未来を生きる君たちへ
2010年/デンマーク=スウェーデン
人間の本質に切り込んだS・ピア
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 85点
音楽 80点
「ある愛の風景」「アフター・ウェディング」「悲しみが乾くまで」と次々話題作を作り続けているデンマークの才女スザンヌ・ピアの最新作。原題は「復讐」英題が「より良い世界へ」で邦題が「未来へ...」であることがこの作品テーマを象徴している。アカデミー最優秀外国語映画賞受賞作らしく<家族愛と人類愛が交錯する人間の本質に切り込んだ>力作だ。
「ある愛の...」ではアフガニスタン、「アフター...」ではインドのスラム街を背景に、成熟した豊かな国デンマークと対比しながら<社会の矛盾に耐えながら生きることの大切さ>を表現したピア監督とアナス・トマス・イエンセンのシナリオ。今回はアフリカ難民を貧しさの象徴として取り上げ、成熟した社会の負の財産である家庭不和や苛め・人種偏見による暴力などを絡めながらデンマークの家族を対比させ、憎しみに満ちた世界にどう立ち向かうかを問いかけている。
アフリカ難民を救うスウェーデン医師・アントン(ミカエル・パーシュブラント)はデンマークの港町に住んでいる。妻の医師マリアン(トリーネ・ディアホルム)とは別居中だが、2人の息子、とくに兄のエリアス(マークス・リーゴード)からは慕われている。エリアスは学校でネズミ男とからかわれ苛めの対象となっているが我慢するしかすべがない。ロンドンから来た転校生クリスチャン(ヴィリアム・ユンク・ニールセン)はやられたらやり返す少年で、母を癌で亡くし最後まで介護しなかった父(ウルリク・トムセン)に不信感を募らせている。エリアスを苛めたリーダーをナイフで懲らしめたことがキッカケで2人は友達となる。
ある日公園で些細なことから子供の父親(キム・ボドゥニア)からイキナリ殴られたアントンは、子供たちに「バカな相手に報復することはバカな男のすることだ」と身をもって示そうとするがクリスチャンには納得がいかない。
アフリカの乾いた土と風の難民キャンプの風景とデンマークの緑と水の美しい情景が色鮮やかで別世界だがそこに住む人々の悩みの深さは同質だ。ビックマンと呼ばれる途方もない悪党に懲笑され思わず難民たちの報復を黙認したアントン。我が子には報復はエスカレートするばかりで歯止めが効かないことを諭す矛盾。負の連鎖を脱却できない社会を浮き彫りにして見せる。それでも親子のコミュニケーションの大切さと希望を持ち対処することの意味深さを訴えてくる。
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