晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「かあちゃん」(01・日) 80点

2013-06-08 16:52:49 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・古典落語の雰囲気を映像化した市川崑の人情時代劇。

  

 山本周五郎の小説を愛妻・和田夏十が脚本化した人情時代劇。かつて’58年(昭和33年)に西山正輝監督、沢村貞子・林成年主演で映画化されたが、和田には不本意だったようで夫の監督で再映画化を企画していた。愛妻の死後18年を経て竹山洋の筆を入れ実現した。

 天保末期、江戸の貧乏長屋に住む5人の子供を持つ、おかつ(岸恵子)一家。けちんぼ家族と陰口を叩かれるには理由があった。金をこっそり貯めているのを小耳に挟んだ勇吉(原田龍二)は、夜中こっそり忍び込むが、針仕事をしていたおかつに見つかってしまう。

 市川監督は、古典落語の表現手法を映像化したようで、落語がもっている独特の雰囲気を人物描写やカット割りに取り入れている。台詞まわしも敢えて棒読みで感情表現もストレート。筆者が子供の頃から慣れ親しんでいたラジオから流れる古今亭志ん生の語り口を思わせる。

 色調は独自の銀残し(シルバー・カラー)で西岡善信の長屋のセット、五十畑幸勇のカメラは固定カメラで横一列の平面撮りや俯瞰撮影で江戸の貧乏長屋の情緒たっぷり。思わず嬉しくなるような映像のオンパレードだ。

 主演のおかつを演じたのが市川監督お気に入りの岸恵子。裏長屋のおかみさんとはオヨソ雰囲気が違うのに、なぜか一家を支える凛としたしっかり者で困っている人は放っておけない人情家を見事にこなしていたのは流石だ。この年の日本アカデミー賞主演女優賞を獲得している。
 勇吉を演じた原田龍二は、親に捨てられた孤児の割には品が良すぎるが、人情話にはもってこいのイイひとでキャスティングされたのだろう。
 日頃からキャスティングが演出の7割を占めるという市川監督。うじきつよしの長男・市太、大工の熊五郎・石倉三郎、大家の小沢昭一など成程と思わせる人選である。一家を誹謗中傷する四人組(中村梅雀・春風亭柳昇・コロッケ・江戸家子猫)などは絶妙のバランスで舞台や連続時代劇で何度も観てみたいと思わせるほど。
 さらに同心に音楽も担当した宇崎竜童、易者に常田富士男、源さんに尾藤イサオなど適役を配し万全の態勢だった。

 いまどきこんな善意の固まりのような人々は古典落語や講談・浪曲以外お目に掛かれそうもないが、晩年の市川監督が愛妻への鎮魂とともに、<人の善意ほど尊いものはない>という時代へのメッセージだったかもしれない。