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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

いじめの重大事態への行政側対応に関する今朝の毎日新聞の記事に関して

2017-08-08 07:29:37 | 受験・学校

いじめ 「重大事態」7割経験 8自治体は再調査 都道府県・政令市

(毎日新聞2017年8月8日 東京朝刊)

http://mainichi.jp/articles/20170808/ddm/001/100/158000c

この記事に対して、言いたいことは次の3点。

1:私の前の職場になりますが・・・。兵庫県川西市は「他の自治体で起きているいじめ自殺は、うちのまちでも起きる」と考え、教委の行った子どもの実感調査の結果をふまえ、子どもの人権オンブズパーソンを条例で設置することを決めました。その子どもオンブズが活動を開始したのが1999年4月のこと。そして、川西では、そのいじめ自殺への対応を念頭においた子どもオンブズで、中学校ラグビー部での熱中症死亡事故への対応もできました。

この子どもオンブズが川西にできて、もう18年たちますが・・・。当時の川西市の論理からすれば、この間に各自治体に子どもオンブズを設置しておけば、もう少しなめらかに重大事態への対応はできていたのではないかと。だからこの間、この調査に回答した自治体に対しては「おたくら、この十数年、何をやっていたの?」と言いたくなります。

2:川西の子どもオンブズは条例の規定をふまえて、教育行政からも独立していますし、首長以外の市の部局からも独立しています。なおかつ、条例によって、その市の部局や教育行政に子どもオンブズへの協力援助義務を課して、なめらかな対応を可能にしています。この調査結果を見ると、どこの自治体も、そういう制度の構想をしていない様子。どうしてそういう組織の設置を構想しないのか、ほんとうに不思議ですねえ。

3:遺族の調査・検証プロセスへの参加は、拙著『新しい学校事故・事件学』を読んでいただければわかりますが、ほんとうに重大事態に関する調査・検証を円滑にすすめ、いい形で着地させたいと思ったら、必要不可欠なものです。この調査結果を見る限り「おたくら、遺族ともめたいのか?」と、私などは各自治体の側に言いたくなりますね。

以上のことから、私としてはこの調査に回答した自治体に対して、「おたくら、もうちょっと、勉強しませんか?」「人口十数万人の川西市に、モデルはもうありますよ」というのが、記事への率直なコメントです。

<追記>

これから先、いじめの重大事態に限らず、およそ学校事故・事件の事後対応にかかわるのであれば、せめて『新しい学校事故・事件学』くらいは読んでから対応を考えてほしいよなぁ、首長や教育行政の関係者には・・・。

あと、この上記3のコメントの部分に関して言えば、この調査結果からすると「首長も教育行政も、訴訟という場に案件をもちこみたがっているのでは? その方が彼らにとっては楽なのでは?」という思いすら浮かんできますね。だから、今後はどこかで「首長と教育行政は訴訟が大好き」ということを念頭において話をすすめる必要がありますね。

重大事態が生じたときに、ぎりぎりまで訴訟にもちこまずに「これ、どうするんですか?」と、なにかと遺族から理詰めでジリジリ迫られることのほうが、首長も教育行政も嫌なんでしょうね、きっと。なにしろ訴訟に任せてしまえば、行政側顧問弁護士に窓口対応も含めてすべて「丸投げ」だし、何か問われても「訴訟の場でお答えしますから」と言って、遺族への説明や意見交換などから逃げることもできますし・・・。

しかし、そういう訴訟案件にすることが増えれば増えるほど、その場は楽かもしれませんが、結果的に首長も教育行政も、学校での重大事態発生時の対応力が弱まっていくんですけどね。なにしろ自分で重い課題を引き受け、人任せにせず、解決に向けてがんばることを「しない」わけですから、鍛えられなくなるわけで。で、ますます訴訟案件にすることしか考えられなくなる・・・。

また、そういう首長や教育行政の対応力が弱ければ弱いほど、行政側顧問弁護士の「メシのタネ」は増えますね、確実に。




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