で、やり残した会社の仕事の“持ち帰り残業日”であり、且つ、待ったなしの年賀状書きなど溜め込んだ私事を処理するために設定されたような日曜日だ。
 
私も朝からタップリ仕事をするつもりでいたところ、ワイフと娘が映画を見に行こうと言う。聞けば、オペラ「コシ・ファン・トゥッテ」の映画を恵比寿でやっていると言う。このくそ忙しい時に、あんな馬鹿げた話など見てられるか・・・、それより、あんな単純な話が映画などになるものか・・・などと思い、とても行く気は無かった。
 ところが、夥しい仕事は手のつけようもなく、頭は混乱して収拾がつかない。どうせ出来ないものは出来ないのだ! ここは混乱した頭を整理するためにオペラでも聞くか・・・モーツァルトでも聞きながら昼寝をするには映画館はうってつけだ・・・。こう割り切って急遽ついて行くことにしたのだ。

 ところがドッコイ・・・、休むつもりで行ったのであるが休止符どころか流れるような美しい調べ――ソロ、デュエット、合唱、ウィーンフィルの流麗な演奏が絶え間なく続き、その美しさにすっかり酔った。モーツァルトの四大オペラの中でも最も美しい曲だと言われているが、三時間半に及ぶ全編の全ての曲が美しいというのは驚嘆ものだ。グルベローヴァをはじめ主役の男女四人もさることながら、女中役のテレサ・ストラータス、話を進める老博士役のパオロ・モンタルソロ(バス)がよく、すべて文句なし。
 「それにしても、あんな中身の乏しいつまらない話に、どうしてこんな美しい曲を作ることが出来るのか? やはり天才かなあ・・・?」などとつぶやいていると、娘が
 「天才であることは間違いないが、モーツァルトはこのオペラで貴族に挑戦しているのだ。二人のバカ貴族娘に最高の美しい曲を歌わせて、貴族の低劣さを際立たせているのだ」
と言う。そういえば、モーツァルトの後半生は貴族との戦いであったと言われている。フランス革命後の民衆の高揚期に、モーツァルトは民衆の音楽を書こうとし、その対極で貴族の低劣さを題材にしつづけたのである。

 とんだ休止符であった。いや? これこそ価値ある休止符であったのかな。
                    


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