遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

音もなく少女は

2011年08月25日 10時10分59秒 | 読書

        音もなく少女は      ボストン・テラン(著)2010年8月発行

  
   『神の銃弾』で2001年の「このミステリーがすごい!」一位になった作家
   による長編小説。
   とはいえ、個人的には特にミステリ好きな訳ではないので『神の銃弾』も
   その後の作品も読んではおらず、何の先入観もなしに読んだのが幸いした
   みたいです。
   表紙写真が「いかにも・・・」な感じで軽いのですが、内容はなかなかに
   ハードでした。
   これをミステリーというのかどうか私には判りませんが、
   ガッツリ読み応えがある小説ということは間違いなしです。
 
   ストーリーも登場人物もシンプルなのですが、ヒロインに関わる男達の弱さが
   絶望的に浮かび上がる反面、ヒロインを始めとする女達の苦難を乗り越えよう
   とする逞しさ、心の強さが光ります。

   話は、ヒロインの聾者「イブ」は信心深い母「クラリッサ」と、街のチンピラで
   麻薬売買などをする小悪人の「ロメイン」の次女として生まれる。
   母と娘が「ロメイン」の暴力と悪からいかにして逃れられるのか?
   というテーマが前半。
   そして、後半は「ミミ」という少女が加わり、「ミミ」にも「ロメイン」に
   似たろくでなしの父親「ロペス」がおり、彼女とその養い親を悩ませる。
   イブ母娘を助けるのが、街角でキャンディストアを営む「フラン」という
   辛く悲しい凄まじい過去を持つ女性で、ミミを救おうとするのが成長したイブ
   とフラン。
   簡単にいってしまえば、これだけのストーリー。
   今から30年以上前のニューヨーク、ブロンクス地区の絶望的に荒んだ環境を
   背景として、そんな場所にしか生きる場のない希望などもてぬ人々の生活が
   いかなるものか、巧みな描写にいやでも伝わってくる。
   なかでも秀逸なのは謎多き女性「フラン」で、徐々に謎が明かされていく
   のだが、その過去には思わず息を止めてしまいそうになる。
   痛みと闘うためアルコール依存になっているフランだが、その強さ、意思、
   信念は凄まじいものがある。
   
   迷うクラリッサやイブを支えるフランの言葉が印象に残った。
   
   ━
  世の中には測り知れない苦悩を抱えている人たちがいる。
  そんなことはあなたにもわかっていることは私にもわかっている。
  でも言わせて。人生というものは悲しみに耐えることよ。
  勇気とはその悲しみを克服することよ。

  人生は不毛ではないなんて、そんなことはたわごとよ。
  わたしたちはなんのために悪戦苦闘しているのか。それがあなたの質問なら、
  わたしの答は………次の一日のためよ。
  無味乾燥で血も涙もない(答だとあなたは思うかもしれない)?
  (でも)あなたは壊れたりしない。
  わたしがそれを許さない。さあ、目を覚ましてしゃんとして………。
  ━
   『次の一日のため・・・』  う~ん。
   人生に意味などない、ただ明日を生きるために生きるのだ。その勇気を持て!
   なんたる人生哲学、ニヒリズム。
   彼女「フラン」にそう言わしめた人生の過酷さが胸に迫る。
   悲しみ、理不尽な不運、不幸に甘んじることなく立ち向う、
   静かで熱い女たちの闘いのストーリーでした。
   淡々と描かれる女たちの言葉、行動に感動です。
   ミステリー好きではなくても小説好きにはお薦め。

    わがまま母

   
   
   
コメント
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