晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「タワーリング・インフェルノ」(74・米) 75点

2013-06-22 15:41:26 | 外国映画 1960~79
 

 ・ 70年代「パニック映画」の金字塔。

 ワーナー・ブラザースと20世紀フォックスが初めて共同製作した、超高層ビル火災を描いた70年代「パニック映画」大作。「ポセイドン・アドベンチャー」(72)の製作を手掛けたアーウィン・アレンが製作・アクション監督を務めている。

 サンフランシスコに138階建てのグラス・タワーが完成した落成式当日の出来事。81階備品室でボヤ火災が発生、電気系統の手抜き工事が原因だと判明し、設計者ロバーツ(ポール・ニューマン)はオーナーのダンカン(ウィリアム・ホールデン)に落成式を中止するよう進言する。
 135階で開催中の落成式はセレブ300人を招いて佳境に入ろうとしていたため、ボヤごときで騒ぎを起こすことを嫌ったダンカンは無視する。そのうち、保安室では非常時を察知する警告が・・・。
 駈けつけた消防隊も苦戦する中、隊長のオハラハン(スチーブ・マックイーン)は非常事態を覚悟する。

 題名は直訳すると「そびえ立つ地獄」となるそうだ。まさに超高層のビルが地獄絵図と化して行く。今でこそUAEの165階建てのビルがあるが、当時日本では霞が関(36階)、京王プラザホテル(47階)しかなく、この年新宿三井ビル(55階)が完成した頃で138階建てというだけで驚き。ここでの火災が起きたら恐怖感は想像に難くない。さまざまな人間ドラマを織り込みながら展開して行く。

 ロバーツと恋人スーザン(フェイ・ダナウェイ)、人を騙しきれない老詐欺師ハーリー(フレッド・アステア)と富豪の未亡人パティ(ジェニファー・ジョーンズ)、広報部長・ダン(ロバート・ワグナー)と秘書ローリーの恋の行方がどうなるのか?
 オーナーと娘パティ(スーザン・ブレークリー)、その夫ロジャー(リチャード・チェンバレン)の言動。市長夫妻・上院議員(ロバート・ボーン)など名士の非常時での対処に焦点を当てながら進む同時進行ドラマは<グランドホテル方式>とも呼ばれる群像劇でもある。そのなかではロジャーが悪役を一手に引き受け、良くも悪くも目立っていた。それ以外の人達は、後悔や恐怖感のなか現実を受け止める善意の人が殆どで、描き方が類型的なのが物足りない。

 本作はP・ニューマンとS・マックイーンの2大俳優の初共演でも話題になった。左下にニューマン、右上にマックイーンのタイトルは製作サイドの苦心の結果だが、日本では前半40分ほど出てこないマックイーンが主演だと思われている。それほど、不屈の精神で鎮火に当たる隊長役に男を感じたファンが多かった。P・ニューマンはもともと相手役を惹きたてながら自分を魅せる演技のヒト。その意味ではぴったりの役柄ともいえる。
 オールド・ファンには踊る大スターF・アステアのハートフルな詐欺師振りも嬉しい登場だし、アメフトの大スターO・J・シンプソンの保安係も意外性があった。F・ダナウェイ、J・ジョーンズの新旧大女優は添えモノながらその存在感は流石。

 何といっても見せ場は実写によるスペクタル場面。CGによる映像処理が開発されていない時代を感じさせる欠陥があるとはいえ、ミニチュアと巨大なセットで行われた特撮は大画面で音声付で観ると想像以上の迫力。再上映の機会があれば是非大画面で観ることをお勧めしたい。
 

「ニューヨークの王様」(57・英) 70点

2013-06-22 07:51:24 | 外国映画 1946~59

 ・米国への怒りと慕情が半ばしたチャップリン最後の自作自演作。

 

 傑作「ライムライト」(52)を最後に米国を追放されたチャップリン68歳の作品。

 欧州の小国エストロヴィア国王イゴール・シャドフ(C・チャップリン)は、革命のため国を追われ、自由の国アメリカへ亡命。出迎えたのは駐米大使(オリバー・ジョンストン)とマスコミだった。原子力を使ってユートピアを創るという夢を叶えようと原子力委員会と接触しようとする。ところが随行してきた首相(ジェリー・デズモンド)が証券を持ち逃げし、無一文になってしまう。国王が観たアメリカは、商業主義が蔓延し、騒がしいロック音楽や性転換や西部劇の撃ち合い映画がもてはやされる馴染めない国だった。


 チャップリンはその作風から、マッカーシーの非米活動委員会(通称:赤狩り)にマークされ、入国禁止令を受けている。英国で製作準備に入った彼が、<米国への怒りと反面慕情を込めた>本作を盛り込んだ半ばプライベート・フィルムの趣きがある。そのため、必ずあった<人間愛への想いが描かれず米国風刺に満ち満ちた作品>となってしまった。

 68歳にしてホテル浴室での覗き見などナンセンスなシーンで健在ぶりも垣間見せるが、「ハムレット」を演じたり、整形手術での顔の歪みや、キャビアの注文でのパントマイムなど動きの少ない技に終始している。

 チャップリンは「アメリカはともかく風刺に充分耐え得る強い国なのです。」とコメントしている。だが、両親が共産党員のルパートという10歳の秀才少年を登場させ、共産主義を説いて見せるシーンはチャップリンらしくない変化球を感じ、もっとストレートが欲しかった。ルパートを演じたのは実の息子マイケル・チャップリンである。国王がルパートへヨーロッパ行きを誘うのは、アメリカ人の感情を逆なでするだけだった。

 ハリウッドは72年チャップリンに名誉賞を授与したというのに、本作が米国で公開されたのはなんと19年後の76年だった。チャップリン・ファンとしては喜劇王最後の自作自演を懐かしむ作品と言えよう。