遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

なずな

2012年04月23日 14時01分41秒 | 読書

                なずな            堀江敏幸(著)2011年5月


   心がほっこリする小説でした。
   表題の『なずな』はヒロインの名前。
   「なずなちゃん」は生後二ヶ月の赤ちゃん。
   どうしようもない事情から、
   40歳代で独身一人暮らしの地方新聞の記者をしている「菱山」は
   弟夫婦の生後間もない赤ん坊の面倒をみることになる。

   小説は、慣れない育児に疲れた菱山がついうたた寝をしてしまい、
   アパートの部屋で電熱器にのせたやかんを空焚きし白煙が充満するという
   ボヤ騒ぎを起したことから始まる。
   その騒動の折にいち早く駆けつけたナースの友栄さんが
   「なずなちゃん」の健康状態を心配して発する台詞、
   「生後二ヶ月の子どもの肺なんてまっさらな消毒済みにガーゼより清潔なんだから
   どうせ汚すならいい汚れにしてやらないと」(7頁)
   これが、この小説のテーマかもしれない。
    汚れにいいも悪いもない、汚れは汚れであって、落とせるものは落とし、
   落とせないものはそのまま放っておくか捨てるかのどちらかでいい。
   としか考えてこなかった菱山は、いい汚れ、という言葉に心地よい驚きを感じ、
   「なずな」と暮らす日々のなかで、身近な人々と触れ合い、身近なところで
   起こる出来事を通じ、人生にそういう視点をもつことの意味に気付いていく。

   436頁と結構長めの小説なのだが、
   二ヶ月だった「なずな」が三ヶ月を過ぎるころまでの、ほんの数ヶ月の期間の話。
   特に事件が起こる訳でもなく、ひたすら「なずな」との二人の毎日と、
   地方の街にありがちなありふれた身の回りの出来事が丁寧に描かれている。
   だから退屈か、といえば決してそんなことはなく、次を読む楽しみは続く。
   といって、急いで一気に読むか、といえば、それはない。
   なんか不思議なのですが、とてもゆっくりなペースでのんびり読みました。
   一週間かけて毎日少しづつ、そんな感じです。
   そして読み進むごとに、自分も「なずなちゃん」を取り巻く一員のような気が
   してきて「なずなちゃん」の体調が気になるし、成長が楽しみになっていて、
   いつの間にか、真剣に彼女を見守っていることに気付かされます。

   それは、小説の中で「なずな」を見守る人々の目線がごく自然に描かれている
   せいなのでしょう。
   友栄さんの他にも、街のお医者さん「ジンゴロ先生」(友栄さんの父)や
   菱山に在宅勤務を許可する新聞社の社主「梅さん」
   スナック兼喫茶店《美津保》のママ、、、
   どこにでも居そうな、でもいい汚れ具合の人々が多く登場。
   《美津保》のママがササッと作るお料理も簡単で美味しそう。
   
   なんとも不思議な魅力の一冊です。

    わがまま母
   
   
   
コメント
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