・ 遺作となった黒木和雄の可笑しくて哀しい反戦ドラマ。
ATGの代表的監督・黒木和雄の戦争三部作に続いて、可笑しくて哀しい反戦ドラマ。残念ながら完成公開を待たずに遺作となってしまった。
黒木はPR映画出身で、筆者が42年勤めた会社のPR映画<「太陽の糸」(’63)>の監督でもあり個人的にも想い出深いヒト。
この作品は戯曲(松田正隆・作)の映画化のため登場人物も少なく、場所も病院の屋上と紙屋家が殆ど。音楽もエンドロールに流れるのみで、あとはSEを効果的に配した静かな展開。自ずと出演者の演技力が問われる作りである。
主演の紙屋悦子を演じた原田知世は、実年齢より20年も若い青春時代を違和感なく好演している。30年以上の老け役には無理があったが、アップを避けた映像で何とかカバーできている。
共演の永瀬正敏(永与少尉)は、朴訥な風貌が当時の軍人を彷彿とさせてチンピラ役イメージからの脱皮を果たしている。明石少尉役の松岡俊介とともに、礼儀正しく祖国のために命を投げ打つ一途な若者像は類型的ながら感動的。<おはぎ>でのお見合いは微笑ましく思わず笑ってしまう。
脇役ながら兄夫婦(小林薫・本上まなみ)の会話もクスクスと笑いを誘う。終戦間近の2週間に起きた5人のドラマが、哀しみを一層深く漂わせる。
監督自身、中学時代に起きた爆撃のトラウマをこんな形で昇華させたと思うと、とても感慨深いものがある。