晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「捜索者」(57・米) 75点

2013-06-30 07:53:12 | 外国映画 1946~59

  ・巨匠J・フォードによる西部劇の集大成。

  

 「駅馬車」(39)、「荒野の決闘」(46)、「赤い河」(48)など西部劇で名作を送り続けている巨匠・ジョン・フォード監督作品で、その集大成ともいえる。主演は名コンビのジョン・ウェイン。いつもの深い愛情を正義感で発揮するリーダーという役柄ではなく、弟一家を襲ったコマンチ族への異様な執念で復讐鬼と化した悲劇のガンマンを演じている。

 ファースト・シーンが素晴らしい。雄大なモニュメント・バレーの風景をバックにマックス・スタイナーの壮大な音楽に乗って馬上の主人公イーサンが現れる。フレームに納まった<一幅の絵>のようだ。弟一家とは何年も会っていないようで大歓迎されるが、チェロキーとの混血マーティン(ジェフリー・ハンター)が同居しているのを知って好感を持たない。

 人種的偏見を露わにして独善的な価値観で目的に邁進する主人公をM・スコセッシ監督は「タクシー・ドライバー」(76)の主人公に重ね合わせたという。
 イーサンはインディアンの食料となるという理由でバッファローを銃殺したり、6年も追いかけていた姪のデビー(ナタリー・ウッド)がコマンチ族に染まってしまったのを知り銃を向けたりする。いままでの役柄とはハッキリ違うアンチ・ヒーローぶり。黒い帽子がその象徴でもある。

 全体としては暗いストーリー展開であるにも関わらず、随所にユーモアを散りばめて、若いマーティンとローリー(ヴェラ・マイルズ)の恋の行方などもアクセントに織り込んでいる。残虐な殺戮シーンや死体も映像化されていないのも特長のひとつ。J・フォードはあくまでも<家族の一員になれなかった一匹狼・イーサンの悲劇>に焦点を当てている。

 美しい・厳しい砂漠・雪の風景、バッファーローの群れ、騎兵隊、カントリーミュージックとダンス、インディアンの白人女性誘拐、馬での追跡、銃撃戦を全て取り入れ流れ者のガンマンを浮き彫りにするための舞台設定だ。映像化したマックス・スタイナーはワイドスクリーンとカラーを充分意識した監督の期待に応え、光と影・遠近のカットなどを駆使、エンディングの素晴らしさも特筆される。

 スコセッシを始め、スピルバーグ、<20世紀を代表する作品といった>ゴダールなどプロ達から評価が高いのに反し、オスカーにはノミネートすらされなかった本作。主人公がハリウッド好みのヒーローではなかったからだろう。筆者もゴダールほどこの作品がいいとは思えなかった。


「最後の忠臣蔵」(10・日) 80点

2013-06-29 07:47:35 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

  ・グローバル・スタンダード?な時代劇。


  

 池宮彰一郎の「四十七人の浪士」をもとに、田中陽造・脚本、杉田成道・監督、長沼六男・撮影の強力トリオによる映画化。製作・配給がワーナーブラザースで初のローカル・プロダクション第一作。

 20人のスタッフが脚本内容について関わるというハリウッド方式を取り入れているので、グローバル・スタンダードな時代劇と言っていい。といってもアメリカ人の解釈による忠臣蔵ではない。むしろ現代の日本人ですら理解しづらい「武士としてのプライドである忠義を貫く頑なな男の美学」を謳いあげている。

 もちろん世界共通のテーマである<親子の情愛><男の友情><秘めた恋>が四季折々の美しい日本の風景とともにバランス良く繰り広げられている。なかでも親子の交流が中心で、役所広司演じる大石家側用人・妹尾孫左衛門が、内蔵助の隠し子・可音(桜庭ななみ)を親代わりとなって嫁がせるまでの艱難辛苦ぶりが涙を誘う。ただ、叶わぬ恋を表現するために人形浄瑠璃「曽根崎心中」を多用して2人の内面をリンクさせる手法には多少無理があった。

 杉田監督が<日本のデ・ニーロとパチーノ>と呼ぶ、役所と原作の主人公・寺坂吉衛門に扮した佐藤浩市との殺陣も見どころのひとつ。さらに、原作にはない島原の花魁・夕霧太夫(安田道代)が一途な想いを孫左に寄せるシークエンスで物語に厚みを持たせ、時代劇らしくない2人のヤリトリがあって鮮烈な印象のエンディングへと繋がっている。

 エンディングは賛否両論あろうが、これがなくては<忠義を全うする武士を描いた正統派時代劇>ではなくなってしまう。ハリウッド方式ではエンディングにアンケートを取ったようだが、果して理解されたのだろうか?

「夜の道」(57・米) 65点

2013-06-28 06:14:55 | 外国映画 1946~59

  ・題材が揃った西部劇だが、美しいコロラドの風景が最大の見所だった。

  

 鉄道開発時代のコロラド、かつて鉄道員だったマクレーン(ジェームズ・スチュアート)。ホワイティ率いる強盗団に加わっていた弟ユチカ・キッド(オーディ・マーフィ)を逃がしたため、アコーディオンを手に歌って小銭を稼ぐ暮らしをしていた。たび重なる給料強奪事件に鉄道会社はマクレーンを輸送護衛に雇いいれる。

列車強盗、銃撃戦、美しい女性との恋、兄弟愛など西部劇に欠かせない題材がフンダンに揃った作品。おまけにJ・スチュアートの歌まで聴ける至れり尽くせりだが、肝心のシナリオに難点があったようで監督予定だったアンソニー・マンが降板、TVドラマ出身のジェームズ・ニールソンが映画初監督をしている。

 無難に纏めたという印象はあるが、J・スチュアートが兄弟愛と正義漢の狭間に悩む男を演じ孤軍奮闘した割に盛り上がりに欠けてしまった。アコーディオンは吹き替えだったが歌は本人の声で思ったより美声だった。弟役のオーディ・マーフィは小柄でどう見ても兄弟とは思えなかったのもイメージダウン。製作サイドは第2次大戦の英雄で人気絶頂だったO・マーフィをどうしても起用したかったのかも。ほかでは「シェーン」の少年ジョーイ役のブランドン・デ・ワイルドが同じ名前のジョーイで出演している。今回はキッドに憧れているが、これも無理な設定だった。

 大画面に映る紅葉の渓谷を縫うように走る列車が美しく、ディミトリ・ティオムキンの音楽も壮大で素晴らしかっただけに「ウィンチェスター’73」(50)以来4作続いたマン監督とのコンビでのJ・スチャートを観てみたかった。2人の仲を裂いてしまった作品でもある。
 
 
  

「レイジング・ブル」(80・米) 80点

2013-06-27 07:24:46 | (米国) 1980~99 
  ・<デ・ニーロ・アプローチ>を生んだ実在ボクサーの人間ドラマ。

  

 ボクシング・ミドル級チャンピオンで、<ブロンクスの猛牛>と呼ばれたジェイク・ラモックの自伝をもとに「タクシー・ドライバー」(76)の名コンビ、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演による男の哀歓を描いた人間ドラマ。デ・ニーロは現役ボクサー時代と引退後を一人で演じ、その体重差27kgの変貌ぶりを<デ・ニーロ・アプローチ>と呼ばれるほど。見事オスカーを射止めている。

 ボクシング映画の名画は、ロバート・ワイズ監督ポール・ニューマン主演のロッキー・グラシアノ自伝ドラマ「傷だらけの栄光」(56)があるがそれに匹敵する。ボクシングのクオリティの高さはかなりのハイレベルだが、<ロッキー>のようなエンタテインメント作品とは一線を画している。
 
 現役時代の波乱万丈ぶりもドラマチックだが、むしろ引退後ナイトクラブ経営・逮捕・クラブ司会出演と変遷を重ねる、その孤独な生きザマが本領発揮のところ。自らの猜疑心から妻ビッキー(キャシー・モリアーティ)や弟ジョーイ(ジョー・ペシ)への嫉妬心が募って凋落して行くサマは、哀れさが漂い破滅型人間そのもの。弟役のジョー・ペシの存在も、この手の映画には欠かせない。

 幸せなシーンのみカラー画面を使い、大部分白黒画面で展開される情景がこの作品の効果を一層際立たせている。

「秋のソナタ」(78・スウェーデン) 80点

2013-06-24 09:14:05 | 外国映画 1960~79

  ・母と娘の不条理さを冷徹に描いたベイルマン。



家族や親子の関係をいつも冷徹に描写するスウェーデンの巨匠・イングマール・ベイルマンが、リヴ・ウルマンとイングリッド・バーグマンを娘と母に据え、その不条理さを描いている。まるで大女優I・バーグマンの実生活(ロッセリーニ事件)を見せられたような錯覚に陥る彼女の遺作ともなった作品でもある。

 華やかな著名ピアニストである母シャルロッテ(I・バーグマン)と、7年振りに再会するエヴァ(L・ウルマン)は何処となくぎこちない。表面では再会を心から喜んで長期滞在するという母もよそよそしく、夫の牧師ヴィクトールも戸惑いを隠せない。エヴァは脳性マヒで寝たきりの妹ヘレナを引き取っていることを母に披露する。シャルロッテは一瞬嫌な顔を見せたが完璧な母を演じて見せた。


 序盤のハイライトは娘が弾いた拙いピアノ「ショパンのプレリュードNO2」。エヴァが幼いころピアノの練習に明け暮れた母は娘を部屋から追い出して放任したままだった。その娘が村の教会で弾いた曲なので、何らかの言葉が欲しかったのだ。母は知ってか知らずか自分で演奏しながら<始めは抑圧された苦悩、そして一瞬の安らぎ、しかし苦悩の世界に戻る>と曲のレッスンをしてしまう。破綻したまま戻ることのない、母娘関係の象徴だ。

 L・ウルマンは緊張感溢れる親子の関係から、ついに抑えきれずに爆発してしまう母への想いを全身で演じて魅せてバーグマンを圧倒している。流石ベイルマンの秘蔵っ子だ。たいするバーグマンは受け身に回りながらシッカリと受け止め、オスカー3回(主演2回、助演1回)受賞の貫録充分。最後は見事なうっちゃりを見せる。

 北欧の秋は、感傷的なモノ想いも許さないほど厳しいと感じさせる作品だった。

「トゥルー・グリット」(10・米) 85点

2013-06-23 10:04:34 | (米国) 2010~15

 ・意外にもオーソドックスなコーエン兄弟の西部劇。

  

 「ファーゴ」(96)「ノーカントリー」(07)で、アメリカの片田舎を切りとって独特の魅力あるドラマを手がけてきたコーエン兄弟。今回はその集大成では?と思える西部劇のリメイク。チャールズ・ポーティス原作ヘンリー・ハサウェイ監督作品の「勇気ある追跡」(69)がある。父を殺された14歳の娘を助けて犯人を追う酔いどれ連邦保安官を演じたジョンウェインが初のオスカーを獲得している。

 コーエン兄弟は保安官役にジェフ・ブリックスという適役を得て、このヒーローをとても人間臭く深みのある人物像として復活させている。14歳の少女マティを演じるのが、新人・ヘイリー・スタインフェルド。決して美少女ではないが、きっぱりとした立ち居振る舞いで大人顔負けの説得力と信念を持ちながら、あどけなさも抜けない。こんなヒロインはなかなか見つけられないのに、期待に応えた見事な演技だった。
 もうひとり、犯人を追ってテキサスからやってきたラビーフという若いテキサスレンジャーにマット・デイモンが扮している。いま油が乗っていて監督が最も使ってみたい俳優のひとり。ここでは脇に廻って絶妙なトライアングルだ。
 J・ブリックス、M・デイモンという2人のオスカー俳優。そして犯人役のジョシュ・ブローリン、そのリーダーのバリー・ペッパー、これら達者な大人たちを相手に一歩も引けを取らないインパクトある演技を魅せたH・スタインフェルに今後も期待したい。

 残忍な殺人シーンはあるもののシニカルな笑いを抑えたオーソドックスな展開は心地良い。画面からは大自然の厳しさ・美しさを感じ、土の臭いまでしてくるようなロジャー・ディーキンズのリアルな映像が素晴らしい。クライマックスで夜の荒野を疾走する馬のシーンが最も印象的。

 コーエン兄弟が本領を発揮したのは終盤で、単なる痛快西部劇では終わらせずに復讐の代償をこのような形で描いたのは、人間ドラマとして充分見応えがあった。
 

「タワーリング・インフェルノ」(74・米) 75点

2013-06-22 15:41:26 | 外国映画 1960~79
 

 ・ 70年代「パニック映画」の金字塔。

 ワーナー・ブラザースと20世紀フォックスが初めて共同製作した、超高層ビル火災を描いた70年代「パニック映画」大作。「ポセイドン・アドベンチャー」(72)の製作を手掛けたアーウィン・アレンが製作・アクション監督を務めている。

 サンフランシスコに138階建てのグラス・タワーが完成した落成式当日の出来事。81階備品室でボヤ火災が発生、電気系統の手抜き工事が原因だと判明し、設計者ロバーツ(ポール・ニューマン)はオーナーのダンカン(ウィリアム・ホールデン)に落成式を中止するよう進言する。
 135階で開催中の落成式はセレブ300人を招いて佳境に入ろうとしていたため、ボヤごときで騒ぎを起こすことを嫌ったダンカンは無視する。そのうち、保安室では非常時を察知する警告が・・・。
 駈けつけた消防隊も苦戦する中、隊長のオハラハン(スチーブ・マックイーン)は非常事態を覚悟する。

 題名は直訳すると「そびえ立つ地獄」となるそうだ。まさに超高層のビルが地獄絵図と化して行く。今でこそUAEの165階建てのビルがあるが、当時日本では霞が関(36階)、京王プラザホテル(47階)しかなく、この年新宿三井ビル(55階)が完成した頃で138階建てというだけで驚き。ここでの火災が起きたら恐怖感は想像に難くない。さまざまな人間ドラマを織り込みながら展開して行く。

 ロバーツと恋人スーザン(フェイ・ダナウェイ)、人を騙しきれない老詐欺師ハーリー(フレッド・アステア)と富豪の未亡人パティ(ジェニファー・ジョーンズ)、広報部長・ダン(ロバート・ワグナー)と秘書ローリーの恋の行方がどうなるのか?
 オーナーと娘パティ(スーザン・ブレークリー)、その夫ロジャー(リチャード・チェンバレン)の言動。市長夫妻・上院議員(ロバート・ボーン)など名士の非常時での対処に焦点を当てながら進む同時進行ドラマは<グランドホテル方式>とも呼ばれる群像劇でもある。そのなかではロジャーが悪役を一手に引き受け、良くも悪くも目立っていた。それ以外の人達は、後悔や恐怖感のなか現実を受け止める善意の人が殆どで、描き方が類型的なのが物足りない。

 本作はP・ニューマンとS・マックイーンの2大俳優の初共演でも話題になった。左下にニューマン、右上にマックイーンのタイトルは製作サイドの苦心の結果だが、日本では前半40分ほど出てこないマックイーンが主演だと思われている。それほど、不屈の精神で鎮火に当たる隊長役に男を感じたファンが多かった。P・ニューマンはもともと相手役を惹きたてながら自分を魅せる演技のヒト。その意味ではぴったりの役柄ともいえる。
 オールド・ファンには踊る大スターF・アステアのハートフルな詐欺師振りも嬉しい登場だし、アメフトの大スターO・J・シンプソンの保安係も意外性があった。F・ダナウェイ、J・ジョーンズの新旧大女優は添えモノながらその存在感は流石。

 何といっても見せ場は実写によるスペクタル場面。CGによる映像処理が開発されていない時代を感じさせる欠陥があるとはいえ、ミニチュアと巨大なセットで行われた特撮は大画面で音声付で観ると想像以上の迫力。再上映の機会があれば是非大画面で観ることをお勧めしたい。
 

「ニューヨークの王様」(57・英) 70点

2013-06-22 07:51:24 | 外国映画 1946~59

 ・米国への怒りと慕情が半ばしたチャップリン最後の自作自演作。

 

 傑作「ライムライト」(52)を最後に米国を追放されたチャップリン68歳の作品。

 欧州の小国エストロヴィア国王イゴール・シャドフ(C・チャップリン)は、革命のため国を追われ、自由の国アメリカへ亡命。出迎えたのは駐米大使(オリバー・ジョンストン)とマスコミだった。原子力を使ってユートピアを創るという夢を叶えようと原子力委員会と接触しようとする。ところが随行してきた首相(ジェリー・デズモンド)が証券を持ち逃げし、無一文になってしまう。国王が観たアメリカは、商業主義が蔓延し、騒がしいロック音楽や性転換や西部劇の撃ち合い映画がもてはやされる馴染めない国だった。


 チャップリンはその作風から、マッカーシーの非米活動委員会(通称:赤狩り)にマークされ、入国禁止令を受けている。英国で製作準備に入った彼が、<米国への怒りと反面慕情を込めた>本作を盛り込んだ半ばプライベート・フィルムの趣きがある。そのため、必ずあった<人間愛への想いが描かれず米国風刺に満ち満ちた作品>となってしまった。

 68歳にしてホテル浴室での覗き見などナンセンスなシーンで健在ぶりも垣間見せるが、「ハムレット」を演じたり、整形手術での顔の歪みや、キャビアの注文でのパントマイムなど動きの少ない技に終始している。

 チャップリンは「アメリカはともかく風刺に充分耐え得る強い国なのです。」とコメントしている。だが、両親が共産党員のルパートという10歳の秀才少年を登場させ、共産主義を説いて見せるシーンはチャップリンらしくない変化球を感じ、もっとストレートが欲しかった。ルパートを演じたのは実の息子マイケル・チャップリンである。国王がルパートへヨーロッパ行きを誘うのは、アメリカ人の感情を逆なでするだけだった。

 ハリウッドは72年チャップリンに名誉賞を授与したというのに、本作が米国で公開されたのはなんと19年後の76年だった。チャップリン・ファンとしては喜劇王最後の自作自演を懐かしむ作品と言えよう。

インポッシブル(12・スペイン、米) 75点

2013-06-16 12:52:06 |  (欧州・アジア他) 2010~15

 ・力がないと、単なる愛と感動の物語になってしまう。

 

 「永遠のこどもたち」(07)で実力のほどを示したスペインの若手J・A・バヨナ監督によるスマトラ沖地震(04)に遭遇した5人家族の実話をもとにした人間ドラマ。

 モデルになったのはスペインのマリア・ベロン一家でタイのリゾート地へクリスマス休暇にやってきて大惨事に遭遇した。ドラマはイギリス人?に変更されているが、一家の軌跡はビーチ・ボールの色が違う(黄色が赤)以外は全て真実という。

 幸せそうな一家の休暇が一変するのを承知で観ていると、最初から身体が硬くなって力が入ってしまう。10分間の津波のシーンを1年掛けて準備して、デジタル処理することなく実写で行ったことがリアルな臨場感を醸し出す。日本人にとっては東日本大震災とオーバーラップして辛いシーンではある。その3.11の直前日本で公開された「ヒア・アフター」を発生10日前に観たことを思い出す。あのシーンは俯瞰での映像だったが鮮烈過ぎた。上映中止もやむを得なかったが、映画そのものは震災後の心の苦悩を描いた好い作品だった。

 本作も一歩間違えると、単なる愛と感動の家族の絆を描いたお涙頂戴のドラマになりかねなかった。バヨナ監督と脚本のセルヒオ・G・サンチェスの視点は、自然の脅威に曝されながら人間の持つポジティブな心情への信頼。熱心な取材による一家が出会った言葉の通じない現地人や同じ被災者同士の思い遣りのエピソードは、歪曲されていないというのが信じられない。

 題名は次男が夜空を観ながら出会った老婆に「生きている星と、死んでいる星を見分けることはできるの?」と訊いたとき老婆(ジェラルディン・チャップリン)が言った「インポッシブル」と答えた由来による。「目をつぶって楽しいことを考えなさい。」という台詞が3回出てくるなど、祈りを込めたシーンが印象に残る。

 1か月間水槽の中での撮影に耐え、オスカーにノミネートされたナオミ・ワッツの頑張りと、ユアン・マクレガーの等身大の父親像がリアル感を醸し出していて好印象。そして3人の息子達、何より長男・ルーカスを演じたトム・ホランドの素直な演技に関心させられた。15歳のイギリス人バレエ・ダンサーで、映画初出演だがこれからも注目される若き演技派だ。

  <ここからネタバレ!>



 残念だったのは大手保険会社が一家を支えたのだというPRシーンが登場したこと。現地人を含め23万人の死者・行方不明を出した大災害から生き残った事実とこれから一家が背負った重さがもう少し出て欲しかった。現に彼らはそれを実行しようと頑張っているのだから。チャンスがあれば「ヒア・アフター」とセットで観ることをお勧めしたい。


 公開初日の日比谷はホボ満員の観客。あちこちですすり泣きが聴こえたが、たびたび携帯の画面をみる老人もいた。賛否両論の作品なのか?何年か経過して作品の評価が定着するのかもしれない。
 

 

「スリーデイズ」(11・米) 75点

2013-06-15 06:24:06 | (米国) 2010~15

 ・ドキドキ感がバージョン・アップ

 

 「クラッシュ」(06)以来話題作を送り続ける名脚本家でもあるポール・ハギスが、フランスでヒットした「すべて彼女のために」(10)をリメイク。普通の家族が極限の状況に追い込まれたときのドキドキ感をさらにバ-ジョンアップさせた133分。

 オリジナルと比較して、ハギス流がどう表現されたかが最大の興味だったが、サスペンスの度合いはこちらの方が断然上だろう。オリジナルを尊重しながら主人公の心の変化がどう行動に結びついたかにエネルギーを費やしたあまり、テンポの良さテンポの良さに欠けるきらいはあるが、妻が無罪かどうかが終盤まで分からない構成はスリリングだ。オリジナルではなかった、公園で出会ったシングルマザーとの交流が終盤で予想外の展開に繋がる作りは成程と思わせる。

 ハギスの拘りは場所の設定とキャスティングにあるが、場所はペンシルバニア州ピッツバーグ。労働者階級が多い街の景観や郡刑務所は橋・トンネルで区切られ警備がしやすく、ストーリーにぴったりだ。

 主人公を演じたラッセル・クロウは監督が熱望しただけあって、目だけで内面を表現し、無駄な台詞を要しない心の演技を見せている。中盤までは失敗をしながら懸命な普通の中年男が、後半銃を持ったり、カーチェイスをしたりアクション・スター風になってしまったのは残念!

 妻のエリザベス・ベンクスはか弱い女のイメージが強く、上司と激しく口論する女にはみえなかった。この役はオリジナルのダイアン・クルーガーに軍配を挙げたい。

 もっとも存在感があったのはリーアム・ニーソン。ワンシーンながら主人公に最も影響を与え、<脱獄するよりも逃げ続けることが困難>だという根本的な命題を示唆している。

 本作で主人公が万策尽きて取った行動は、オリジナルでは感じなかったモヤモヤが頭をよぎってしまった。丹念な人間描写に長けたハギスならではの弱点が見え隠れ。ハギスにはリメイクではなくオリジナルで勝負してもらいたい。