若者のすべて
1960年/イタリア
ヴィスコンティが最も愛したネオ・リアリズモの集大成
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 85点
音楽 80点
40年代イタリアでロッセリーニ、デ・シーカなどと並ぶネオ・リアリズモの代表的監督ルキノ・ヴィスコンティ。その集大成ともいわれる3時間弱の大作で彼が最も愛した作品といわれている。
今も名残りはあるが、50年代のイタリアは南北の地域格差が著しく、問題は深刻だった。南部のパジリーカ州から北の大都会・ミラノへ来たパロンディ一家。母と4人の息子たちはミラノ中央駅で長男が迎えに来ず不安げに佇んでいた。ジュゼッペ・ロトゥンノによる冒頭のモノクロ映像とニーノ・ロータの音楽が、大都会に翻弄されそうな一家を暗示するようだ。原題「ロッコと彼の兄弟たち」が示すとおり、3男ロッコと4兄弟特に次男シモーネ、愛人ナディアを巡る愛と葛藤を中心に家族の絆が揺らいで行くさまを克明に描いている。
都会の生活になじんで婚約者もいる長男は、旧来の田舎のように一家揃って暮らす生活はとても無理。母親の愛は4人の息子に注がれ、それだけに過干渉気味。次男シモーネはボクシングで一家を支えるが、娼婦ナディアを見染めすっかり都会の誘惑に負けてしまった。それでもかばい続けた盲目的な母親の愛はナディアへの憎悪に向けられる。
3男ロッコは聖人君子のように何でも受け入れるタイプ。好きでもないボクシングをやり、いちどは好きになったナディアもシモーネに譲ってしまう。犠牲を強いられたようでそれは欺瞞以外のなにものでもない。「太陽がいっぱい」で這い上がる若者の危うさを好演したA・ドロンの美青年ぶりがヒトキワ目立ち、尚更現実離れしていて4男のチーロに、「寛大で何でも許すが、現実の生活では生きてゆけない」といわせてしまう。ナディアとの別れの場所が大聖堂の屋上なのも一瞬メロドラマかと思わせるほど情感たっぷりな舞台なのに台詞の中身は何とも間逆なのが切ない。
気の毒なのは好きでもないシモーネを押しつけられたナディア。好きなロッコの眼の前で強姦され哀れな終焉が待っている。はすっぱで気まぐれ、幸せを願う想いは人一倍強い女をアニー・ジラルドは自在に演じてもっとも目立つ存在だ。シモーネを演じたレナート・サルバトーリと結婚し今年79歳で亡くなったが思い出深い女優だった。
ヴィスコンティ監督は5人の兄弟、ひとりひとりにタイトルをつけ、そのひととなりを丁寧に描いているため脚本も5人の共同作業となった。貴族出身のオペラ演出家である監督は、貧困層の過酷な現実にはかけ離れた存在でリアリズムには限界があったに違いない。そのため一家を通して普遍的なテーマ<人間の性や愛と欲望が交差する家族の絆>が壊れてゆくさまと再生への希望を描いたのだろう。
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