残月記 小山田雅久仁(著)2021年11月発行
三編いずれも、心がゾワッとさせられる不気味さが迫ってきて、
話の内容の理不尽さや恐怖や哀しさで胸が締め付けられるような感覚になる。
著者の作品を読むのは初めてだったし、全く作品の知識なく読み始めたので、
『そして月がふりかえる』でチョッと不安になり、『月影石』で後悔し始め、
それでも怖いもの&知らない世界みたさで『残月記』まで覗いてみたら、、、
「ああ、途中でやめないでよかった・・・」という感想。
ファンタジーの要素あり、凄くリアルな近未来の世界を描くSFのようでもあり、、、
個人的にあまり馴染みのない分野の小説ながらも、上手いと思ったし、
好き嫌いはあれど、なかなか興味深い世界観を描いている小説でした。
わがまま母
— 母の健忘症対策として、以下に書評を転記す —
「残月記」書評 非現実を地続きにする描写の力
物語の余韻がいつまでも消えてくれない。小田雅久仁の9年ぶりの新作は、
それだけ待った甲斐(かい)のある圧巻の中短編集だ。
収録されているのは月をモチーフにした3作品。
安定した生活を送る大学教授・大槻が、とある月の現象をきっかけにそれまでの世界から
突然はじき出されてしまう「そして月がふりかえる」。
自分がいないのに世界は変わらず存在するのを見せつけられた主人公の焦燥とその後の行動は
ホラーとしても犯罪小説としても読ませる。
「月景石」は不思議な石によって夢の中で月世界に誘われる澄香の物語。
現実と月、ふたつの世界を行き来するうち、月が現実を侵食していく。
ラストシーンは衝撃的なほどに鮮烈。
そして表題作は、独裁政権下にある近未来の日本が舞台だ。
〈月昂(げっこう)〉というウイルス性の感染症を発症した青年・宇野冬芽(とうが)の
生涯を描いた中編である。
発症が確認されると強制的に収容施設に入れられ、徹底した監視のもと隔離される。
そこで冬芽が目にしたのは、人権を奪われ、独裁者の娯楽のために命を消費されていく
〈月昂者〉たちの姿だった……。壮絶なディストピア小説だ。
着想の源は狼(おおかみ)男と古代ローマの剣闘士、そして中島敦の『山月記』だと
思われるが、特定疾病患者の迫害と差別、戦士に与えられる女性、独裁者と全体主義など、
人類の負の歴史のメタファが随所に登場するのが特徴。また本編は感動的な恋愛小説でもある。
どれも真面目に生きてきた主人公が非現実の中に放り込まれる。
残酷で救いのない世界を、著者は抜きんでた筆力で克明に描き出した。
その〈非現実のリアリティ〉が凄(すさ)まじい。非現実が現実を照射する。
次第にそのふたつが地続きであるような感覚に陥る。
それは歴史と未来が地続きであるのと似て見えた。
あなたは非現実の中に何を見るだろう。ファンタジーの醍醐(だいご)味である。必読。
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おだ・まさくに 1974年生まれ。作家。2009年に『増大派に告ぐ』で
日本ファンタジーノベル大賞を受賞。