スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

直談判&原則論

2022-05-11 19:23:20 | 将棋トピック
 米長が棋士とコンピュータソフトが公開の場で対戦することを禁じた後,最初のイベントとして開催されたのが,当時の竜王であった渡辺明とコンピュータソフトとの対戦でした。2007年3月21日のことです。
 このときは渡辺が対局しましたが,米長は本当は佐藤康光をコンピュータソフトと対戦させたかったようです。佐藤は1秒に1憶3手読む,という異名があり,それはコンピュータが1秒に1億手を読むなら,ということとの対比です。つまりこうした異名を持つ佐藤がコンピュータソフトと対戦すれば,エンターテイメントとして盛り上がるだろうと米長は考えたのです。それで実際に佐藤にその打診をしました。
                                        
 打診を受けた佐藤には,プロ棋士,それもトップクラスの棋士とコンピュータソフトが対局をするということについて,米長が軽く考えているようにみえていたようです。そこで打診については断った上で,自分の考えを米長に対して一対一で詳しく説明しました。こうした事実があったということは,米長自身が後に明かしていることです。米長はこのときのことを,佐藤にこんこんと説教をされた,というようにいっていますが,米長というのは独特の表現をすることが多々あるので,これもそのうちのひとつだと解しておいた方がよいでしょう。ただ米長と佐藤がこの件に関して,それなりの時間をかけて一対一で話し合ったのは間違いない事実です。
 プロ棋士がコンピュータソフトと対戦することをイベントとして開催することについては,棋士の間でも一致した意見があったわけではなく,しかしこのイベントに関しては対局を断った佐藤の尽力によって,将棋連盟がまとまって盛り上げることになり,それが佐藤が棋士間での信頼を集める要因になったという話もありますが,これは事実であるのかどうか,僕には確かめようがありません。ただ,会長であった米長と直談判をしたのですから,佐藤のことを信頼に足る人物だとみなした棋士がいたとしてもおかしくありません。なのでこのときの一件は,後に佐藤が新会長に就任するにあたって,意外と大きな出来事であったという可能性は否定できないでしょう。

 僕が定義した良心の呵責conscientiae morsusの反対感情としての歓喜gaudiumは,自己満足acquiescentia in se ipsoと自己愛philautiaを分けて考えたとき,自己満足の一種であるなら推奨されますし,自己愛の一種であるなら推奨されません。ではどのような歓喜がこの場合の自己満足の一種となり,どのような歓喜がこの場合の自己愛の一種となってしまうのかを,もう少し具体的に検討してみます。
 他人の悲しみtristitiaと自分の悲しみを結びつけるような感情affectusは,スピノザの哲学では原則的には推奨されるのでした。それは,自分の悲しみの原因causaが他人の悲しみにある場合には,人間は自分の悲しみを除去あるいは減退させるために,その他人の悲しみを除去あるいは減少させるように行動するという現実的本性actualis essentiaを有しているからです。これと同じように,他人の喜びlaetitiaと自分の喜びとが結びついているような感情は,スピノザの哲学では原則的には推奨されることになります。人間の現実的本性は,悲しみを忌避しまた除去あるいは減少させるように人間を動かすのと同様に,喜びを希求しまた促進させるようにも人間を動かす本性であるからです。したがって,自分の喜びの原因が他人の喜びであると確知される限り,その人は自分の喜びをさらに増進するために,その他人の喜びを促進するように行動する現実的本性を有しています。これは,この事態だけでみれば,他人を喜ばせるように行動するということですから,敬虔なpius振る舞いであるということになります。よってこの種の感情,喜びのうち,他人の喜びが自身の喜びの原因,少なくとも主たる原因となっているような感情は,スピノザの哲学では原則的には推奨されます。そして,ここで考察している歓喜というのは,自分が他人に与えた,あるいは与えたであろう利益の観念ideaを原因として伴った喜びであり,この利益というのは感情としていうなら喜びにほかなりませんから,まさに他人の喜びが自分の喜びの原因となっているような感情なのです。なので原則的には,この種の歓喜というのはスピノザによって推奨されることになります。いい換えれば,この種の歓喜というのは,人と人とを融和させるような感情であることになります。
 ただこれは原則論で,例外もあり得ます。

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