晴れ、ときどき映画三昧

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「オリヲン座からの招待」(07・日) 80点

2014-09-28 15:36:27 | 日本映画 2000~09(平成12~21)

 ・ 宮沢りえの女優魂と、台詞では表せない映像に惹かれる。

                    

 浅田次郎の短編をもとに三枝健起監督が映画化。宮沢りえ・加瀬亮主演による昭和のノスタルジー溢れる物語。

 良枝(樋口可南子)のもとに京都西陣にある映画館オリヲン座から閉館の知らせとともに記念映画上映の招待状が届く。別居中の夫・祐次(田口トモロヲ)を誘うが断られる。

 舞台は昭和32年、松蔵(宇崎竜童)・トヨ(宮沢りえ)夫婦で賄っている映画館オリヲン座へ。「二十四の瞳」と「君の名は」二本立てを上映中。着の身着の儘の留吉(加瀬亮)という青年が雇って欲しいと訪ねてくる。

 庶民の娯楽が映画だった昭和30年代は、TVの普及とともに衰退の一途を歩み始め、町の映画館は徐々に無くなって行く。

 そんな栄枯盛衰を経ながら昭和25年開館以来、半世紀以上あかりを灯し続けていた映画館には、映画のような男と女の純愛物語があった。

 その映画は太平洋戦争中の昭和18年('43)作られた「無法松の一生」。無学な人力車夫がお世話になった男の未亡人に秘かに想いを寄せる切ない物語。名優・阪東妻三郎の豪快な演技とともに、戦時中のためカットされた未亡人への告白シーンが話題となった。のちに稲垣浩監督は三船敏郎主演でリメイクしてヴェネチア国際映画祭・グランプリを獲得しているが、オリジナルは幻の名作と言われていた。

 松蔵は留吉にその話をして、いつか上映してみたいという。タバコと酒で急死した松蔵の遺言のように、映写技師としてオリヲン座を支えた留吉にはその映画が自分と重なっていたに違いない。

 筆者が育った時代は良枝と祐次より10年ほど前で「二十四の瞳」の上映時は10歳だったから、時代の空気は共有でき、まるでタイムスリップしたような感覚に浸れた気分。留吉が自転車でフィルムを運ぶシーンで上映していた大友柳太郎の「丹下左膳」(60)は16歳、映画館で観ていた。

 ちょうど「ALWAYS 三丁目の夕日」があらゆる層に受け入れられ昭和回顧ブームを起こしたこの年、同時期に公開されている本作。エンタテインメント性に欠け、時代を体験しなかった世代にはピンとこない内容で、興行的には完敗だったが筆者は遥かに本作のほうが好きだ。

 原作は祐次・良枝の物語が中心で何故オリヲン座が大切な存在かを想わせる流れだが、脚本(いながききよたか)は留吉・トヨにシフトしている。そのため流れに物足りなさやリアル感のなさを指摘するヒトも多い。日本版「ニューシネマ・パラダイス」の趣きだが、良くも悪くもそれ程のアクの強さはない。寧ろ淡々と進み感情に入り込めないという感想も。

 もっともではあるが、あの時代を体感したヒトにとって情感は充分伝わってくる。台詞では語りつくせない映像の美しさや魅力がある。なによりトヨを演じた宮沢りえがいい。儚さと情感溢れる若き未亡人役はまさに適役。夫を亡くしながら年下の男と一緒に暮らす不義理な女と噂されながら、傍にいたら誰でも命懸けで庇いたくなりそう。

 スキャンダルで話題を浚い、久しく銀幕には遠ざかっていて久々の登場だが、いまや女優としてはピカイチで吉永小百合を超えている。注文をつけるとすれば若い頃のようにふくよかさが欲しい。本作以降舞台に活躍の場を移していたが、この秋(11月)封切り予定の「紙の月」が楽しみだ。

 共演者もみんな好演している。相手役の加瀬亮は役柄がイメージどおり。ただ晩年の原田芳雄があまりにもガッチリとしていて、繋がりに欠けるきらいはあるがこれには目をつぶろう。トヨの晩年を演じた中原ひとみも風貌が正反対だったが、台詞が殆どなかったので善しとしよう。(無名でもイメージが合う女優でも良かった。)

 宇崎竜童、豊原功輔の2人が俳優としても立派に通用することを示し、子役の小清水一輝、工藤あかりもなかなか達者で原田芳雄も含め頑張っている。田口と樋口には見せ場がなかった原因は脚本なのか演出なのか・・・。

 留吉がホタルを見つける洛北・柊野、トヨが自転車を漕ぐ鴨川公園など印象的な京都の風景と、バックに流れる上原ひろみのテーマ曲・村松宗継のピアノ音楽が、さらにノスタルジックな気分に浸ることができた。
 
 

 


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