晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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「飢餓海峡」(64・日) 85点

2014-02-10 12:04:00 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)
 

・ 時代を切り取った邦画の名作。

 水上勉原作を名匠・内田吐夢が監督、’46青函連絡船沈没がキッカケで起きた事件をもとにした人間ドラマ。我々世代には石川さゆりの歌謡曲として馴染み深いが、時代を切り取った邦画の名作である。

 北海道岩内で起きた大火の最中、函館へ向かう3人の男がいた。その中の髭面の大男・犬養多吉(三國連太郎)は、大湊の娼婦・杉戸八重(左幸子)と出逢う。函館のベテラン刑事・弓板(伴淳三郎)は、青函連絡船戦没死忘者で引き取り手のない2人に不信感を持つ。

 終戦直後の北海道で貧困と闘う2人の出逢いが、10年後の悲劇を誘う。

 監督の内田吐夢は、働き盛りのとき満州で映画製作に関わり、不遇な戦後を送った名監督と言われている。晩年の作品で記憶があるのは「宮本武蔵・5部作」と本作ぐらいだが、薄幸の女の性を描き続けた水上文学を昇華させ、人間ドラマに厚みを持たせたその力量に改めて感嘆させられた。原作にはないラスト・シーンに監督の「人間の深層心理を描く想い」を感じた。

 ヒロインの左幸子は、その直向きな愛を持ち続けた八重を好演。得てして体当たりのオーバーな演技となり易い役柄を、肩に力が入り過ぎない演技は内田演出の影響か?

 三國連太郎は、この時代の男を犬養と樽見という2人を通して、人間の表裏と弱さを見事に演じ魅せてくれた。

 そして、喜劇役者として名をなしていた伴淳三郎が、朴訥な人間刑事役で達者な演技でイブシ銀の光を放ち、大スター高倉健が終盤若き刑事役で出演しているのも見逃せない。