ライオンのおやつ 小川糸(著)2019年10月発行
偶然なのだが、近頃読む小説が、いずれも涙なしには語れないものが続いている。
で、本書もまた涙なしには読めず、最後はタオルで顔を拭う羽目に。
主人公「雫」(しずく)は、人生これからという時期に、癌で余命宣告を受ける。
最期の時を穏やかに迎えようと、身辺を整理し都会を離れ、瀬戸内海の小島にある
ホスピス『ライオンの家』にやってくる。
ライオンの家の運営はとてもユニークで、美味しいものを食べ、好きなことをして
決して無理することなく過ごせる環境が整えられ、残された時間を自分らしく生きる
手助けをしてくれる施設。
そこでは、利用者たちが自らで選択し、日々できる限り心地よく穏やかに、
苦しむことのないように見守られながら、最期の時を待つ。
その施設のお楽しみの名物の一つが入居者一人一人が望む「おやつ」。
施設で手作りしてくれるおやつを、想い出とともに味わうひと時が表題となって
「ライオンのおやつ」。各々のおやつに込められた入居者の想いの由来が語られ、
みんなで、それらのおやつを味わう人生の大切なひと時は、涙を誘う。
「ライオンの家」の代表・マドンナや料理担当の姉妹、島の人々、そして景色、、、
それらの全てが穏やかで優しく、しみじみと味わい深い小説でした。
そして、さて、と我が身を省み、そろそろ身辺整理をせねばならないのかも、、、
などと、考えさせられもしたり、登場するスペシャルな“お粥”とは
いったいどんな味なのかしら? そんなに味わい深いお粥には、
まだ出会ったことないので興味が湧いてきたし、
現実に、「ライオンの家」のようなホスピスがあるのなら予約しておきたいものです。
わがまま母
— あらすじ(ポプラ社)—
男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫は病と闘っていたが、
ある日医師から余命を告げられる。
最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、
穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつを
リクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫は選べずにいた。
— 著者から—
母に癌が見つかったことで、わたしは数年ぶりに母と電話で話しました。
電話口で、「死ぬのが怖い」と怯える母に、わたしはこう言い放ちました。
「誰でも死ぬんだよ」けれど、世の中には、母のように、死を得体の知れない恐怖と
感じている人の方が、圧倒的に多いのかもしれません。母の死には間に合いませんでしたが、
読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、
と思い『ライオンのおやつ』を執筆しました。
おなかにも心にもとびきり優しい、お粥みたいな物語になっていたら嬉しいです。
![小川糸](https://www.poplar.co.jp/pr/oyatsu/img/messageSign.png)