スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

外見&混乱した観念の観念

2024-02-17 19:06:00 | 哲学
 オルデンブルクHeinrich Ordenburgはスピノザとの面会のためにレインスブルフRijnsburgを訪れる前に,スピノザがユダヤ教会から破門を宣告され,アムステルダムAmsterdamのユダヤ人共同体から追放されたユダヤ人であるという情報を知っていたという蓋然性がきわめて高いと僕は考えます。ただこれは僕の解釈ですし,何より蓋然性がきわめて高いというのはその可能性が0であったということを意味するわけではありませんから,そのことを知らずにオルデンブルクがスピノザに会った場合のことも一応は考察しておきましょう。
                                        
 面会した以上はスピノザは自身の身の上話もしたと解釈するのが妥当であって,それによってオルデンブルクはスピノザのそれまでの生い立ちを知ったという可能性が高いです。ただこれも可能性であって,オルデンブルクの役回りはスピノザの生い立ちを知ることではなかったのですから,そのことには何の関心ももたず,そのゆえにスピノザにはそのようなことを何も質問しなかったので,スピノザは質問されなかったことには何も答えなかったということもあり得ない話ではありません。ただ,会ったということ自体は事実なのですから,少なくともオルデンブルクはスピノザがユダヤ人であるということは知り得た筈です。というのは,ユダヤ人はユダヤ人に特有の外見をしているからで,それはスピノザをみたオルデンブルクには一目瞭然であったからです。
 このことは後にスピノザと面会したライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizの事例から明らかです。ライプニッツはスピノザがユダヤ人であったということ,そしてユダヤ人に特有の外見をしていたということを事細かにメモしています。いい換えればスピノザはそれくらいライプニッツが日常的に交際している人物たちとは異なった外見をしていたのであって,それはオルデンブルクにも同様であったのは間違いありません。
 なので少なくともスピノザがユダヤ人であるということをオルデンブルクは知っていたのです。その上で,書簡三十三ユダヤ人の帰還についてスピノザに質問したのです。

 さらにもうひとつ,注意しておきたいことがあります。現実的に存在する人間の精神mens humanaのうちにXの観念ideaがあるということが神Deusに帰せられるのと同じように,その人間の精神のうちにXの観念の観念idea ideaeがあるということも神に帰せられるということが,第二部定理二〇から帰結するのです。したがってこのことは,Xの観念がある人間の精神のうちにあるとき,その観念が十全な観念idea adaequataであろうと混乱した観念idea inadaequataであろうと同じように妥当します。これは,第二部定理一一系により,人間の精神というのは,神の無限知性 infiniti intellectus Deiの一部であって,観念が神の無限知性のうちにあるとみられる限りでは,第二部定理七系の意味によって十全な観念であるということから明らかだといえます。現実的に存在する人間の精神の本性essentiaを構成する限りで神のうちにXの観念があろうと,現実的に存在するある人間の本性を構成するとともにほかのものの観念を有する限りで神のうちにXの観念があろうと,神のうちではどちらも十全な観念であるからです。
 だから,Xの混乱した観念が現実的に存在するある人間,たとえばAの精神のうちにあるなら,Xの観念の観念もAの精神のうちにあるのです。するとこのことをもって,Aは自分の精神のうちにXの混乱した観念があるということを知ることができるということになりそうですが,これはそれ自体では成立しないのです。なぜかというと,Xの観念の観念は,Xの観念が神に帰せられるのと同じように神に帰せられるのですから,それ自体が混乱した観念であるからです。他面からいえば,Xの観念が,Aの精神の本性を構成するとともにほかのものの観念を有する限りで神に帰せられるのと同じように,Xの観念の観念は,Aの精神の観念の本性を構成するとともにほかのものの観念の観念を有する限りで神に帰することができるからです。したがってAは,自分の精神のうちにXの観念があるということは知ることができるのですが,その観念が十全な観念であるか混乱した観念であるかということは,このこと自体では知ることができません。いい換えればAは,Xが十全な観念であるか混乱した観念であるかを疑うということになるといえるでしょう。

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