ライン下りの眼目の一つは両岸の山の中腹に点在する古城だ。中世ドイツの群雄割拠時代、各地に絶大な権力を持つ選帝侯とよばれた諸侯や大司教が築いた城跡だ。しかし今はほとんど廃墟であり、当日が曇天であったこともあり際立った印象は無かった。
むしろ、両岸に次々と現れるおとぎの国のような美しい街が心に残った。その中でもリューデスハイムの町が思い出深い。
私たちは街を散策し、お土産を買い、有名な「つぐみ横丁」で昼食をとった。どのレストランも生演奏をやっており、狭い横丁をぞろぞろ歩く人たちには、店から流れ出る音楽にあわせて、抱き合い踊りながら行く人もいた。
この街はライン流域でも屈指のワインの産地で、生来陽気な街らしく、次に機会があれば2~3泊したい街だと思った。
街の後背地はなだらかな丘陵地で、広大なブドウ畑となっている。そのブドウ畑が森に突き当たるとことろ、標高225メートルの「ニーダーヴァルトの丘」に、巨大な《女神ゲルマニア像》が立っている。この像は、普仏戦争に勝って、「ドイツ再統一の象徴として1877年から1883年にわたり、国民の寄付で建立されたもの。像高10.55メートルで、高さ25メートルもある石の台座には各種兵器をたずさえた兵士達に、領主、軍司令官、それに「ドイツ帝国の鍛冶屋」ビスマルクを従えた皇帝ウィルヘルム一世など、約200人の等身大の群像をブロンズレリーフであらわしている」(Rahmel-Verlag『ライン川』18頁)
原口隆行氏はその著『ドイツ・ライン川鉄道紀行』で、「普仏戦争は、一面でライン川をめぐる攻防でもあった。だからこそ、この女神はライン川のはるか彼方、フランスを睨み据えて堂々と立ち聳えているのだ。かつてのドイツ帝国を象徴するモニュメントである。」と書いている。(同著97頁)
私も、なんともドイツらしい像だと思った。ただ、そこから見下ろす広大なブドウ畑とリューデスハイムの街並み、その向こうを流れるライン川の眺めは、雄大で美しかった。