満天のゴール 藤岡陽子(著) 2017年10月発行
著者が現役看護師でありつつ、その経歴がユニークだなあ、と興味を持って
今年3月に『きのうのオレンジ』を、今回はその3年前の作品を読んでみました。
本作も過酷な環境、厳しい現実に身をおき生きる人々の生活がリアルに描かれているのですが、
現実の苦しさ、キツさの中でも、自分らしく淡々と生きようとする人の心の在り方や、
そんな彼らの気持ちを尊重し支えようとする人の優しさが、じんわりと心に沁みてくる物語。
近年、とみに涙腺がゆるんでいるせいか、終盤は涙しながらも、
高齢者の一人として、改めて自らの死の捉え方、晩年の在り方を考えさせられました。
人の心の脆さ、強さ、弱さ、温かさ、、、さまざまな想いに共感することができ、
読後、清々しく温かな余韻に、とても穏やかな気持ちになれました。
わがまま母
出版社(小学館)の「あらすじ」など、転記しておきます。(母の健忘症対策のため)
- 奈緒(33歳)は、10歳になる涼介を連れて、二度と戻ることはないと思っていた故郷に逃げるように帰ってきた。長年連れ添ってきた夫の裏切りに遭い、行くあてもなく戻った故郷・京都の丹後地方は、過疎化が進みゴーストタウンとなっていた。
結婚式以来顔も見ていなかった父親耕平とは、母親を亡くして以来の確執があり、世話になる一方で素直になれない。そんな折、耕平が交通事故に遭い、地元の海生病院に入院。そこに勤務する医師・三上と出会う。また、偶然倒れていたところを助けることになった同じ集落の早川(72)という老婆とも知り合いとなる。
夫に棄てられワーキングマザーとなった奈緒は、昔免許をとったものの一度も就職したことのなかった看護師として海生病院で働き始め、三上の同僚となる。医療過疎地域で日々地域医療に奮闘する三上。なぜか彼には暗い孤独の影があった。
一方、同じ集落の隣人である早川は、人生をあきらめ、半ば死んだように生きていた。なんとか彼女を元気づけたい、と願う奈緒と涼介。その気持ちから、二人は早川の重大な秘密を知ることとなる。
隠されていた真相とは。そして、その結末は・・・・・・・。
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- 〈 編集者からのおすすめ情報 〉
- 著者の藤岡陽子さんは、長年看護師として働き、人の生と死を常に見つめ続けてきた方です。今回、この本の執筆にあたり、実際に京都の丹後地方で僻地医療に奮闘されている医師の方を取材し、物語に厚みとリアリティと熱が注入されました。
33歳、夫に棄てられ故郷に戻り、看護師として働き始める女性。その母親を一番近くで支える10歳の涼介。父親の入院をきっかけに出会った、孤独と寂しさを抱える35歳の医師。そして、人生をあきらめ、死を待っている72歳の女性。この4人が出会い、物語を動かしていきます。
誰もが心に傷を抱え、辛いことや悲しい思いを乗り越えて、生きていく。この物語は、それぞれの成長譚であると同時に、もっともっと根本的な、生きること、死にゆくことに思いを巡らせるきっかけを与えてくれます。人のすべて。人生のすべてを温かく、小さな小さな希望ととらえることができるようになる、そんな一冊です。