晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「ディア・ドクター」(09・日) 80点

2013-06-11 07:51:29 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・心理描写をグレーゾーンで表した佳作。

 

 前作「ゆれる」(06)で一躍評判を呼んだ西川美和の長編2作目。直木賞候補に名乗りを挙げた「きのうの神様」を自身で脚色・監督している。

 人口1500人の神和田村は半数が高齢者。唯一の伊野医師が行方不明となって大騒ぎとなる。村人たちが神とも仏ともたよりにされていたのに、警察が捜査すると意外な事実が明らかになって行く。

 西川監督は四国で起きた<白タクの運転手が逮捕されて、老人たちが病院へ通えなくなったニュース>を知って僻地医療問題に関心を持ったという。若手女流という肩書抜きで最も期待されている監督のひとりだが、主人公・伊野に自身を投影しているという。置かれた環境でボールを打ち返しているうちに、周りの評価がドンドン高まって重荷になってしまうことらしい。
 本物と偽物、シロとクロの区別は一概にはいえないというグレーゾーンが大勢を占めている現実社会。徹底取材をもとにしたリアルなストーリーを背景に、人間の持つ可笑しさや愛おしさを的確に表現。心理描写をグレーゾーンで表した佳作である。

 キャスティングがとても絶妙。主演した笑福亭鶴瓶は、演技不足をTVで見せる人懐っこい笑顔を見事に活かし得体のしれない不思議な人物像を作り上げている。
 研修医役の瑛太は、今どきのボンボンで素直な若者を等身大で好演していて、2人のコンビネーションがドラマの核となっている。

 いつ観ても達者な看護師役・余貴美子、薬品会社の営業マン・香川照之が脇をしっかりと支え、ベテラン八千草薫(かづ子)と井川遥か(りつ子)の親子も後半のキーとなって澱みない。出番は少ないが村長・笹野高史、大病院の医師・中村勘三郎も印象に残る。

 撮影の柳島克己、照明の尾下栄治、編集の宮島竜治など一流スタッフが何気ない日常生活を切りとった映像はリアルな雰囲気を醸し出している。独り暮らしのかづ子の台所はセットとは思えないほど臨場感たっぷり。伊野と2人でTVの野球中継を見たり、カセットで古典落語(馬生の「親子酒」や志ん生の「たちきり」)を聴くシーンなどは、筆者が若い頃の体験と重なってしまう。
 若い人にはゆっくりした流れが物足りないと思うかもしれないが、何気ない会話でその<人となり>が巧みに織り込まれている。観客の想像を膨らませて行く手法は、この監督独特の特長であろう。

 主人公を愛するあまり?ラスト・シーンを書き加えたようだが、なくても良かったような気がする。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿