スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

歓喜と落胆&多と集合論

2020-05-08 18:55:37 | 哲学
 もしも派生感情個別の派生感情として考えた場合には,歓喜gaudiumと落胆conscientiae morsusは,安堵securitasと絶望desperatioの派生感情でもあり得ます。より正確にいえば,歓喜は絶望の派生感情であり得ますし,落胆は安堵の派生感情でもあり得るのです。
                                   
 もちろんどちらの場合であれ,それらの歓喜ないしは落胆が発生するためには,前もってそのことについての希望と不安がそれを感じる人間のうちにあるのでなければなりません。もっともこのことは,ある人間のうちに安堵が生じる場合も絶望が生じる場合も,前もってそれに対する希望spesと不安metusがその同じ人間のうちにあるのでなければならないと僕が考えているということから当然だといえます。そしてこのことは,安堵,絶望,歓喜,落胆のすべての感情affectusに一般的に妥当します。一般的に妥当するということは個別にも妥当するということですから,僕たちがこれらの感情に刺激されるafficiとき,不安と希望が直接的な起成原因causa efficiensとなって安堵を感じたり絶望を感じたりすることもあれば,歓喜を感じたり絶望を感じたりする場合もあるのです。僕はこの点までは畠中の見解opinioに同意します。
 しかし,安堵と絶望は個別的な場合でも希望と不安が直接的な原因であるのに対し,歓喜と落胆の場合はそうとはいえません。希望と不安から歓喜や落胆が個別的に生じる場合もあるのですが,希望と不安からまず安堵を感じ,さらにこの安堵が原因となって落胆が生じるという場合がありますし,逆に希望と不安から絶望が生じ,この絶望が原因となって歓喜が生じるという場合もあるのです。このゆえに僕は,希望と不安から生じる喜びlaetitiaが安堵で,悲しみtristitiaが絶望であると解します。これらの感情に関係する畠中説の不都合は,単にスピノザがこれらの感情をどのように記述しているのかという点だけにあるのではありません。というよりも,このような個別の事情があり得るから,スピノザは安堵と絶望を同じように記述し,歓喜と落胆はそれとは別の仕方で同じように記述したのではないでしょうか。

 空というのは当然ながら実在的なものではありません。これは哲学的に考えれば当然のことですし,数学でもおそらくそうなのでしょう。したがって,多が空でなければならないのであれば,それは実在的なものだけを対象とするわけではありません。むしろ非実在的なものを対象とする必要があります。バディウAlain Badiouは数学は存在論であるといっているわけですから,その存在論というのは,実は非実在的なものを対象とした,少なくとも非実在的なものを対象として含む存在論でなければならないのです。よって,存在するものだけを対象とするような存在論いい換えれば数学は,バディウが求めている数学ではありませんし,バディウが求めている存在論ではないのです。
 このためには,非実在的なものを対象として思考することができるような方法があるのでなければなりません。そしてバディウはその方法として,公理論的方法を示しています。なぜなら公理論的方法は,実在的な対象を事前には要請しないからです。このことは『エチカ』で考えても理解することができます。『エチカ』の方法は明らかに公理論的方法であるといえます。そのとき,たとえば第一部定義三は,実体substantiaが実在的realiterであるということを前もって要請しているわけではなく,それ自身のうちにあり,それ自身によって概念されるもののことを実体というということだけを示しているからです。
 これでみれば分かるように,バディウは公理論的方法を否定しているわけではありません。『主体の論理・概念の倫理』を考察したときには,あたかもバディウは集合論を数学と認め,公理論を数学とは認めないというように僕は認識していたのですが,それは誤りです。バディウが認めないのは公理論一般ではなく,公理論の中でもスピノザのような方法,方法としていえば幾何学的方法といわれる方法についてのようです。しかしこのことについてはあとでまとめて考察します。
 数学において多を扱う形式学は集合論であるというのがバディウの最後の主張です。したがって数学はあるいは存在論は,公理論的集合論でなければなりません。これがバディウの主張についての近藤の集約の概要になります。
コメント
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