ツリー・オブ・ライフ
2011年/アメリカ
自然の摂理と人間の本質を哲学した映像美
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 70点
キャスト 85点
演出 75点
ビジュアル 85点
音楽 85点
自然と人間を映像美で探究した伝説の監督テレンス・マリックの5作目。カンヌ映画祭でR・デニーロが絶賛したパルムドール賞(最優秀作品)受賞作品で、ブラッド・ピット、ショーン・ペンの2大スター共演とくれば、期待せずにはいられない。
大学で哲学を教えていたマリックは、50年代テキサスのオブライエン一家の物語を借りながら宇宙の誕生・生命の起源を映像化して自然の摂理と人間の本質に迫ってくる。
冒頭オブライエン夫人(ジェシカ・チャスティン)が一通の電報を受け19歳の息子の死を知り、嘆き悲しみ夫(ブラット・ピット)へ電話するプロローグ。それから近代的な高層ビルを背景に想いを巡らせるショーン・ペンの姿へ。彼は40年後のオブライエン家の長男ジャックらしい。彼の回想は一家の幼少時代へ移るが、画面は受け継がれる命の連鎖を模索しながら宇宙や生命の起源を映像化してゆく。その映像はナショナル・ジオグラフィックのカメラマンが世界中の自然現象を撮ったものと最新のSFXを駆使した恐竜など、監督の哲学を映像化することに心血を注いだ贅沢さがうかがえる。オブライエン一家の父と息子が葛藤する物語を想像していた観客(筆者)を唖然とさせたその間30分。まるで<ディスカバリーCH>を大画面で観るようだ。
50年代のアメリカは理想の家庭像が明確にあったとき。父は強く一家を支え母は子供を優しく包み、子供たちは礼儀正しくのびのびと育つ。そんな理想を抱えながら実像は世俗にまみれ成功から脱落してゆく父。信仰に厚く神の恩寵を受けることで全てを受け入れる母。長男のジャックは父親似。母親似で音楽家を夢見た父とギター演奏する弟は可愛いが嫉妬の対象でもある。スメタナの<交響曲 我が祖国「モルダウ」>をバックに家の周りを遊ぶ3兄弟が幸せの絶頂だったのだ。
そんな一家の叙事詩をもっともらしく書いてみたがマリック監督は頭で理解させるのではなく映像・音楽・詩のような台詞を駆使して観客の心に訴えることを狙っているようだ。筆者にとって苦手な聖書の世界がフンダンに溢れている展開は正直ついてゆけなかった。
前の席で観終わった老人が「訳わが分からん。ああー疲れた」といったほど好き嫌いがハッキリしそう。カンヌで拍手喝さいとブーイングが交錯したのも頷ける。