晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「おくりびと」(08・日) 85点

2014-02-27 16:49:16 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・ 日本の様式美と丁寧な作りで心温まる傑作となった。

 <納棺師>という、あまり馴染みのない職業を通して、人生を改めて考えさせられるという笑いと涙の感動物語。主演した本木雅弘のアイデアが発端で映画化された。<納棺師>という職業は{納棺夫日記」(青木新門・著)が参考になている。「壬生義士伝」「バッテリー」の滝田洋二監督、TV界の鬼才・小山薫堂の映画脚本によるオリジナル。米アカデミー賞外国語映画賞受賞作品。

 チェリストだった小林大伍(本木雅弘)は、妻・美香(広末涼子)を連れて故郷山形へ戻る。<旅のお手伝いをする>というNKエージェントの募集広告を見て応募すると社長の佐々木(山崎努)は即座に採用するが、<旅立ちのお手伝い>の誤植だったとあっさりと言われる。

 人に感謝される仕事であるが、誰にでもできる仕事ではない。この映画では妻に「けがらわしい」といわれ、同級生(杉本哲太)に「もうちょっとマシな仕事があるだろう」といわれたり、ヤンキー女子高生の場で、同席した暴走族に向かって「こんな仕事しかできなくなる」と名指しされたりする。

 声を大にして反論することなく、まるで茶道のように鮮やかな様式美で心を込めた死別のお手伝いのシーンが続く。一歩間違えればトンデモナイ作品になりかねないが、自ずとその偏見は一掃されて行く。
山形の冬から春への美しい風景と久石譲の音楽が心を癒してくれる。

 等身大の若者が特異な職業に触れドンドンのめり込み、大人に成長して行くサマを見事に演じ切った本木の俳優としての素晴らしさを改めて実感させられた。

 脇役陣も素晴らしい。とくに山崎努は独特のアクの強さを抑え、きめ細やかな演技で近年では最高の演技。吉行和子・余貴美子に囲まれ広末涼子が浮いているとの評価も多いが、<涙を強要するための愛と感動の物語>にしたくないためのキャスティングだったように思われる。うまくバランスが取れていた。

 蛇足ながらニューハーフの遺体役・白井小百合に敢闘賞を贈りたい。

 小山の脚本は「料理の鉄人」の放送作家らしく、命の大切さを伝えるための食べ物が随所に出てくる。生きているタコを怖がる美香や、ふぐの白子焼きを美味しそうに食べる佐々木が「困ったことに美味しいんだな、これが。」と言うシーンが印象的。

 丁寧でスキのない作りだが、後半親切すぎて想像力を掻き立てるところが無くなってしまったのがモッタイナイ。