スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

「無神論者」は宗教を肯定できるか&第二部自然学②補助定理七備考の意味

2014-08-18 19:18:17 | 哲学
 『スピノザの世界』は,上野修によるスピノザの哲学の概説です。上野にはこれと対になるような著作があります。それが『スピノザ 「無神論者」は宗教を肯定できるか』です。
                         
 なぜ対になるといえるのか。それは一方が哲学の入門書であるのに対して,こちらは神学や政治学の入門書となっているからです。これはNHK出版の哲学のエッセンスというシリーズの中の一冊。あとがきで上野が書いているところによれば,執筆の依頼があったとき,いささかの躊躇があったそうです。それはまさにその時期に『スピノザの世界』の執筆中であったから。立て続けにスピノザの入門書を書くというのは無謀であるように思えたとのこと。ちなみに『スピノザの世界』のあとがきの日付は2005年3月で,発行は翌月。こちらのあとがきの日付は2006年6月になっていて,発行は翌月です。
 僕は哲学に特化してスピノザを考えています。ですからこの著作に関しては,内容を評価することは差し控えます。ただ,スピノザ自身の関心をいうなら,むしろ政治論や宗教論の方に重きがあったとは思います。ただそれは,哲学的に解明されなければならないことです。ですから僕は,哲学というものが,スピノザが自己の関心を充足させるための手段のようなものであったとは少しも考えません。むしろスピノザが自身の哲学に則して政治論なり宗教論なりを考えていくことによって出した結論が,少なくとも同時代においてはスキャンダラスだとみなされてしまうようなものとなったというのが正しいでしょう。そしてそれは,現代の僕たちにとっても,画期的といっていいような要素を含んでいると思います。とりわけ宗教論に関するスピノザの方法論は,後の神学に対して大きな影響を与えるものであったことは間違いありません。
 上野自身,躊躇したけれども書いてよかったという主旨のことをいっています。それは当然で,スピノザの哲学に関する入門書を書けば,宗教に触れるのはほぼ無理だからです。スピノザは普遍の正義など認めません。また第四部定理五〇は,憐憫を悪とみなします。スピノザ入門という意味では,2冊でセットだといえるでしょう。

 第二部自然学②補助定理七備考のうち,存在するどんな物体も,ほかの物体と協同して,より複雑な物体を構成するということを暗に示唆している部分は,どのように解しておけば調整できるでしょうか。
 僕の考えでは,この部分は,物体というのは複合していけばいくほど,つまりその複合の度合いが高まれば高まるほど,その物体の内部で何らかの延長作用が生じたとしても,その本性ならびに形相を維持していく確率が高くなるということを意味しています。このこと自体は当然のことです。たとえばAとBから構成されているCと,そのCとDによって構成されているEを比べたとき,Eの内部の方がより多くの延長作用が生じます。その延長作用のうちあるものは,たとえば第二部自然学②補助定理七に示されるような延長作用の筈です。ですから多くの物体によって諸部分を構成されればされるほど,その本性と形相には変化が生じないようなより多くの延長作用が,その物体の内部では生じ得ることになるからです。
 意味上の切断は,この部分と,間接無限様態の内部で何が生じても,その本性と形相が維持されるという部分との間にあると考えておくのが最適です。すなわち,スピノザは物体の複合が無限に進むと延長の属性の間接無限様態になると解釈できるようなテクストを残していますが,この無限に進むというところに,ある飛躍が潜んでいるといえないでしょうか。知性は,物体の複合の度合いが高まるほど,その物体の内部で,その物体の本性と形相を維持するような延長作用が,その物体の内部で生じ得るということを,僕が示したような仕方で十全に認識します。このことから,延長の属性の間接無限様態の内部では,物体がどのような延長作用をしようとも,間接無限様態自体の本性と形相には何の変化も生じないということを,知性は類推するとか,結論付けるというような意味が,このテクストにはあるのだと僕は考えます。第二部定理四〇から,この結論は十全な観念でしょう。しかし同時に知性は,物体をどんなに複合していっても,それは間接無限様態ではないということも,十全に認識することが可能です。
 このことが,あらゆる属性の間接無限様態と個物res singularisの間に成立すると僕は考えます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする