統ばる島 池上永一(著)2011年3月発行
八重山諸島の島々を舞台に夢幻と現実そして時空が交差する。
「素敵なひと時をありがとう!」という心境になる小説でした。
沖縄本島からさらに南にある八重山諸島というと、訪れたことのない者には
南の果ての島、青い海とサンゴ礁の南の楽園、というイメージだが、
この本を読むと、八つの島それぞれに独特の風土や伝統があり、
全く違った個性を持つ島々ということが理解できる。
本書では、「丈富島」「波照間島」「小浜島」「新城島」「西表島」「黒島」
「与那国島」「石垣島」と八つの島それぞれに八つ小説で描かれ構成されている。
「竹富島」は、伝統の祭りの舞台で踊る少年少女のドラマ。
「新城島」では、琉球王朝時代からのジュゴン伝説をモチーフにした悲恋。
「波照間島」では、日本最南端の波照間島に伝わるパイパティローマ(桃源郷)
伝説に導かれる女性が描かれる。
「西表島」は、他の島とは全く異なる原生林に覆われた島で、毎年行方不明者
がでるほどの深い山に、探検に向った大学生たちを待ち受けるものを。
「黒島」は、東大出のエリート女性教師が、島の子供達や、何事も
「だからよー」の一言で説明する理解不能な世界に困惑する不思議。
「与那国島」は最西端の島、台湾の方が近い与那国島には、その地の利を
生かし、島に果報をもたらそうとしたオバァが登場。
などなど・・・
沖縄本島からも本土からも遥か遠く離れ、厳しい環境で苦難の歴史を
刻んだ八重山諸島だが、不思議に豊かな気持ちにしてくれる物語。
辛く厳しい歴史、環境を理解しつつも、なんとも心がふんわりと柔らかく
なるような気分になるし、その風土や伝統も味わい深かった。
私もできることなら「だからよー」の世界に身を置き体験してみたし、
その不思議感を味わってみたいものです。
とても素敵な短編集でした。
わがまま母